6話 雑貨屋/一人目の勇者召喚
更新が遅れてすみません。
今回はひとりめの勇者が登場します。
1人目の勇者の戦争に参加するまでの流れが微妙だったので変えてみました。
俺が『冒険者ギルド』の入り口のドアをギイと開けると、右側の飲食店スペースで冒険者らしき屈強な男たちが賑やかに騒いでいる。
まだ昼間なのにも関わらず、木製のコップ(中身は酒)を片手に賑やかに騒いでいる。
その中の新人のようなひょろっとした男が俺に気づき、指をさしながら声を上げた。
「くっ黒髪……、あの男、黒髪だー!」
すると、周りに伝染するように「黒髪、黒髪」とざわざわと広がっていく。
(おいアス、この世界の黒髪ってどういう認識なんだ?)
『ああ、そういえば言ってなかったな。勇者は皆お前と同じ日本人だ。その勇者の別称はなんだったか覚えているか?』
(ああ、そういうことか……)
そういえば勇者は畏怖の対象で『破壊の使徒』って呼ばれているんだったな。
それで俺は奇怪な目で見られていたのか。
そう考えながらギルドの受付けのカウンターの忙しそうに書類を読んでいる20代前半くらいの受付嬢に声をかけた。
「すみません。身分証を発行していただけませんか?」
「あっはい。! ひっ……」
書類から俺の方へと目線を移し俺を見た瞬間、キリっとした知的そうな表情から一気に血の気の引いた表情になった。
やばい。これ完全に怖がられている。
「あっこれは、先祖が黒髪でそれが隔世遺伝したらしいんだ。おどかしてすみません」
「いっいえ。こちらこそ取り乱してすみませんでした。み、身分証はギルドカードになりますが、よろしいでしょうか」
「はい。お願いします」
受付嬢は机の引き出しから一枚のカードを取り出し、机上に乗せて俺に見せる。
「そのカードの右下の魔方陣に触れるとあなたの個人情報が表示されて手続きは終了です」
言われた通りに触れるとカードが眩しく光だし、やがて光が止むとこう表示されていた。
名前:ヨル・テンザキ 16歳
種族:ヒト族
冒険者ランク:F
称号:英雄
「なんだこの身に覚えのない称号。まあ、そうなるんだろうけどさ」
俺は誰に言うでもなくぼそりと呟く。
俺の呟きは受付嬢には聞こえるはずもなく、説明を続ける。
「冒険者ランクですが、これはギルドのクエストを一定数クリアすることで受験資格を得る、昇格試験に合格すると昇格できます。何か聞きたいこととかありますか?」
「いえ。大丈夫です。ありがとうございます」
と軽く会釈をした後、ギルドを出た。
△▼△▼△
「せっかくギルドに行ったのだからクエストを受注すればよかったのにな」
ギルドを後にし、商業区を見て歩いている俺に背後に顕現したアスが提案するように話しかけてきた。
「確かに依頼を受けるのは構わないが、周りに黒髪、黒髪言われているんだ。髪の色だけでも何とかしたい」
「なるほどな。それなら向こうの店に寄ってみたらどうだ?」
アスはそう言って進行方向の左側のつきあたりの店を指差す。
俺たちはその店に入ると、ショーケース内に奇妙な形の道具がずらりとならんでいる。
俺はそれらの物を食い入るように見ていると、店の奥からガサゴソと物音がした後、「いらっしゃい」と袖をまくった若い女の店主が出て来る。
その女性も予想通りわずかに表情が歪んだ。
アスは人の気配を察知すると、顕現状態を解除して見えなくなった。
「あの、髪の色が変わる魔法道具ってありますか」
「ああ、髪の色を変えるやつね」
とショーケースから止め具に小指の爪ほどの宝石が埋め込まれているチョーカーを取り出す。
「これはですね、髪と目の色を身につけた人の魔力と同じ色にします。ちょっと試してみてください」
俺はチョーカーを受け取り、身に着ける。店主から鏡を渡され、見てみると黒髪から黒が若干強めの紫色に変わっている。
「に、似合ってますね……」
「ありがとうございます」
嘘付け、紫色の髪なんて似合う奴いるかよ。
内心そう思いながら、店主のお世辞に淡々と返す。
俺は店内を見回すと、手のひら二つ分サイズのペタンと平たくなった革袋が目に入った。
「あれって何ですか?」
気になって尋ねると店主はその革袋を手に取り解説する。
「これはウエストポーチです。しかし、ただのウエストポーチではありません。
