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13話 出国/タウロス王国の勇者

アクセス数が累計5000を超えました。

読者の皆様、ありがとうございます。

これからも『黒刀使いの勇者殺し(ブレイブスレイヤー)をよろしくおねがいします。 長文すみません


 公爵邸の玄関前では、1台の馬車に2頭の馬が大人しくつながれている。

その馬車にハリー公爵の従者たちが、食料や衣服などの必需品を積んでいる。


「くれぐれも娘をよろしく頼んだぞ。イリーナはたまに無理をするところもあるから心掛けてほしい」


ハリー公爵は涙ぐみながら夜と握手を交わしている。

やはり十数年成長を見守ってきた愛娘と、一時的とはいえ離れてしまうことに感極まってしまったのだろう。


「はい、お任せください。なんとしてもイリーナ様の安全を保障しますのでご安心を」


夜は握手しているのと反対の手で自分の胸板を軽く叩き、頼もしそうに応える。

ハリー公爵は、夜の真剣な眼差しにより一層頼もしく思えたのか、堪えていた声を「うぅ~~/////」と漏らしてボロボロと涙を溢す。


「お父様、泣きすぎです。

私は容量よくやっていくつもりです、ので何も心配ありません。お父様こそ、健康に気を使ってくださいね」


と呆れた口調で言うも、鼻を赤くして若干涙目になっている。

寂しい思いを噛みしめ、気丈にふるまう娘にとうとう耐え切れなくなったのかハリーは「おお~~!!」と怪獣のような声をあげるとイリーナの細い体躯を抱きしめた。


イリーナも父親の背に手をまわし抱きしめ返す。


夜は気を使って馬車に目を向けた。すると、ある重要なことに気がついた。


「馬の操縦ができない」


「でしたら、私がお教えしますから心配いりません。

その代わりに、旅中に私に剣術を教えてくれませんか」


いつの間にか復活したのかイリーナは、夜の独り言にこたえて笑顔を向ける。


「それくらいは、問題ありません。よろしくお願いします。いい父親ですね」


「はい。聡明で頼れる自慢のお父様です。それに、抱きしめてもらったときに色々とアドバイスも頂きました。私を頼りにしてください」


「それは心強いです」


夜は頷いて返すと、馬車の荷造りをしていた従者が出発の準備が完了したことを伝える。


「では、そろそろ行きましょう。ジネヴラを呼んでください」


「ジネヴラならここにいるです」


夜が従者に頼むと、いつの間にかジネブラは夜の横で服の袖を引っ張って子供らしい笑顔を向ける。

全員揃ったのを確認し、夜たちは公爵邸を出発した。


夜は馬車の操縦席でイリーナの隣に座り、操縦の仕方を教わっている。


その間、ジネヴラとアスは荷台で何やら夜の話をしているようで、

「えー、ヨルさんがですか? 意外です」

と、ジネヴラの楽しそうな声が馬車の手綱を握る夜の耳に入っている。


夜はアスとジネヴラの会話が気になっているようで、自分の名前が聞こえる度にちらちらと横目を向けている。


(楽しそうなのはいいが、あまり俺の名前を出すのはやめて欲しい。気になって仕方が無い……)


夜は正面に視線を戻しながらそう思っていると、イリーナが自分をじっと見つめていることに気が付いた。


「どうしましたか? イリーナ様」


「あの、普段はいつも通りの話し方で話してくれませんか? あと、私の事は“イリーナ”と呼んでください」


夜にイリーナは頬を赤くし、恥ずかしそうに言う。


「助かるよ。俺もこっちの方が話しやすい」


と夜はイリーナに柔らかい表情を向けて言う。

するとイリーナは呆気にとられたような顔をし、不思議に思った夜は「ん? どうかした?」と尋ねる。

それに対してイリーナは微笑を浮かべながら嬉しそうに話し始める。


「ヨル様は普通に笑ったりするのですね。安心しました。

普段はなんか、こう、あまり表情に変化が無いといいますか……」


(ん? 俺ってそんなに変化がないか? いや、そんなことはないはずだ。そう信じよう)


