誰の為の転生なのか・・・
滅亡した者同士のコラボ話です。魔族も武田家も両方生き残っていけるのだろうか。
織田信長という第六天魔王と魔王対決も今後展開予定。
不定期連載。
きっかけは一体なんだったのだろう・・・
大陸での覇権を巡り、西方世界の諸王国連合と東方世界のディオルグ率いる魔王国との戦争は、当初は魔王軍の侵攻速度と多種多様な豊富な才能持つ魔将軍達が、各地で連携してない諸王国を撃破・占領し、最大版図は大陸の八割まで魔王国の直轄地・属国化していた。
流れが変わったのは、西方諸国の一つセディル公国の巫女姫ミレアが神殿で、神から一つの啓示を受けた。『汝が出産する子供は、魔王を倒し人類を救済する・・・。』そのような啓示を受けたが、当時ミレア姫は15歳で未婚。王を含む周りの人々は当惑した。神が与えた啓示では、子をなすと言うがミレア姫自身は男も知らないし、さらに幼い頃から神官として神殿に仕えてたので、還俗しない限り結婚も出産もあり得ないからだ。
しかしミレア姫は処女のまま妊娠し、10ヵ月後に一人の男子を出産した。処女が妊娠し出産したので、産まれた子供は神の子と呼ばれ、神殿の開祖トライズの名前を授かり受けた。
神の力を産まれた時から与えられたトライズは10歳過ぎる辺りから、セディル公国内で勝てる者達は誰もいなくなった。トライズ13歳の時、今度はトライズ自身が啓示を受ける。『人類救済の為に力を使え。同志を集め、魔王国を討伐せよ。』と・・・。
トライズを中心に、数年かけて7人の溢れる才能を持つ者達が集まり、トライズの七剣と呼ばれるチームが、魔王国の統治してる勢力圏に侵入し、魔王国軍幹部をピンポイントに撃破していった。
軍や国家を運営する魔王国が神出鬼没なトライズ達の行動によって倒されたせいで、西方連合に勢力圏が盛り返され次第に逆転していった。もちろん対トライズキラーの特別チームもいくつも編成して襲撃した。数人の同行者を打ち取ったが、こちらもトライズに優秀な人材をたくさん犠牲者を出した。
勇者トライズ一行に魔王軍100万が、数年に渡る戦いによって、雪が溶けるようにことごとく打ち破れた。魔族の聖山ゲヴェン火山の我が前にまで姿を現し、激しい戦闘の末追い詰められた。我は飛び込む直前に残った魔力を使い、転生の魔法をかけて。 そして火口にダイブし、そこからの記憶は無い・・・
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1567年11月1日 信濃高遠城
別の異界に転移転生したことを理解したのは、眩しい光がうっすらと消えてから、視界が入ってきた光景が見下ろすような感じの数人の男女が、我を見て皆歓喜してたからだ。俺を抱き持ち上げた侍女が、優しい表情を浮かべながら、傍に置いてあるお湯の入った桶で、汚れた身体を洗ってくれた。
「おめでとうございます。男の子でございます、勝頼様。武田家の世子でございます。」周囲の人々の誰もが我の誕生を喜び祝ってくれてる感じだ。
どうやら皮肉にも我の転生先が人間になってしまったみたいだ。 こんな馬鹿らしい事があるかと嘆いたが、彼らには赤ん坊が泣いてるとして聞こえてないみたいだ。
我の隣には出産後の疲労か、顔に血の気が無い若い女性が、横たわりながら慈しむようにこちらも見ていた。「勝頼様、若君誕生おめでとうございます・・・」途切れ途切れに消えそうな小声で、勝頼と呼ばれる男は、女性は傍に座ってる若い男性に話をしてた。
「雪よ、でかしたぞ。良くやった。そなたは、一刻も早く体調を整え、また以前の笑顔で俺を迎えて欲しい。」
「勝頼様、雪も勝頼様の御傍に一刻も早く一緒に居とうございます・・・。」
「若君、男子誕生の報告を躑躅ヶ崎の御屋形様に早馬を送りましょう。」「継忠よ、承知した。」小原継忠と言う家臣は、書状を勝頼より受け取り部屋を下がっていった。