これには空間魔法が付与されているんですよ。だいたい容量は6畳の部屋に入るくらいです」
「そうですか。じゃあそれも買います。幾らですか」
「認識阻害魔法具は1万8千サジット、アイテムポーチは9万9千8百サジットで合計11万7千8百サジットです」
俺は金銭の入った袋から金貨11枚と銀貨8枚をだし、店主に手渡す。
「では2百サジットのお返しです」
と銅貨2枚の釣銭をもらって店をでた。
このときの俺の所持金は、銀貨数枚と銅貨が十枚ほどしか残っていなかった。回収した装備とか売るしかないな。
こうして俺とアスは商業区の探索を再会した。
△▼△▼△
ヴァルゴ王城の地下には儀式用の部屋が設けられている。
地下だというのに天井が高く、壁一面にはステンドグラスが張り巡らされている。
部屋の奥には複雑怪奇な模様が張り巡らされた円墳型の祭壇が存在感を出している。
そして、その祭壇の前には幾人ものローブを被っていた宮廷魔術師たちが、祭壇に向かって詠唱をしている。
その詠唱は数時間前より行っている影響から彼らには疲労が目に見えて蓄積し、今にも倒れそうだ。
だが、その長時間に及ぶ詠唱が今、終わろうとしている。
円墳型の祭壇の頂上部に祭壇全体を覆うような魔方陣が突如として現れる。
部屋全体が眩く発光しだし、青白い光りに包まれた。
やがて、その光りが治まるにつれて宮廷魔術師が気の抜けたような声をバタバタとその場に倒れてしまった。
「えっ……。なんだこれ……」
その中で次々に目の前の人たちが倒れていくという奇妙な光景を、祭壇の頂上で眺めていた一人の少年が、困惑したような弱々しい声を漏らす。
少年の特徴は黒髪黒目で整った顔つきのだが、今はそれを焦りの表情に歪ませながら、「意味がわからない」 や「これはきっと夢だ! そうに違いない」 などと現実逃避の叫びを上げている。
するとタイミングを見計らったように部屋の年季が入った大きな扉が重々しい音をたてながら開かれる。
華美なドレスを着た同年代と思われる少女と全身に甲冑を身に着けた従者たちが後ろに続いて儀礼用の部屋へ入っていく。
「いいえ。これは夢などではありませんよ、戦女神の権能を与えられし勇者様」
従者を連れた少女が聞いた人を安心させるような澄んだ声で言う。
そして、勇者と呼ばれた少年が自分の方へと視線を向けたことを確認し、さらに続ける。
「はじめまして。わたくしはここ、ヴァルゴ王国の第2王女のシャーロット・ヴァルゴと申します。以後お見知りおきを」
と両手でスカートを摘んで優雅にお辞儀をしたことに焦った少年は、慌てて自己紹介をする。
「あっ、はじめまして。えーと俺はキリト・サオトメです。こちらこそ、よろしくお願いします」
「では早速で悪いのですが、時間も押していますしので、国王のところまで案内します。わたくしの後について来てください」
王女と名乗ったシャーロットは口元に上品な微笑を浮かべて謁見の間へ案内する。
地上へ続く螺旋状の長い階段を上りきり地上へ出る。その間にキリトは作法などをシャーロットから教わる。
さらに天井が高く、広い廊下をしばらく歩いたところで、地下の扉に比べて真新しいように綺麗な扉の前まで来ると、シャーロットは「こちらで国王がお待ちしています」と入るように促す。
キリトはヴァルゴ国王から召喚された理由や、これからのことを聞いた。
まとめるとこうだ。
キリトは勇者として、ヴァルゴ王国含めた12国での戦争で勝利するための切り札として召喚された。
キリトには『戦女神』の権能が使うことができる。
戦争で勝利すると、全能神の力が宿った魔法道具が手に入り、望んだもの全てが手に入れることができる。
キリトは興味なさ気な風だったが、最後の『望んだもの全てが手に入れることができる』ときいた瞬間に目を大きく見開き、関心を持つ。
彼はこの胡散臭い話を信じたのは、単にキリトが信じやすいからではない。それにすがってでも手に入れたい何かがあるからだ。
「では、我が国の勝利のために尽くしてくれ」という言葉でキリトは国王との謁見を終えた。
そしてキリトは神々の権能が使われる神話大戦規模の戦争に参加することになった。
お読みくださりありがとうございました。
誤字、脱字などがございましたらご指摘ください。
テンプレ要素が強い話になりました。