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9話 オークション会場での戦い②

これまでの話に修正を加えました。

読みやすくなったと思って頂けたら嬉しいです。


 

 夜は周りを見回しても敵、敵という状況に血が騒ぎ、口元を狂気的に歪めて舌なめずりをする。

観客席の中間から後方にかけて魔法陣を展開している魔法使いたちを見据えている夜はある体験を脳裏に浮かべていた。


―アスとの訓練中でのこと―


夜は黒刀を右脇に構えてアスに接近する。

アスは白銀色の刀に、黒味を帯びた紫色の魔力を纏わせてその切っ先を夜に向ける。

魔力を纏ったことにより紫色に変化した刀身からは、なぜかバリバリと空気を裂くような音を発する紫電も絶え間なく流れている。

そして


『そりゃ!!』


と、掛け声と共に切っ先からは紫電が放たれる。

夜は黒刀に魔力を纏わせることもせずに、それを切り伏せる。

だがそれが仇となった。


「! ぐっ! がぁあ!!」


夜の身体には黒刀を通電した紫電の電撃が流れることになり、苦悶の声をあげて地面に倒れ伏すことになった。

幸い、その電撃には殺す程の威力はないよう調整されている。


夜はしばらく感電して動けなくなった。


「クッソ! 油断した。基本的なことを失念していた。

そりゃ、刀は金属で電気を通すのは当然か、はは……」


むくっと起き上がった夜は開口一番に悔しがるように言うと、自虐的な笑いをこぼす。


アスは刀に纏わせえていた魔力を解除し、歩み寄りながら得意顔で夜に説明する。


「これは魔法というものでな、魔力操作を応用して様々な現象を引き起こすものだ。

魔法は属性の適正とかは関係なく使える。

だから任意の現象を理解しながら魔力操作を行うと、魔法を使ってあらゆることができるようになる。


我が見せたようにこいつに電撃を帯びさせたのもそのひとつだ。

さっきヨルがした魔法を切って打ち消そうという判断は悪くはないが、魔力を纏わせなかったのは失敗だったな。

でないと今みたくヨル本体に影響がでる。

いい経験になっただろう?」

「ああ、そうだな……」


―回想終了―


観客席からは魔法陣を展開していた魔法使いたちから一斉に魔法が放たれる。

その属性や種類は様々で、槍や球形を模した炎、氷、雷、風などの属性のある魔法や、杖から直接ビームのように直線軌道で夜に向かう魔法などが複数、夜へと迫る。


夜は黒刀を正眼に構えると、空気中の魔力で身体の外側を、体内の魔力で内側を強化するよう魔力を練り合わせるイメージを創り出す。


そして魔力操作で全身と黒刀に魔力を纏わせ、身体能力や武器の強化を行う技――【身体強化】を使う。


その影響で夜の瞳の色が灰色になり、目の前の迫り来る魔法の弾幕が緩慢な速度に映る。


それと同時に全身に魔力が収束しているように、夜は紫色のオーラに身を包まれることになる。


そして、迫っている数多な魔法攻撃が夜やその周囲に着弾し、大きな爆発音と共に爆煙が立ち込める。


その光景を見た者たちの反応は多種多様だ。

イリーナは目を見開き、愕然と開いた口元を両手で覆う。

観客席の貴族の一人が、「やったか!!」と声を上げる。

そしてアスは、貴族の男が発したありきたりな台詞に思わず「ぶふっ!」と吹き出す。


次の瞬間――

ヒュンッ!!と風を切ったような鋭い音と同時に夜の周りを覆っていた土煙に一閃の切れ目が入り、一気に土煙が四方八方に雲散する。


そこには全身と黒刀に魔力を纏わせながら、無傷で涼しい顔をした夜が立っている。

