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12話 薙刀の少女/夜への依頼

今日中に投稿すると言っておきながらももう少しで日付が変わる時間になってしまいすみません。

7/15 銀華の姓を変更しました。


――これは夜が異世界へ転移する前の話だ。


 夜がナンパされた2人の少女を助けた次の日のことだ。


夜は昨日遊び歩いた疲れがとれず、寝不足であくびをしながら高校の校門をくぐった。


すると、「やぁあああ!」と後方から早いテンポの足音と共に少女の鋭い掛け声が聞こえて、それがだんだん夜に近づいている。


夜は「うん?」とぼやっとした頭で振り向くと、一気にその眠気が覚めることになった。


夜のすぐ眼前には競技用の薙刀の切っ先が迫っていたからだ。


夜は咄嗟に、上体を反らしてギリギリのところで躱すことができたがかなり危なかった。


そしてバックステップで間合いを取りながら体勢を整える。


夜は薙刀を振るった、ポニーテールを高く結んだ少女を見据えて苛ついた口調で言う。


「なんだお前。いきなりそんな物騒なもの振り回しやがって! 当たったらどうするんだ!」


「そうよ! 当てるつもりであんたを攻撃したんだもの」


とその少女は薙刀を中段に構えて悪びれる様子もなく言う。

約168cmと女性にしては高い身長、制服の上からでもわかる細身引き締まった全体的にバランスのよい体躯の少女が取った構えはなかなか様になっている。


そのことに感心した夜は「へえ……」と声を漏らし、右足を少し前に出す。

そして両手をだらりと下げた自然体で対峙する。


(あからさまに構えていたら周りから白い目で見られるだろうからな)


だが夜たちは、周りから変人を見るような目で見られている事に気付いていない。


一分くらいだろうか。

動かずに、ニ人は同じ構えのまま対峙していると、夜は「ふっ」と息を漏らし、踵を返して早歩きで再び校舎に向かいだした。


「ちょ、ちょっと! 何処行くのよ」


と薙刀の少女は後方からポニーテールをゆらしながら駆け寄り、前を歩く夜の肩を掴む。


「いや、学校に決まってるだろ。じゃなきゃこんなところにいない」


夜は『何を言っているんだ?』と言いたげに淡々とした口調で答える。


少女は周りを見渡し、注目を浴びていることに「あっ」と声を漏らし、顔を羞恥の色に染める。

夜はそれを一瞥すると再び足を進め、校舎へ入っていった。



――その日の昼休み


「見つけたわ!」


廊下側の最後尾の席に座る夜に向かって今朝の少女がビシッと指をさしている。

夜は「はぁ~」と深く溜息をつくと、無愛想に席を立つ。


「何のようだ? 俺はこれから購買からパンを買わなければならないんだ」


と、夜は少女の横を通り過ぎようとする。

だが、その少女に肩をガシッと音が鳴るほど強く掴まれ、行く手を阻まれる。


「ちょっと、こっち来なさい!」


少女の手は肩からネクタイへと移動し、夜が返事をする暇も与えず半ば連行するように屋上へ引っ張って行った。




「何で俺に絡んでくるか、いい加減説明してくれないか」


夜は空腹ということもあり、苛ついた口調に加えて壁に寄りかかって足元タッピングという威圧的な態度になっている。


「私のこと見たことあるでしょ」


「お前の? ああ、思い出した。昨日のナンパされてビクついてたやつの一人か」


「なっビクついてなんかないわよ! 私なんてこれさえあればあんな奴等ぼこぼこにできたわよ!」


と少女は競技用の薙刀を右手に掲げる。


「やっぱ武器って不便だな。それがないと戦えない。

その点、素手はいい。自身の身体と技術があれば戦える」


「くっ何よ! ちょっと強いからって――」


「だが、今朝のお前の構えはなかなか様になっていた。余程鍛錬を積んだんだな。何年も続けていることは尊敬できると思う」


「~~////」


夜は感心するように言葉を続けた。夜の不意打ちの賞賛に調子を崩した少女は、俯くとぶつぶつ言い始める。


(何か不味いことを言っただろうか)

そう思った夜は「なんか、ごめんな」と困った風に言う。

すると、


「あんたに褒められても、べ、別に嬉しくないわよ!」


夜を指さし、顔を真っ赤にして言う。


それを見た夜は「ふっ」と口元に微笑を浮かべる。

自分以外に強い人がいるかもしれない。

そのことに興味を持った夜は、


「本当に今更だが、お前の名前、何ていうんだ?」


「ふん、人に名前を訊ねるときはまずは自分からっていうお約束があるでしょ」


(くっこいつ。ここでネタを入れてくるとかどういう神経してるんだよ!)

