4話 魔力と身体能力の強化
ブックマークしてくださりありがとうございます。
今回は説明会のような話です。
よろしくお願いします。
「なあアス。こいつらをどう処理したらいいんだ?」
俺は苦々しい風に表情を歪め、周囲に散らばる盗賊達の屍骸を一瞥しながらアスに尋ねる。
「とりあえず。武器や金になりそうなものでも回収したらどうだ?戦利品の回収は基本だろう?」
「うっ。まあ、そうだが……」
俺もそうした方がいいんじゃないかとは思うが、死体をまさぐるのはかなり抵抗がある。ましてや、自分で斬った奴等だから少々罪悪感がある。
「触らなきゃだめか?こいつら、血でべっとりだ」
「それはお前が急所ばかり狙って斬っているからではないか。それにある程度の金がないと街にも入れないぞ。それでもいいのなら我は構わないが」
「ぐっ……、確かにそうだな」
俺は死体を向いて、苦虫を噛み潰したように表情を歪める。
死体からは新しい血独特の刺激臭が鼻腔を刺激し、嘔吐いてしまいそうだ。元に胃から何かが逆流して来そうな嫌悪感がある。
俺は「よしっ」と決心し、近くにある首が離れた所にあるリーダーだったモノへと徐々に手を伸ばし、ポケットなどを弄る。
――十数分後。
「……やっと、一人目、終わった。これと、同じ作業を、後10回……はっ…はははは…」
と俺は死体と反対側を向き、両手に戦利品の硬貨が入っているであろう袋と投擲用のナイフ数本を手に持ち、おぼつかない足取りで歩いている。
今の俺は傍から見ると、目からハイライトが消えて遠い目をしているだろう。
「流石に、ヨルの表情を見ているとかわいそうに見えてくるな。ふぅー、仕方ない」
近くで俺の様子を見ていたアスは小さくため息を漏らしそう呟く。
「おい、ヨル。大丈夫――そうには見えないな。我がやっておくからお前はそこで休んでいろ」
「そうか……なんか悪いな、アス。本当は俺がするべき事だったのにな」
「ああ、お前は気にせず休め」
アスは俺に休むよう促すから地面に崩れるように座る。
俺は顔を上げてアスを見上げるように目を向けると、アスはいたずらをする子供のように口元をニヤりとさせている。
「ヨルはそこで見ているのだぞ」
アスは3つ纏まって落ちている死体に目を向ける。
するとそれらの死体から硬貨が入っている袋や投げナイフといった武器だけが懐から勝手に動き出し、宙でそれらが一箇所に集まると、ふよふよと浮遊しながらアスに近づく。
そしてアスの足元に辿り着くと糸が切れたように地面に積まれた。
それらの作業は3秒も掛からなかった。
アスは俺に「どうだ?すごいだろう」といったようなドヤ顔を向けている。
言ってやりたいことがあるが、こみあげてくるものが治まらないからむっとした顔でアスを見ることしかできない。
それから1体ずつ終わるたびにアスは俺にドヤ顔を向けてきている。
少し鬱陶しくなってきた。大分治まってきたし、なんか言ってやるか。
「なあ。さっきからナイフや袋を浮かせてるのもアスの権能なのか?」
アスはドヤ顔から「よくぞ聞いてくれた」といった、トリックを説明していく探偵のように得意気な表情で言う。
「いや、違うな。これは空気中に漂う魔力に干渉してさらに自分の魔力を使うことで、任意の“現象”を引き起こすものだ。色々できて便利だ。
それに自分の魔力を媒体とする魔法よりも、使う魔力量は少なく済む」
これは神と契約した俺や勇者にしか使えないらしい。
俺も使ってみたくなった。
俺の心情を察してか、アスは俺にとって嬉しい提案をする。
「丁度いい、これから2週間、お前の特訓をするとしよう2週間もあればお前を我の権能抜きで世界最強に持っていくことができる」
「いいのか。こっちから頼みたいところだ」
「当然だ。我がヨルを勝たせると言ったろう」
俺が、この世界で最強―――
なんか興味がわいてきた。
「魔力操作では何ができるんだ?」
「そうだな……ヨルが喜びそうなものは応用して魔力で足場を作って空中を移動したり、その刀に魔力を纏わせて切れ味を強化させたりとかだな。
これができるようになると、魔力を全身に纏って身体能力を高める【身体強化】もできるようになるぞ」
アスは顎に手を置いて少し考えてから思いついたように言う。
「そうか。じゃあ、魔力による強化を応用したらあの炎の魔剣と同じでなくも『高熱を帯びた防御不能の刀』みたいなものができるのか?」
「ああ、当然だ。いきなりは難易度が高い。だから先ほど我がやっていたような、空気中の魔力を操作して物体を移動させるものからやってみるか」
