表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/23

17話 再戦、牛若猛①

一週間ぶりです。

久々に書いたのでいつもどおり書けているかとても不安です。


 夜は瓦礫に埋もれた状態から起き上がり、【身体強化】を使って一瞬で猛の正面に移動する。


「派手な登場でご苦労なことだ。わざわざ斬られに来るとは」


「そう言う台詞を言う奴は大抵負けるってオチだぜ?」


売り言葉に買い言葉で返した猛に夜は「ふっ」と鼻で笑って返す。


(ここでは戦いずらいな)

と夜は室内を見回してから、オリビアに視線を向ける。


オリビアは夜と目が合うと、夜が考えていることを察したように頷き、【転移魔法】の準備を始める。


夜は正眼に刀を構えると、猛もガントレットが装備された両手を顔の前で構える。


先に動いたのは夜だ。


一気に地面を蹴り、間合いを詰めると、リーチの差を生かして猛の拳が届かない位置から刀を上段から振り下ろす。


猛は左手の腕で防ぐと、即座に右ストレートを夜の顔面に放つ。


夜は一歩分後ろに下がって回避し、瞬時に伸ばされた肘の付け根目掛けて刀を振り上げる。


猛は直ぐに左手のガントレットで守りながらバックステップで距離をとる。


夜は両手を顔の前で構える猛を見据えながら、横目でちらっとオリビアを見ると、頷いて返された。


転移の準備ができたようだ。


夜はニヤリと笑い、挑発するように言う。


「さっきから逃げてばかりだな。斬られるのがトラウマにでもなったか?」


「はっ、まともな一騎打ちしないような奴に言われたくねえよ」


「それが俺の戦い方だからな。ルールのある試合じゃないんだ。勝つために手段を選ばないのは当たり前――っだ」


夜は言い終えると同時に猛との間合いを詰めると、猛もそれを待っていたかのように、同時に地面を蹴る。


夜は間合いを詰めながら、夜は刀を猛の心臓を狙うように切っ先を向けると、猛はそれに合わせて左肘を引いて備える。


猛が刀の届く距離に入った瞬間に、夜は突きを放つが、猛の左胸に刺さる前に猛に左手で刀身を掴まれることとなる。


「なに!」


と夜は驚いたような声をあげると、猛はニヤリと口元を歪ませ、夜の顔目掛けて拳を振るう。


夜は左手を柄から離しながら、左腕に集中的に魔力を流して強化する。


猛の拳が顔に当たる寸前に強化した左腕で拳を弾き、その腕を掴むとその腕を捻りながら自分の左脇に挟むように固定する。


さらに、タケルの右肘を反対方向に煽っていく。


夜の間接技によってタケルの肘はミシミシと悲鳴をあげ、タケルは片目を瞑り苦悶の表情を浮かべる。


そのとき――

夜たちの地面に魔法陣が浮かび上がると、二人の姿が食堂から消える。

オリビアが【転移魔法】を使って夜が望んだ戦いやすい場所へとばしたのだ。


「私たちも避難します。皆さん、早くわたくしの転移陣に入ってください」


イリーナとジネヴラは速やかに、オリビアを中心とした転移陣へ入っていく。

マグヌスも入ろうとしたところで、オリビアは右手を向けてマグヌスの足元に魔法陣が展開される。


「マグヌス、あなたはヨルさんの所へ行きなさい」


マグヌスは「え?」と間抜けな声を上げながらその場から消える。


オリビアたちもその後に安全なところへ転移して行った。


△▼


 オリビアたちが非難した先は、魔王城の地下室だ。


地下室は体育館ほどの広さの部屋で、四方の壁には大規模かつ複雑な魔法陣が付与されている。


既に複数人の魔族の兵士やメイドたちが暗い表情をしている。


だが、オリビアが転移した途端に第一にそれを発見した兵士が歓喜の声を上げる。


「魔王様は無事だぞー!」


すると、「ああ、よくぞご無事で…」と安堵の声を漏らす者や、感極まって涙ぐむ者たちもちらほら現れる。


そこへ一人の魔族の兵士が訝しげにイリーナたちを見ながら言う。


「魔王様。その人間たちは?」


「この方々は同盟を結んだ、ヴァルゴ王国の冒険者とその一行です」


オリビアは自己紹介するように促すと、イリーナ、ジネブラの順に名乗る。


「イリーナ・メイデンと申します」


「ジネブラというんです」


イリーナは丁寧に腰を折って優雅にお辞し、ジネブラは右手を上げてニコッと無垢な笑みを向ける。


すると、ジネブラは背負ったリュックから食堂で食べていたパンを取り出し、食べ始める。


それを見たイリーナは一瞬、目を見開いて驚くが直ぐにいつもの華麗な表情へ戻す。


一通り皆が落ち着いたのを確認し終えると、オリビアはよく響く声で、地下室によく響く声で言う。


「現在の状況ですが、魔王城にタウロスの勇者が単独で攻めて来たことがご存知でしょう。今はその勇者と、先ほど同盟を結んだ冒険者の一人、ヨル・テンザキさんが戦っています」