と言いたいのを堪え、片眉をヒクつかせながら自己紹介をする。


「俺は天裂夜だ。趣味は格闘技。んで、お前は誰なんだ? ツン・デレ子」


「はぁあ! 別にあんたにデレてるわけじゃないんだけど! ちょっと助けたくらいで何言っちゃってるの。勘違いも甚だしいわ!」


少女はデレているわけではなく、本心で夜を罵倒している。

その証拠に切れ長の鋭い目を一層険しくして夜を睨みつけている。

夜は自分が今さっき発した言葉に後悔し、目を明後日の方向へ向ける。


(怖っ。美人の人が睨んだ顔って本当に怖い)

と夜は内心怯むが、それを悟らせない様に淡々とした口調で言う。


「別にどうでもいいが、助けてもらったお礼も言えないのかお前は」


続けて「はぁー」と深く溜息をつく。

いたいところを突かれた少女は「うっ」と声を漏らすと、

「……天動銀華てんどうしろか。昨日はあ、ありがとう。

それと、今日は色々とごめん」


と少女――銀華は夜に恥ずかしそうに頬を赤く染めながらも、すましたような笑顔を向けた。


―― ――


ハリー公爵の屋敷の客間。


 早朝細い朝日が差し込み、薄明るい部屋で夜はテンポよく素振りしている。

袈裟切り、胴切り、逆袈裟切りなどを組み合わせ、一つの型の様に一挙手一投足が流れるように動いている。


(久々にゆっくり眠れたからか、あいつの夢を見てしまった)

当時、銀華の笑顔に不覚にも夜はドキッとしてしまい、簡単に銀華を許してしまった。


夢に出てきた銀華の笑顔が、ほわほわと夜の脳裏に浮かぶ。

夜は邪念を振り払うように首を横に振り、無心になろうとさらに刀を振るスピードを速める。



「よりによってあいつの夢を見るとか」


一通り素振りを終えた夜は刀を下ろし、誰に言うでもなく呟く。


「その日、昼食を食べ損ねたんだよな」


「美人やかわいい女の子は怖い。かわいい顔で謝られると、大抵のことは許してしまう。

そのことを身をもって体験した瞬間だったな」


「ふんっ」と自嘲したように鼻で笑う。

その頃には陽が昇りきり、部屋が明るくなっている。


――コン、コン。

と一定のテンポでノック音が部屋に響いた。


「ヨルさま。旦那様がお呼びです」


続いてメイドの声が夜の耳に入る。


「わかりました」


と夜は服装を整えるとメイドに着いて公爵の書斎に行った。




夜が公爵の書斎に入ると、テーブルを挟んで、向かい合うようにソファーが設置されている。

そのソファーの1つにハリーとイリーナ、向かい側にはアスが既に腰掛けている。


ハリーが「まあ、座ってくれ」と向かい側のソファーに座るよう促す。

夜は頷くと手に持った黒刀を横に立て掛ける。


メイドが4人に紅茶を配り終え、一礼してから部屋から出て行ったところでハリーが口を開いた。


「ヨル、君に依頼したいことがある」


「依頼? ですか」


「聞くと君は冒険者登録しているらしいじゃないか。個人依頼だ、報酬は弾むよ」


本来、個人依頼は《冒険者ランクB》以上から依頼される。

しかし、夜は前日に冒険者登録したばかりでランクはFだ。

それをハリーに伝える。


「すみませんが、自分はまだランクFです。個人依頼を受注できる立場ではありません」


「それは飽くまでもランクB以上の者が個人依頼をされやすいというだけです。

ランクFでも、実力があるヨル様でしたら依頼を受けても問題はないと思います」


イリーナは《冒険者ギルドの規則》が記載されている冊子を夜に見せ、ランクFの夜でも受注できることを伝える。


(依頼を受けても大丈夫なものだろうか)


と慎重に考えていると、ふとアスはどう思っているのかが気になり、隣に目を向ける。


アスはのんびり紅茶の味を楽しんでいるようで、夜の視線に気付くと「ん?」と夜に微笑みを向ける。

どうやら全く聞いていなかったようだ。


(まずは、依頼の内容を聞いてからだな)