その周りには魔法攻撃が着弾した形跡であるクレーターが幾つかできている。


「よし、決めた。後ろの魔法使いから殺っていくか」


夜は後方で杖を構える魔法使いたちを見据えるとステージの床を一気に蹴り、観客席の後方辺りに向けて跳躍して空中を進む。


観客席の中間辺りまで進むと、さらに勢いをつけるべく、空気中の魔力を収束させて空間中に直径三十センチほどの円形の足場を魔法使いたちに向けて斜めに作りだす。


それに足を乗せた夜は魔法使いの集団へと特攻する形で一気に接近する。


その途中魔法使いたちが散弾のように数々の魔法を打ち込むが、夜は弾幕の雨の中をものともせず、魔力をまとった黒刀を鋭く振るいながら潜り抜ける。


そして、夜は一直線軌道上に位置していた魔法使いを標的にして地面に着地すると同時に黒刀を振り下ろし、そいつを頭から真二つに斬り裂いた。


大量の血を噴出しながら倒れた魔法使いには目もくれずに近くにいる魔法使いを次々と斬り倒していく。


壁際まで追い詰めた魔法使いの1人を斬り伏せると、それと同時に左側から強い気配を感じ後方へバックステップで下がった。


そして、元々夜がいた場所には深々と夜の体格ほどあるような、大きな刃の戦斧ハルバードが地面に突き刺さっている。

夜は戦斧ハルバードの柄に手をかけている者を見て思わず「ほぉう」と低く声を漏らした。


その男は昼間の入国審査のときに夜とアスの後ろに並んでいた、かなり鍛え上げられた肉体だと夜が印象を持った男だった。


(まさか、あのときの当てずっぽうで予想した武器が当たっていたとは)

と夜は思いながら予想が的中したことが可笑しいという風に「フンッ」と鼻で笑う。


すると戦斧使いも夜のことを思い出したらしく夜を挑発するように煽り口調で言う。


「おぇ、誰かと思えば昼間の変わった格好のガキじゃねえか。まさかこんなイカれてやがるとは思わなかったぜ、おい!」

「こっちこそ、あんたがここにいるとは思わなかった。よく入国審査が通った――っな!」


夜は相手の言葉に返し、言い終わった途端に不意を突くように霞の構えから一気に突き技を繰り出す。


相手は、霞の構えによって空いた足元を狙うように右側へ横薙ぎに振るう。


だが、その攻撃は夜に読まれていたようで、足元を狙った低い位置の斬撃は夜に軽々と飛び越えて躱される。

そして更に勢いづいた夜の『突き』が戦斧使いへと迫った。


戦斧の使いは体勢を咄嗟に横に反らし、刺突を回避しようとする。

だが、間に合わず左肩を抉られることになった。


戦斧使いの後方へ抜けた夜は、着地すると自身の体の向きを素早く転換して戦斧使いへと向き直る。

戦斧使いの男の左肩からはどくどくと血が流れている。


(これで斧使いの左腕は使い物にならないな)


そう判断した夜は一気に勝負を決めようと黒刀を正眼に構える。

だが、観客席側から迫る鋭い気配を察知する。


そこへ刀を咄嗟に振るうと鋭い金属音が響く。

夜は黒刀とアサシンのような軽装の男の短剣2本と鍔迫り合いの格好となる。


夜はちらりと短剣へ目を向ける。

アサシンの男が両手で握っている短剣の腹に黒色の魔法陣が刻まれていることから、魔剣だとわかった。


アサシンの男がニヤリと口元を歪ませる。

それを見て悪い予感を感じた夜は、一瞬送れて距離を取ろうと足に力を込める。

だが間に合わない。


アサシンの短剣の魔法陣が発光しだし、魔剣に付与された能力がすでに発動していたからだ。


魔法陣からはどす黒い靄が噴き出され、左の短剣から噴き出た靄は夜の黒刀を伝いながら、柄を持つ両手にぐるぐると巻き付いて夜の動きを抑制する。


(しまった!!)