「ただの冒険者の人間が、勇者に勝つことができますか?」


一人の魔族兵がオリビアに尋ねる。


「彼はただの人間ではありません。神と契約し、『勇者』いえ、それ以上の力を持っています。

わたくしたちの国に攻めて来た勇者の撃退を他人任せにしなければならないというのは嘆かわしいことですがどうかご了承ください。力及ばず申しわけありません」


オリビアは深く腰を折る。


一瞬、沈黙がオリビアたちのいる地下室を包む。

だがすぐにジネブラがパンを咀嚼している音が微かに聞こえる。


沈黙を破ったのは魔族兵たちのオリビアを励ます言葉だった。


「どうか頭をお上げください、魔王様」


「俺たちも魔王様が信じた人間を信じよう!」


魔族兵たちが誰一人と不安を言わず、オリビアを賛同していることに、オリビアは下げた頭で顔を隠し、人知れず涙を流していた。


その横でイリーナもとある決意をする。


自分もオリビアのように部下たちに慕われるようになろうと。



△▼


タケルは関節技から抜け出そうと右足で前蹴りを夜の腹に放つ。

その蹴りは、夜が咄嗟に掴んでいた腕を放し、後方に跳ねたことによって回避された。


だが、結果的に夜とタケルとの距離をとることはできた。


猛は右腕を押さえ、苦悶の表情を浮かべながら怒気をはらんだ声で言う。


「お前ぇ! まともにタイマンする気はねえのか!」


「お前はどんな戦いをまともなタイマンだと言っているかは知らないが、俺は勝つためには手段を選ばないでいるつもりだ」


夜は涼しい顔で猛を見据えて黒刀を正眼に構える。


「お前はまた卑怯な手段で相手を怒らせているのか」


夜の後方から凛とした女性の声が響く。声の正体は言うまでもなくマグヌスだ。


「あれ、お前も来たのか。この場は俺一人で足りているんだが?」


「ワタシはオリビア様に言われてきた。戦いが終わった後にお前を帰すためにな」


「そうか」


「だが、――」


マグヌスは右手に魔法剣を展開させて、夜の隣に並ぶ。


「さっきまでの戦いぶりを見ると、ワタシでも充分に相対できそうだ」


マグヌスの言葉に猛は方眉をピクリとさせると、その様子にマグヌスは「ふっ」と鼻で笑う。


「二対一か。だったらこっちも本気を出すぜ」


猛はにやりと笑みを浮かべると、猛の周りに空気中の魔力が急激に集まりだす。


「『我こそは『破砕』と『怪力』の権能を司る金牛神なり。我が権能を持ってして仇なす愚者に断罪を与える!』」


詠唱を終えると、猛を中心に集まっていた魔力が紅色の竜巻上に渦巻く。


夜とマグヌスは武器を構え、警戒するようにその竜巻を見据える。


やがて竜巻が収束していき魔力が弾ける。


竜巻の中から出現した猛はさきほどとは変わり果てた姿となっている。

頭に闘牛の角を生やし、全身には鈍い光沢を帯びた紅色の鎧を纏い、体表は【身体強化】を使ったときと同じように紅色の魔力で覆われている。


変化した猛の姿に、マグヌスは焦るような口調で夜に言う。


「おい、ヨル・テンザキ。あいつ、急に魔力が膨れ上がったぞどういうことだ」


「知るか! 俺に聞くな。それよりも警戒を怠るな!」


「何から警戒を怠るなって?」


突然、後方から猛の声が聞こえ、夜は咄嗟に【身体強化】しながら振り返る。


だが、それよりも早く繰り出された猛の拳が夜の側頭部に直撃し、勢いを殺せぬまま遠くへふき飛ばされる。