「義信兄上が病で旅立たれた半月もしないうちに、この子が誕生した。この子は、病で倒れた兄上に代わって、きっと武田の支柱になるに違いない・・・」父・勝頼は、うっすらと瞳に涙を溜めて、我の両目をじーっと見てそう呟いた。
少し時が過ぎると外の方から騒がしくなり、老女と30代半ばの女性が四人の子供達を引き連れて、部屋に入ってきた。
「勝頼殿、この度は諏訪家御嫡男の誕生おめでとうございます。御屋形様より雪姫様のお手伝いをなさりにやって来ましたが、誕生の方が早かったですね。御館様は、今甲府を離れられませんから、私に勝頼殿や雪様の力になってくれと言付けを賜りました。」
笑顔を絶やさぬ女性は祖父の側室で、甲斐の油川氏出身の多江と言い、我から見たら幼い叔父・叔母達を連れてやってきたと勝頼と話をしていた。
老女は、父・勝頼の祖母太方様で勝頼の母、今は亡き瑚衣姫を産みその後瑚衣姫が亡くなったら、勝頼を息子同然に養育してた。
小さな四人の子供達は、10歳の五郎、9歳の菊姫、8歳の六郎、6歳の松姫と言い、年長の五郎叔父は、4歳の時に信濃の名族仁科氏の名跡を継ぎ、100騎の騎兵を預けられたと言う。ただ本人は、まだ子供なので、統治するべき土地や部隊は側近が五郎叔父が元服するまで管理してる。
子供達は我の周りに集まり、皆嬉しそうにニコニコしながらも遠慮がちにこちらを見ていた。
「兄上、義姉様、おめでとうございます。あっ! この子の両眼を覗いて見てください。左右の瞳の色が違います。右目は黒ですが、左目は、金色です。」
側近の向山出雲守盛吉が、「金目銀目ですか。若、古来より金目銀目の猫は縁起が良いと大変喜ばれております。人でも南蛮人の王の中には、広大な領土を征服した者もおるとか。これは、武田家にとって吉祥でしょう。」
魔王の虹彩異色症は、魔法が使えるようになってると言う証だ。もし両眼の色が同色になった場合、その時は魔力が空になっており疲労困憊で瀕死の状態である。ただここの世界に転生出来た事で、魔法が依然のように使用できるかどうかは、あとで確認だ。
転生した我は、今後の事と現状把握の為に思考を駆け巡りまくる。手足となってた魔王軍は、勇者トライズに撃破されてるが自分の魔力さえ満たされれば、我の分身たる魔族は作り出す事は可能だ。魔法が使える事がわかったなら、近いうちにこの世界の情報得る為に創り出そう。
魔力に関しては、このまま肉体を成長させても徐々に回復するが、人の寿命は長くて100年程しかないので、肉体の寿命が魔力を完全に満たす前に消滅してしまう。そうなると、魔力を急速に回復させながら成長していく方針を取る。
何パターンか回復する手段があるが、戦場で自ら戦い相手を倒す、我に忠誠を誓う者どもから、死なない程度に生命力を分けてもらう。魔道具や神具を利用や破壊し、道具を構成してるエネルギーをいただくとか。
人が持ってる魂や感情を食らうのが効率良い摂取方法だが、そればかりやると神々の黄金律が勇者トライズみたいな対魔王戦士をここの世界にも誕生する可能性があるので、細心の注意をもって魔王軍再建を考えてる。
ここの世界が元の世界みたいに人類が弱ければすぐに勇者が誕生するが、逆に強力な戦力を保有してるなら、魔族が大暴れしても神々の黄金律はこちらに味方すると思う。この世界を制する事が可能かどうか思考を巡らす。
まずは、身の回りの世話をする侍女や乳母などが部屋を出入りしてる為、皆が寝静まった深夜に隙を見て、魔法が発動し思い通りに使えるか調べよう。それが成功出来たなら、情報集めと我が意志の代理となる者を創り出そう。
身近にいる者が忠誠を誓うなら、我が魔力を分け与えて臣下にしてもいいな。この世界の者の姿してる配下がいる方がとても都合が良い。強き者・頭の良き者は姿がどうあれ役立つ者達を集めないとな・・・・
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あれから、一か月ほど月日が経った。
まずは身の回りの状況確認。