イリーナが何気なく言ったことに夜は内心、色々考えて首を傾げる。


「す、すみません。なんかお気を悪くさせたみたいで――」


「いや、ヨルは怒っていないぞ。あれは考えているときの顔だ。その証拠に丸めた右手を顎の下に置いているだろう?」


夜が何も言わなくなったことに『不機嫌にさせた』と勘違いしたイリーナは慌て謝りだしたがアスが問題ないことを伝える。


夜は自分の中では答えがでなかったようで、アスに聞くことにした。


「なあ、アス。俺って普段、あまり表情の変化ってないのか?」


「まあ、強いて言うとないな。しかし、我等みたく、それなりに親しくなった者たちにしか表情を見せていないところがあるな」


アスの出した答えにイリーナは、「親しい……」と顔を朱に染めて俯いている。


それに対して夜は「そうなのか?」と再び考え込もうとするが、アスが続けていったことに現実に引き戻されることになる。


「それと、例外を挙げるなら戦闘中に口元を三日月みたく歪ませて笑っているときがある」


「嘘だろ? そんなことはないよな」


夜はの表情はピシッと固まり、イリーナに縋るように見る。

しかし、イリーナは気を使う風にしながらも、徐々に視線を逸らされていく。


そのことに夜はショックを受けたが、さらに追い討ちとして


「あ、ジネヴラも見たです」


とジネヴラが荷台から手を挙げてニコニコした笑顔で言い、夜の精神に止めを刺した。


そんなこんなで城門に辿り着いた夜たちは、門兵に通行許可書を見せてヴァルゴ王都を旅立った。




ヴァルゴ王都の城門は西と南東の2箇所ある。西側の門は夜が山を下って入った方で、南東側が今出たところだ。


何故そんな半端な配置なのかというと、北にはカプリコーン王国、東はタウラス王国と国境が隣接しているからだ。

《龍人族の峡谷》はそれらの国を間で分断するように縦に広がっている。


《龍人族の峡谷》に入るには、タウラス王国の国境線を越える必要がある。そして、城門に沿って北に進むと峡谷の入り口に辿り着ける。


夜たちは、タウラス王国に向かう途中にある平野を馬車で移動している。

この平野はヴァルゴ王国の周辺国が戦争をする際よく白兵戦の戦場として使われるくらいかなり大規模な平野だ。


「イリーナ。この調子で進むと、大体どれくらいにタウラス王国に着くんだ?」


馬車の操縦をしている夜は、地図を広げて経路案内をしているイリーナに尋ねる。


「そうですね。早朝に公爵邸を出発したと考えて、城門を出たのは10時頃でした。今のペースで進むと大体4日、5日はかかると思ってください」


「……そうか、ありがとう」


夜が若干げんなりしながらお礼を言うと、イリーナは「くすっ」と笑いながら「いえ」と正面を見る。


すると後方の荷台の方から、ぐ~と可愛らしくお腹が鳴る音が聞こえた。

すぐに「えへへー、お腹空いたです」と恥ずかしそうに言う声からジネヴラだとわかった。


「そういえば、お昼はまだでしたね」


「じゃあ、一旦止めて休憩しよう」


と夜は提案し馬車を止める。

イリーナは荷台から桶を2つ取り出し、馬の前に置く。

そして手をかざすと、手のひらに魔法陣が現れた次の瞬間に、バケツをひっくり返したような量の水が2つの桶に注がれた。


それをイリーナの少し後ろで見た夜は「おー」と感銘の声を漏らす。


「すごいな。魔力が尽きない限り水を飲めるのか?」


「そうですよ。これは【生活魔法】の1つでして、他にも料理をする際の火を点けたり、お風呂の後に髪を乾かすための温風を出したりすることができます」


「へー、便利だな。俺にも教えてくれないか?」


「だめですよ? 私から仕事を取らないでください。何もかもヨル様に任せきりでしたら、私が来た意味がないじゃないですか。こういうことは私に任せてください」


「うん、ありがとう」


「いえいえ」とイリーナは満足そうに微笑みを浮かべるので、ついつい夜も頬を緩めてしまう。


そんな時、夜は自分の袖を下から引かれるのがわかった。

夜が目を向けるとジネヴラが背中を「えへへ」と無邪気な子供らしい笑顔を浮かべている。

ジネヴラの背中には、背中を覆う大きさのリュックサックを背負っている。


「どうしたんだ?」と夜は屈んでジネヴラと目線を合わせる。

ジネヴラはその小さな右手を後ろに回しリュックから刃渡り50cmほどの斧を軽々と取り出した。それを見た夜は「うぉ!」と驚いた声を上げる。


(いったい、その小さな体躯の何処からそんな力がでるんだ?)

そう思い、夜は苦笑いを浮かべている。


「ヨルさんの手が空いてるならジネヴラに戦い方を教えてくれないです?」


ジネヴラはさらに右手を持った片手用の戦斧を軽々と上下に持ち上げてアピールする。

夜は「う~ん」と考えるようにし、やんわりと断ろうとする雰囲気をだす。


「龍人族の身体能力は、全種族の中でも1,2を争うほど高い。やってみてもいいと我は思うのだが?」


それを察知したアスは後ろからジネブラの両肩に手を置き、夜に応じてもらうように説得する。


「まあ、アスがそういうなら……」


「やったです」


夜が折れると嬉しそうに両手を空に掲げる。


「では、早速はじめようか。こっちを使うといい。【不殺】が付与されている」


アスは夜に白銀色の刀を手わたす。


それを受け取った夜はまじまじと刀身を眺めている。

すると――


「スキありです!」


両手に1本ずつ斧を持ったジネヴラが素早い速度で夜に接近し、右手の斧を振るう。


だが、不意打ちだったのにも関わらず夜は俊敏な足捌きでジネヴラの後ろに抜けた。


「声を上げながら不意打ちするやつなんてあるか」


夜は普段より少し強い口調で言いながら、刀を正眼で構えてジネヴラの両手の斧に目を向ける。


(複雑な魔法陣が何重にも刻まれてるってことは、バラガンが使ってた【身体能力上昇】と【不壊】が付与されたやつか。

となると――)