と焦った夜は黒刀と手首に着けられた拘束を解こうと、必死に自身の武器を引っ張る。


そうしている間に、もう片方の短剣の靄が剣の形を模して夜の心臓へと伸びる。

さらに横から先ほど相対していた戦斧使いが右手に戦斧を持ち、好機を逃さないと鬼気とした気迫で迫る。


靄の剣が夜の心臓に刺さる寸前に、もがいていた夜はアサシンに膝蹴りを食らわせる。

そのことにより、心臓を定まっていた靄の剣の照準がずれ、夜の心臓付近の肩に突き刺さり貫通する。


夜は「ぐぅッ!」と激痛に苦悶の声を上げ、表情を歪めるが、それに耐えながらアサシンの顔面に頭突きを食らわせる。

そして、「ぐはっ!」と仰け反るアサシンを拘束された状態の両腕にあらんばかりの力を込めて、戦斧使いに遠心力を使って投げ飛ばす。


それによって、夜の両腕に絡みついた拘束は解かれ、夜はバックステップで距離を取る。

そして刺し貫かれた左腕の具合を確認する。

だらりと下がった左腕は動くには動くが、黒刀を満足に振るうほどには使える状態ではない。


「あの魔剣の能力は油断したな……」


と夜は黒刀を持ったままの右手左肩を抑えながら誰に言うでもなく呟いた。

そして夜は周囲をぐるりと見渡し、自分に対して武器を構えて攻撃を仕掛けるタイミングを見計らっている者たちの配置を確認する。

視線を先ほど相手にしていた2人に視線を戻すと、体勢を立て直し夜にそれぞれの武器を向けている。


(勇者以外の相手に【身体強化】した状態で戦うのは俺のポリシーに反するが、魔剣使いが複数人相手だとかなりきつい。

それに、公爵令嬢もいることだしさっさと終わらせるか)


と一考した夜は「ふぅ~」と溜息をつく。

そして自身に魔力を収束させ、【身体強化】をした瞬間に行動にでる。

その場から姿を消したように高速で移動した夜が標的にしたのは、先ほどまで相手をしていた2人ではなく、周りを取り囲っていた連中だ。


夜がその場から動くと、夜を取り囲んでいる魔剣使いの一人が「消えた!」と目を大きくさせ、驚きながら呟く。

だが、次の瞬間には空を切るような鋭い音がなった途端にその男の首から上がごろりと床に転がり落ちる。


その隣の者も驚き、声を上げようとするも次の瞬間にはその男の首も床に落ちる。


夜は相手の背後へと高速で移動し、気づかれないまま首を刎ねては次の標的の背後へ移動し、首を刎ねる。

という作業を繰り返している。

中には背後への気配を察知し、自らの魔剣で防ごうとする者もいる。

だが、魔力を纏った黒刀によって剣ごと首を切断される。


夜は黒刀にただ魔力を纏わせているわけではない。

普通に魔力を纏わせるだけでも黒刀の切れ味や強度が増す。

さらに夜の【魔力操作】によって黒刀に帯びた魔力は、まるでチェーンソーの回転刃のように刀身を循環している。

そのため、防御に使った相手の剣はバターのうに容易く切断されてしまう。

最早、夜の黒刀は防御不能の刀と化している。


やがて、夜を取り囲んでいた魔剣使いたちは全員夜によって屠られてしまった。

そして戦斧使いとアサシンの2人に目を向け、一気に接近した夜は、アサシンの男に黒刀を振り下ろす。


だが、夜の黒刀はアサシンの男をとらえることはできなかった。


なぜならアサシンの男と夜との間にはルーカスの用心棒の男が右手に持った小型の戦斧で夜の黒刀を受け止めていたからだ。

そして、左足で夜を蹴り飛す。


蹴られた夜は衝撃で4m近くふっとばされ、片膝立ちの体勢で着地する。【身体強化】をしている夜にとって蹴られたダメージはなかった。

夜は距離を離されたことに「ちっ!」と舌打ちをしながら体勢を立て直している間、用心棒の男は背後で困惑している2人に、吐き捨てるように言い放つ。


「去れ! お前たちだとあの者の相手にならないだろう。 邪魔だ!」


用心棒の2mという高身長と岩のような屈強な体格から発せられた威圧の篭った言葉に圧倒された2人は、ぞろぞろと出口に向かって走り去っていく。

夜は「待て!」と追いかけようとするが、立ちはだかっている用心棒の男が両手に斧を1本ずつ持ち、すぐに動けるように構えられ断念することになる。


用心棒の男の戦斧は、複雑な魔法陣何重に刻まれていた。




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