知ってしまった俺です
「わあああぁぁぁあああああぁぁああ……………あ………あ………あ?」
おかしい。もうとっくに身体が5ミリ角に砕け散っているはずなのに……一向に痛みを感じていない。
まさか…それすら感じることなく砕かれたのか!?もう粉微塵状態なのか!?
「………ぐ……ああああぁぁ……!!!あぁ…………があああぁぁぁああ!!!!!」
突如アーテデビル三人の断末魔が轟く。驚愕と共に目を開けると…
そこには、眼前にて地を這いながら激しく悶絶する彼らの姿があった。
「やめてくれ……!死にたくない!!死にたくない死にたくない死にた…く……がああぁぁあぁ!!!」
「か、身体が………蟲に……あああぁぁああ!!喰われる!!…やめろおおぉお!!!」
「ヴェルクタス様…お許し下さい!!!どうか命だけは………!!ぎ…あ…あぁ……!!」
彼らの周りには何も無い。ただ頭を抑えて狂い続けているだけだ。
「ま、まさか……幻覚…!?」
一人は迫り来る何かに恐怖し叫びを上げるが無残に殺され、一人は体を蟲に喰らいつくされ、そして残りの一人は…いないはずの魔王ヴェルクタスに命を乞い、殺される。
この状況は、それぞれがそういった幻覚を見せられているとしか考えられなかった。
「どういう事だ…!!この術はあくまで精神安定の為の……な、何で幻覚なんか見せてるんだ!?」
何かがおかしい。今までは患者に対してプラスの効果しかもたらさなかったハズの薬術が……あの魔王の一件から、必要以上に対象を苦しめる効果に変遷している……。
「また罹部鎮静を…」
彼らの幻覚を消し去ろうと、もう一度同じ術を施そうとするが………動きが止まる。
もしこれで、より幻覚を強めてしまったら……きっと苦しみに耐え切れずに己で命を絶ってしまうかも知れない。
「クソ……!!!どうなってんだ………!」
俺は拳を握り込み…未だ叫び続ける彼らを一瞥してその場を離れた。
どんなに変わろうとも術は術。きっと時間が経てば効果は切れる。そう願う他ない…。
「本当に…ごめん……!」
彼らの主君を殺し、それに憤怒し追ってきた彼ら自身にまで…死の恐怖を与え苦しめた。
俺は、心臓を握り潰されるような罪悪感に苛まれていた…。
◆◇◆
その後、およそ四日を費やし拠点のあるラウオルフィアに戻った俺は……自分の薬術に起きた異変の正体を探るべく、持ちうる限りの薬術を試した。
「”セル・アクティベート”!!!」
拠点より少し離れた森林の中にて…植物の細胞の分裂を促進させ、一気に成長へと導く薬術を、汲み水に施し足元の花草に全てかけた。
しかし……
「そ、育つどころか……!」
異臭と瘴気をまき散らしながら、花草は一瞬でドス黒く枯れた。そして瞬く間に水をまいた範囲を超えて、他の草花…果ては大樹まで枯らしていったのである。……やがて、目に映る限りの森林は、恐ろしい魔の樹海へと様変わりしていた。
膝から崩れ落ち……俺はある一つの事実を悟った。
「全部……”逆転”してるのか……?」
本来、対象に良い効果をもたらす術が…今では全く逆の効果を発揮している。成長を促すハズの術が一瞬にして枯らしてしまったり、精神を安定させるハズの術が相手を恐ろしい幻覚へと誘ってしまったり。
外部から入った力と相殺させる術が……その患者自身のエネルギーと反応し、殺してしまったり……
何が原因なのか、いくら思考を張り巡らせても答えは出ないし心当たりも無い。しかし、今まで俺が起こした事実は変わらない。一人の生命を奪い、三人の生命を恐怖に陥れた…という事実は。
「どうすれば……どうすればいいんだよ……!!こんなんじゃ只の…人殺しじゃねぇかよ……」
黒い塊のような負の感情が襲いかかる。黒い草原に手を付いたまま……何故か泣いてしまっていた。
これから、きっと魔王を殺された恨みを持った者達が血眼で探しにやって来る。それにもし俺が持つ薬術が全てマイナスの効果を持ってしまっているなら、完全にこの世界に於いての驚異になってしまうだろう。
「いっそ……死んじまった…………方……が………」
完全に道筋を失い、絶望に暮れたまま………俺は己が染め上げた森林の瘴気に犯され……静かに意識を失った。