「当然、【身体強化】を重ねがけするだろうな」


夜が斧のことを思い出している頃、ジネヴラの斧に刻まれた魔法陣が発光しだし、空色のオーラがジネヴラの身を包みはじめる。


夜もそれに対抗するように【身体強化】を使う。

既に強化しているジネヴラは目の前から消える。


強化していなければそう見えただろうが、夜も強化の影響で動体視力も上がっている。


だから夜は斧を振りかぶり、一直線に迫り来るジネヴラを目で追うことができている。


ジネヴラが夜の間合いに入った瞬間――

夜はジネヴラの持つ2本の斧が交差している部分を下から刀を振り上げて、間を裂くように払う。


それにより、力負けしたジネヴラは両手を広げられ、頭と胴ががら空きな状態になってしまう。


ジネヴラは弾き返されたことに「うわ!」と目を丸くし、驚いた顔をする。


そこへ夜は左手に手刀を作り、軽くジネブラの額に落とす。


勝負有りだ。


――コツンッ

といい音が鳴り、ジネブラは「あうぅぅ」と額を両手でさすっている。


「いたい、いたいですぅ」


と夜を見上げて目に涙を貯めてウルウルした瞳でうったえている。


「軽くやったつもりだったんだが……。まあ、戦いに痛みは伴うものだ。だから――」


「……うぅぅぅぅ、ひっく、うぅぅぅぅ……」


「あれ? そんなに痛かったか? ごめんな、加減できなくて」


最初は強い口調で言っていた夜だが、ジラヴラが肩を震わせ、だんだん涙声に変わりつつあるのに気付き慌てて宥める。


食事の準備をしていたイリーナも夜たちの異変に気付き、「どうしましたか?」と小走りで近づく。

そこに、一部始終見ていたアスが


「さっきまでジネヴラとヨルが模擬戦をしていてな。夜がとどめに、ジネヴラの額に強化したチョップしたのだ。それでこうなった」


と口角を上げ、面白がって言うのでアスがイリーナに伝える。

すると、


「ヨル様? いくら相手が龍人ドラゴニュートだとは子供ですよ。少しは加減をしてください」


「はい……。本当に申し訳なく思っています……」


周りの気温が下がるような冷たいイリーナの口調に夜は肩を震わせ、口調もできるだけ丁寧になる。


そのタイミングで、ジネヴラが「うぇえええん!」と滝のように涙をボロボロと流し出しだす。


それが引き金となり、イリーナは夜に捲くし立てるように叱り付けるように言う。

夜はイリーナのあまりの剣幕に気圧され、


「だいたいですね、こんな小さな子どもになに強化した状態でチョップしているのですか? ヨル様ほど強ければ加減するのだって簡単ですよね!?」


「いや、強化しててもちゃんと加減してまして……」


「いいですか、ヨル様? きちんと加減できていればこうなっていないのですよ」


「……はい、本当に反省してます」


「悪意があったわけではなさそうなのでこれくらいにしておきます。

今度から気をつけてください」


そう言うと、イリーナはジネヴラの頭を「よしよし」と優しく撫でている。

ジネヴラが泣き止んだのを確認すると、「昼食の準備ができましたので馬車に戻りますよ」と


馬車へ戻る途中夜は「ごめんな、ジネヴラ」とジネヴラの頭を撫でると「うん、ゆるすです」と目元を赤くし、夜に子供らしい無邪気な笑顔を向けると馬車までトタトタと走っていく。


「ふふ、だいぶ叱られたな」


「ああ、加減するのって難しいんだな」


「実はあのときな、ヨルが斧を払った時点でジネヴラの強化は切れていたんだ」


「そうだったのか。どうりで……」


「その辺もしっかりと見極められるように、訓練も必要だな」


「そうだな」


すると、イリーナとジネヴラが慌てた様子で駆け寄ってきた。


「大変です! 私たち、敵兵に包囲されています!」


イリーナの緊迫した声が聞こえ、夜とアスは索敵を巡らす。


「だいたい十数人か。なんだ、一人だけずばぬけて強い! なんだこいつ!」


「そいつは『勇者』であろうな。この魔力は、タウロスか」


「冗談……だろ」


夜は驚愕の表情を浮かべて一人の勇者に目を向ける。


その頃、夜が目を向けた先では一人の黒髪の少年が口元を獰猛に歪め、凶器に満ちた笑みを浮かべていた。


読んでくださりありがとうございます。

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