5話 王都への道/冒険者ギルドへ
ブックマークありがとうございます。
今回は少し長いです。
―――アスとの修行が始まって2週間が経った。
今現在、俺とアスは王都へ向かうために山道を下っている。
隣を歩いているアスと修行の2週間のことを話しながら振り返える。
俺はその2週間で魔力操作を使って色々できるようになった。
身体強化や武器の強化もそうだが、前にアスが言っていた空中に足場を作っての移動や、武器に魔力を纏わせることも可能だ。
これは前の世界でアニメやラノベの知識を使い、かなり強力なものが完成した。
修行に使っていた草原の緑は掘り起こされた地面の土色に変わり、数々のクレーターや隆起した地面でもはや草原の見る影もなくなっている。
食料はそこらへんにいた『魔物』と呼ばれる生物を狩って、魔剣の炎で焼いて食べた。例えば、そうだなブラックハウンドやバーサクホースという種類だった。
・ブラックハウンド
全長2mほどの狼の魔物だ。単体では強くはないため集団で群れて活動している。全体的に黒い毛皮が特徴だった。夜行性。
普通に美味かった。
・バーサクホース
全長5mの馬の魔物、通常の馬より大型。単独で活動している。
知能が低く、動いているものがあればそれに向かって猛スピードで突進する。
馬刺しのような味。
「そういえば、ヨルはバーサクホースに乗ろうとして殺されかけていたな」
「ああ、あれは俺が馬鹿だった。なんであの時あのバカ馬を使役しようと思ったのか謎だ」
「ははは。蹄で頭を潰されかけていたな。やはり実はヨルも勇者(笑)だったんだな」
あまり過去を掘り起こさないで欲しい。
バーサクホースは低知能だが、見た目は結構かっこいいんだ。かっこいい馬には乗ってみたいと思わないか普通。
それに、あの時アスだって「ヨル! あの馬に乗ってみたくないか?」って子供みたいに目を輝かせていたじゃないか。
俺はアスをジトッとした目で見ていると、アスが急に真剣な顔つきになる。
「ヨル。魔力粒子で索敵してみよ。今、面白いことになっているぞ」
「面白いこと?」
俺は目を見開いて魔力粒子を可視化させる。魔力粒子の流れを感知し、そのなかで不規則な流れを見つける。
それを鮮明に見ようとさらに集中する。
「見えた。おいアス、この状況を面白いってひどくないか?」
俺たちは魔物、おそらくブラックハウンドの群れに囲まれている。
食料調達のときのために狩る群れは大抵10匹かそこらだが、今回はかなり多い。5、7、9……って数えるのが面倒になってきた。
軽く30はいそうだ。
こんな数相手にしている暇はないな。
俺はそう判断し、いつでも鯉口を切れるように左手を鞘の鍔の付近を握り、真剣な口調でアスに呼びかける。
「アス、一気にこの山道を抜ける。いつもの姿が見えなくなる“あれ”で隠れていてくれ」
「ん? “あれ”とは顕現状態を解除するやつか? わかった」
アスが納得したように頷くとアスの姿が見えなくなり、頭の中から「これでいいか?」と言う声が聞こえた。
俺は「ああ」と返事をし、魔力を纏い【身体強化】で高めた脚力で強く地面を蹴る。
その為かドゴゥッと大きな音を立て、地面に靴の大きさほどの窪みができる。
それと同時に、ブラックハウンドの群れのうちの一体がそこいら中に響くような雄叫びを上げる。
それを合図に獣のような呻き声を上げながら後方や両脇の木々の間から複数のブラックハウンドが並走俺と並走しているのが見える。
実際は強化している俺の方が速い。その証拠に並走している狼を一匹ずつ追いついている。やっぱ強化ってすごいな。
全身に魔力を纏わせ【身体強化】をしているときは目にも強化されているから魔力粒子を見ることができる。
俺はあと数十歩進んだ辺りで山道の両側に待ち伏せされていることがわかった。獣の分際で考えてやがる。
俺がその地点に到達すると両サイドから2匹が飛び掛かって来た。あらかじめ感知していた俺は飛び掛られる瞬間に抜刀術で2匹の首筋を狙って横に振るう。
強化の影響で脳の処理速度が向上し、動体視力が上がっている。
周りの時間の感覚が遅くなり、その中を普段通りの速度で動いているようだ。
だからブラックハウンドの飛び掛る動作がスローモーションのように見えていたから簡単に斬り伏せることができた。
斬られたブラックハウンドたちは「ギャウン」と甲高い声を上げ地面に落ち、息絶える。
俺は斬った感触で屠ったことに確信を持ち、一瞥もせずにさらに強化してブラックハウンドの群れを寄せ付けないほどの超スピードで山を下った。
その時、俺は不規則な魔力粒子の流れを感知していた。
そのことに俺はブラックハウンドの数が多い所為だと思い込んでいた。
知能が低いはずの魔物が集団で組織的に動いていたことに違和感を持つべきだった。
△▼△▼△
俺は今現在、王都に入るために聳え立つ城門の前で手続きの順番待ちをしている。
周りに建ち並ぶ城壁には等間隔に白鳥のような純白の翼を広げた女神が剣を掲げているエンブレムが描かれている。
俺は待ち時間を潰すのに、顕現しているアスと入国する国について話している。
「なあアス、エンブレムを見た感じこの国は乙女座と関係があるのか?」
「ああ、国名は『ヴァルゴ王国』だ。確かここの国民が崇めている神は『戦女神』と呼ばれていてな――」
「なんだ?」
そこでアスは「ふっふっふっふっ」とプルプルと肩を震わせて笑っている。
なんだ? どうした?