と夜は判断する。


「依頼を受けるか決める前に、内容がわからなければ決めかねます。

決めるのは依頼の内容が提示されてからでよろしいですか?」


と、依頼の内容を提示するように促す。


「うむ」と頷いたハリーは手元の呼び鈴でメイドを呼びだす。


ノックの後に、「失礼します」と書斎のドアが開く。

そしてメイドとその後ろにプラチナブロンド色の髪の少女が書斎に入室する。


この少女はただの少女ではない。耳の横には角が生えていることから龍人族ドラゴニュートだとわかる。

この少女は先日、オークションに出されていた少女だ。前と違って今は清潔感のある水色のワンピースに身に着けている。


その龍人族ドラゴニュートの少女は夜と目が合うと、ニコッと子供らしい無垢な笑顔を夜に向けた。

そのことに夜は「ん?」と頭に疑問符を浮かべる。

ハリー公爵はメイドが退室したことを確認すると話を切り出す。


「見てのとおり、この少女は龍人族ドラゴニュートだ。

ヴァルゴ王国のすぐ北東に位置する。〈龍人族ドラゴニュートの峡谷〉というあまり人踏み入れることが無いところだ。

彼女の名前は――」


「ジネヴラというんです」


龍人族ドラゴニュートの少女――ジネヴラはペコリと丁寧にお辞儀する。


「つまり、依頼というのは彼女を龍人族ドラゴニュートの秘境へ届けるということですか」


「そうですね。察しがよくて助かります。ヨル様」


夜は口を湿らせるために紅茶を一口含み(あ、うまい)と一口だけのつもりがグビグビ一気に飲み干してしまう。

そして静かに空のティーカップを置く。


「わかりました。Fランクの誇りにかけてその依頼受けましょう」


「それだけ聞くと途端に頼りなく聞こえるな」


今まで紅茶を味わっていたアスが夜の発言にツッコミを入れる。

龍人族の少女――ジネヴラは夜が依頼を受けると聞くと、ぱぁあと表情を明るくさせる。


「へえ、ヨルさんがジネヴラを帰してくれるんですね。よかったです。

特にあのときのヨルさんは強くてカッコよかったです」


「人を殺しているのを見てカッコいいとか言うなよ」


ジネヴラの賞賛の言葉に、夜は苦虫を噛み潰したような表情で目を伏せて言う。


「馬車と費用はこちらで持たせてもらう。それと、交渉をうまく進めるためにイリーナも同行してもらうからな」


空気が重くなりかけるのを察知したハリーは、口元をニヤニヤさせて言った。


「ちょ、ちょっと待ってください。イリーナ様まで来るのは危険過ぎます。

それに――」


「ヨル様……私が一緒なのは迷惑ですか?」


澄んだ藍色の双眸をウルウルさせ、上目遣いで見つめるという強力な手段に出られる。

夜は「うっ」と声を漏らし、視線を逸らしてしまう。

この方法をとられると夜は大抵のことは折れてしまう。


さらに追い討ちでハリーが咳払いをして夜を厳しい目つきで凝視する。


「是非、一緒に来てください……」


「はい。よろしくお願いします。ヨル様!」


がっくりと項垂れる夜に対し、イリーナは胸の前でガッツポーズを作り嬉しそうにしている。


「では、明日出発するので、早速準備に取り掛かりましょう」


イリーナは席を立つ。

夜はその後、アスと共に部屋に戻り素振りを始めた。


「俺には圧倒的に実戦が足りない。だからこの旅で今よりももっと強くなってやる。

だからアスも協力してほしい」


「いいだろう。我も夜が強くなるのは嬉しいことだ。――……ある目的を果たすためにもな」


「ん? なんか言ったか?」


「なんでもないぞ。

それより、ヨルは女性の上目遣いに弱いのだな」


夜にアスが後半に言ったことが聞こえず聞き返すと、アスは夜をからかうように言った。


「そ、そんな事はない。俺はいつも平常心だ」


「ほう、常に平常心(笑)か。では試してみるか?」


とアスは夜の正面に立つと綺麗な灰色の瞳をウルウルさせ、上目遣いで見つめる。


夜も負けじと見つめ返す。


だか、呆気なく勝負は着くことになった。


終盤でアスの美貌に負けてしまい、口角を緩ませてしまう。


「だぁー!」


羞恥に耐えられなくなった夜は声を上げると、顔ごと視線をアスからずらしてしまった。


「くそ、くそ」とアスが視界に入らないような位置で素振りを再開した夜を、アスはどこか嬉しそうにして、勝ち誇った表情で夜を見守っていた。


読んでくださりありがとうございます。

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