我は、祖父から名前を武王丸と授けられた。魔王らしい幼名で、大変気にいってる。
名付け親の祖父は、武田徳栄軒信玄と言い、この世界で軍勢を率いたらトップクラスの名将らしい。祖父は、戦の機微に通じており、周辺諸国から『甲斐の虎』と異名を付けられるくらい凄い武将だ。祖父が領土を広げれば広げるほど、我としては凄く助かる。魔力の回復も祖父からの繋がりで、我に忠誠を誓う人々が増えるからだ。いずれ会えるはずなので、その知識や経験を吸収するのが楽しみである。
父は、諏訪勝頼。父は、二十歳ぐらいの凛とした若武者で、今まで見聞きした情報によれば、勝頼は四番目の子供だが、長男・義信は、我が転生する半月前に病死。次男・信親は眼病で失明。三男・信幸は、幼い頃に遠くの親戚へ養子。現状は、祖父・信玄の後継者候補になってる。つまりプリンス。父は、元々は祖父と敵対した国の姫の間の子供で、長男・義信が亡くなるまでは、分家の当主になっていた。だが義信が死去した事により、祖父の後継者候補にされてしまい戸惑っていた。今後は、父が後継者なる事を我は希望する。
母は、雪姫。 母は西の大国織田家から、政略結婚を経て父に嫁いだ。元来病弱なのか乳の出が悪くて、乳母に任せてる。もしかすると高貴な血筋の家は、自ら乳を与えないのかもしれない。母に抱かれると大変優しい表情で、我を慈しんでくれる。どうやら父は、母以外に側室はいないみたいだ。そしてこの夫婦は、相思相愛みたいな感じだ。
大祖母は、太方様と呼ばれ、病弱で大半が寝たきりの母の代わりを務めて、自分の孫である勝頼が高遠城にいない間の事を任されてる。昔、武田家に滅ぼされた家の出身だが、自分の娘・瑚衣姫が勝頼を産み、そして娘が亡くなった後も勝頼養育の為に一緒に暮らしてる。
あと兄弟はいないが親族はたくさんいるみたいだ。直接見たのは叔父や叔母の五郎、菊姫、六郎、松姫の四人だが全体的には、数百人の親族がいるらしい。それには驚いた。なんせ前世では、親族なんてほとんどいなかったので、一族間での争いは未経験だからだ。
父の旗本与力は、後見人・長坂釣閑斎頼広、跡部越中守勝忠、跡部右衛門尉昌忠、小原丹後守継忠、小原下総守忠国、小原清二郎、小原惣六、小原忠五郎、青沼助兵衛尉忠重、土屋右衛門尉昌恒、土屋源蔵、横田甚右衛門尉尹松、市川備後守家光、市川昌信、市川備後守昌忠、市川宮内昌倚、向山出雲守盛吉、小田切孫右衛門尉信清、安部加賀守宗貞、安部掃部介貞直、安部右衛門尉道忠、竹内与五右衛門、秋山昌詮、小宮山内膳佑晴友、小宮山昌親、小宮山忠道、秋山紀伊守光継、秋山民部光明、秋山杢介、秋山源三郎景氏、秋山宗九朗、秋山宮内、秋山越前守虎康、金丸助六郎昌義、金丸惣八郎正直、小山田平左衛門、小山田掃部介義次、小山田弥介、小山田於児、多田久蔵昌綱、河村下野守道雅、安西伊賀守、岩下総六郎、山野井厳蔵、神林刑部小輔、有賀善右衛門勝慶、穴沢次太夫、薬袋小助信、温井常陸介景宗、温井景長、温井新蔵、内藤久蔵、雨宮織部正景尚
これれの武将は、父と我の家臣団を形成する人員である。おそらく今後も拡大するであろう家臣団を掌握し、その家臣団の中に復活させた魔族を合流させ、魔王国復活の基盤とするか。
中でも期待できる才能持つのが土屋右衛門尉と横田甚右衛門尉の二人が将来的に軍団の中核を任せられそうな逸材に感じる。機会あれば、何人かに魔族の力を分けてもいいかと思ってる。この国には、鬼と異名で呼ばれるのは、強き者の証として己の誉になるらしい。前の世界では、そのような事は忌み嫌われてたのに、ここでは価値観がかなり違うみたいだ。
あと11月中に、一人魔族を創り出そうと思う。復活させた魔族には、認識錯視の魔法をかけて、異形の姿が見られても違和感感じないようにする。まずは忠誠心が高く我の身辺警護が出来る高位魔法騎士カルディナを復活させようか。
次回、『武王丸と高位魔法騎士』の予定。
7/21 信勝小姓頭、金丸惣八郎正直追加。
7/22 誤字修正