そしていきなりバッと顔上げ、周りに響くような高笑いをして叫ぶ。
「あっははははははっ滑稽だな!!」
なんだ? いきなり壊れたか。
アスはさらに捲くし立てるように続ける。
「聞くんだヨル! あの金髪下級女神な、自分の取り巻きや周りの下級神たちにいかに自分がすごいかを自慢して歩いていたんだ」
「へー、それで?」
「そして迎えた神々最強決定戦あいつは、一回戦で相手に権能を使わせることなく敗退! その戦闘スタイルから『豆鉄砲少女』と呼ばれているのだ。
神で在ろう者が『少女』だ。しかもその『少女』が今や崇められる存在になっているのだ」
おもしろいだろう? と顔を向けてくるアスに素っ気なく返しておく。
「いや、ごめん。何が面白いのか全然わかんないです……。
それよか周りの人たちが、変なモノでも見るような目で見てるからもうちょっと静かに笑ってくれないか? ただでさえ俺ら、周りと比べて浮いた格好なんだからさあ……」
ちなみに俺らの格好は転移した時と同じ格好だ。
俺は黒のパーカーとジーンズという黒を基調とした格好。
アスは肩を露出させた振袖のついた着物に膝下辺りまでの長い羽織、そして足の露出を控えているが、スラリとした脚のラインがわかるほどの細い袴を身に着けている。
「はっ。つい思い出し笑いをしてしまった」
俺はあんなにも盛大な思い出し笑いを初めて聞いた。
「おい、お前ぇらの番だ。早く進め!」
ある意味感心しながら俺はジト目でアスを見ていると、後ろから苛ついたようなドスの効いた男の声が聞こえた。
俺は「すみません」とその男に軽く頭を下げ、城門へ急ぐ。しっかし、かなり鍛え上げられていたな。武器を使うとしたら大型の戦斧てかだろうか。
俺たちは門兵のところまで進むと入国審査を受ける。
「――えー出身は?」
どうしよう早速躓いた。
俺が質問に躓くのがわかったのか自然なタイミングでアスが答える。
「我らは向こうにある山の頂上で隠居していたのだよ。だから出身地と言われればそこだな」
と、さっき下った山に指を差しながら流暢に説明する。
ナイスだアス! 助かった。
「すまないな。連れがコミュ障のおかげで不審になってしまった。我が答えるから続けてくれ」
と門兵に誰もが惹きつけられる様な微笑を浮かべながら言う。
おい、俺はコミュ障じゃない。この場を切り抜けられそうだから何も言わないが。
「そ、そうか……では次の質問だ。入国する目的は何だ?」
「それは―――」
俺の代わりにアスが次々と答えてくれる。なんか俺情けねえ。
さっきからあの門兵、アスのこと見すぎだろ。
ちらちらと見ては顔を赤くしているし、声も上ずっている。まあ、男なら仕方が無いと思うが。
「で、では身分証を提示してもらおう」
「我らは山から初めて降りたのだ。だから持っていないのだよ。すまないな」
「そ、そうか。では入国料として一人千サジット支払ってもらおう」
「サジット?」
「わかった。これだな」
俺は聞いたことがない単語に疑問を抱いていると、アスが袖口から銀色の硬貨を取り出して門兵へと手渡す。
すると城門の内側へ通してもらうことができた。
門兵が言うには、身分証は商業区にある『冒険者ギルド』で発行してもらえるらしい。
△▼△▼△
というわけで、俺たちは商業区内の大通りの両サイドに建ち並んだ店をキョロキョロと確認しながら歩いている。
昼間だからか、並んでいる露店には大勢の人たで賑わっている。肉を焼いたような香ばしい匂いを漂わせている店もある。
後で寄ってみよう。
俺はふと門兵が言っていた“サジット”について思い出し、聞いてみた。
「アス、さっきの門兵が言っていた“サジット”ってなんだ?」
「 “サジット”は硬貨の単位だ。考え方はヨルが元々いた世界と同じで1サジットと1円は同じだ。ただな、大まかな硬貨はこの3種類しかないのだよ」
アスは袖口から金、銀、銅の硬貨を取り出して説明してくれた。
それを簡略化するとこうだ。
一般的に使われている通貨
・サジットは全国共通通貨
・銅貨1枚:百サジット
・銀貨1枚:千サジット
・金貨1枚:一万サジット
これらのほかに白金貨という1枚あたり100万サジットの硬貨もあるらしいが各国の王たちの外交でしか使われないらしい。
単位名の由来は、100年前の『12神戦争』で《人馬神》の権能を持った勇者が勝利を治めた。その武勇を称えられ通貨の単位になったらしい。
硬貨をよく見てみると表側に、人馬が前足を上げている模様が彫られている。
「ヨル、あれじゃないか?」
急にアスがパーカーの裾を摘み、弾んだような声音で話しかけてきた。
「なんだ?」と隣を見ると、アスは右側の周りと比べて一際大きな建物を指差している。
その建物の看板にはアルファベットが歪んだ様なそれに近い文字で『Adventurer’s Guild(冒険者ギルド)』と書かれている。
「あったな『ギルド』。今思ったんだが、ここの文字ってアルファベットみたいだ」
「そうだな。覚えやすいだろう」
「確かにな」
と取り留めも無い会話をしながらギルドへ入っていった。
読んでくださりありがとうございました。
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