マグヌスは「なっ!」と驚きの声を上げ、バックステップで距離を取ろうとするも間に合わず、猛の後ろ蹴りを受けてしまう。


咄嗟にマグヌスは両手に作りだした魔法剣で防いだが、夜とは反対方向に蹴り飛ばされてしまった。


「すげー! これが【権能解放】か。さっきまでとは大違いだ! これなら誰にも負ける気がしねぇ! なあ天裂夜!」


猛は両手を空に掲げながら大声で歓喜の声を上げている。


一方、十メートル近く殴り飛ばされた夜は【身体強化】していたおかげで、致命傷を免れたが脳震盪を起こしてしまった。


猛が何か言っている間にかろうじて意識を回復させたが、淀んだ視界に耐えて体制ぐらぐらと体制が安定しない体を無理やり起こすと、アイテムポーチからポーションを取り出して一気にそれを飲み干す。



すると、鮮明になった夜の視界に、猛の向こう側でマグヌスがよろけながらも立ち上がっているのが見えている。


(【権能解放】だって? 前にそんな単語を聞いたことがあるが、ここまで出鱈目だとはな……。

どうやって倒してやろうか)


充分に回復し、思案を巡らせる夜は「くそっ」と悪態をついて再び猛に黒刀を向ける。


すると――

「お困りのようだな、ヨル」


夜の肩に左手を乗せたアス声が夜の耳に入る。

夜は目だけをアスへちらりと向け、猛を警戒しながら尋ねる。


「ああ、これはかなり難しい。あいつに何か弱点とかあれば教えてくれないか?」


「我に【権能解放】をさせてくれとは言わないのか?」


「いける所まで自分で戦ってみたいからな。どうしてもだめなら頼るかもしれない」


「そうか、ヨルらしいな。では、黒刀そいつに新しく能力を付け加えておこう」


遠くでは猛が、鬼のような形相を浮かべ、「邪魔をするなー!」と夜とアスに接近している。


アスは右手を向けると、地面を突き破って現れた紫色の大蛇が猛の身体に纏わりつく。


猛は拘束を解こうと必死にもがくが、緩む気配も無い。


「人間同士の戦いに我が介入するのはあまりよくないが、この際だから仕方がないだろう」


夜に呟きながら、アスは左手を黒刀の鍔に重ねると、黒紫色に光が鍔から切っ先まで通る。

どうやら付与が完了したようだ。


「では魔力を流してみてくれ」


夜はアスに言われたように魔力を流すと、空気中の魔力が黒刀に集まる。


そして、大きな噴出音と共に黒紫色の魔力が刀身を纏い尽くすように噴き出される。


やがてその魔力は膨れ上がっていき、纏っている魔力のオーラが夜の頭より、二メートル近く上まで伸びる。


「我は黒刀こいつにお前の魔力を増幅させる能力を付与をした。

こうするとヨルの【身体強化】も前とは比べ物にならないほど強力になるだろう」


「ありがとう、アス」


「では、我は顕現状態を解くしよう。死ぬんじゃないぞ」


「わかっている!」


アスクレピオスの姿が消えると夜は黒刀を一振りし、刀身から膨れ上がった魔力を刀の形に収束させる。


その頃には猛を拘束していた大蛇は魔力粒子となって空気中に雲散していた。


「さあ、第二ラウンドといこうじゃないか、牛若猛」


夜は【身体強化】で全身に魔力を流すと、猛との間合いを詰めるべく一気に地面を蹴る。






読んでくださりありがとうございます。

誤字、脱字や気になるところがございましたら気軽にご指摘ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