「頼む」
アスは「ふっ」と小さく笑うと、俺の目の前から消えた。
するとすぐに頭の中からアスが話しかけた。
『ヨル、聞こえるか?』
「ああ」
『では、そうだな……お前の足元のナイフを持ち上げるところから始めようか。ナイフを見てくれ』
俺は頷き無造作に散らばる投擲用のナイフを見下ろす。
『集中してよく見ているのだぞ』
アスに言われたとおり見ていると一瞬、僅かに目が張ったような感覚におそわれ思わずまばたきしてしまう。
「うわっ」
ナイフの周りや空気中には先ほどまではなかった1cmに満たない光の粒子が無数に漂っているのが見え、小さく声を上げてしまった。
『驚いたか?今ヨルは我の目で見えているものを見ている。いつでも使えるようにこの感覚を忘れるなよ、その状態で魔力の操作を行うことになる。
それと、目の色が我と同じ灰色になるから魔力を操作しているときは気をつけるのだぞ』
「わかった。次はどうすればいい」
『空気中に漂っている魔力粒子で右手にナイフの柄を引き寄せるイメージをしてみろ』
俺は頷き手に引き寄せるイメージをする。
ナイフの縁に沿って魔力粒子が集まっていく。
俺は、ナイフがひとりでに持ち上がり、手に収まるイメージをする。
ナイフが地面から数センチ浮くと、ナイフの縁を覆う魔力粒子の光が強くなった。
次の瞬間――光がさらに強くなり、俺は一瞬眩しさに手で目を覆ってしまう。
――ビキッ
何か嫌な音がしたと思い、指の隙間から様子を見る。
すると、魔力粒子を纏わせていたナイフにはビキビキと無数の亀裂が入っていき、光が強くなる。
そして、バキンッと強い音をたて粉々に砕け散った。
俺は目を覆っていた手を除け、唖然としながら今までの光景を見ていた。
「失敗か?」
わかってはいるが思わず聞いてしまった。
『そのようだな。イメージが漠然としすぎている。それに纏わせる魔力が多過ぎだろう。何でもよいからヨルの納得するようなイメージをするのだ』
「納得のいくようなイメージか……」
念力のように手に引き寄せるのではなく、鎖みたいに絡め取るようにすればどうだろうか。
俺はその方がイメージしやすい。
そう考えていると、手のひらに空気中に魔力粒子が集まり、鎖を形成していった。そして足元のナイフに向かって落ち、ナイフの柄に触れるとジャラジャラと絡みついた。
『おお。いい調子だぞ。そのまま引き寄せてみろ』
「ああ」
と俺は鎖を引くイメージをすると、魔力粒子の鎖はずるずると手のひらに吸い込まれていきナイフが手に納まる。
うまくできたことに「ふぅー」と息をつくと、漂っている魔力粒子が見えなくなった。
「うむ。初めて魔力操作をしたとは思えないほどのできだな。
やはり、前の世界では魔法の世界を舞台にした書物が多いからイメージがしやすいのだろう?」
いつの間にか俺の隣に現れたアスが感心したように拍手しながら言う。
「確かにそれもある」
「明確にイメージができるのはよいことだ。魔力操作はこれから2週間、毎日ヨルの魔力が尽きるまで練習するとして、次は体術と身体能力だな」
「それは俺がかなり得意な分野だ」
「お前ができるのは素手の戦闘とある程度の抜刀術だろう?これから鍛えるのは剣術だ。さあ、早く準備しろ」
アスはそういうと左手に俺の持っている黒刀と対称的な白銀色の刀を右手に顕現する。
そして腕をだらりと下げた状態で俺に向く。
「なんだ? まだ刀を持っていたのか」
「ああ、いずれはヨルもこいつの世話になるだろう」
アスは刀を目線まで持ち上げ、刀身を一通り眺めるように見てから刀をだらりと下げて続けて言う。
「言い忘れていたが、身体能力と体術の鍛え方は実践形式で我と戦ってもらう。つまりなんでもありだ。
魔力制御でもヨルが得意な不意をつくやり方でも使ってくれて構わない。
2週間でこの前の魔剣使いなんぞ相手にならないくらいにはしてやるから覚悟するのだぞ」
「わかった。よろしく頼むよ!」
俺もそれに対抗するように黒刀を抜き、一気にアスへ近づいていき、刀同士がぶつかる。
今日の修行が終わったあと、魔力粒子を鎖状にして絡め取る方法で残り戦利品を回収した。
回収した武器やお金はアスが「管理は我に任せろ」と胸を張って言っていたから大丈夫だろう。
結構あるんだな……何がとは言わないが……
こうして俺とアスの2週間に及ぶ修行が始まった。
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