【第零章 ヨイレス・タツァン(運命の瞬間)】
このシーンが何か? は今は秘密ですが、取り敢えずこのシーンは後二回登場します。
―― 月 ―― 姉に寄り添う妹月星 ―― がふたりを照らしていた。 ――
抱きかかえた彼女は俺の胸に頭を預けたまま、意識が朦朧とした状態だった。安穏な状態とはとても言い難い。息が荒く、額が汗でびっしょり濡れている。時々苦しそうに眉をしかめる。
右腕は、手首から先がなくなっていた。
たった今失ったその手首から滴り落ちて、波の届かない砂を濡らす、……血。
そんな彼女を俺はそっと砂浜に下ろした。
そして真っ暗な、だけど時折光る夜の海を睨んだ。
―― これしかないのか? ――
俺の頭に浮かんだのは、いや、俺に唯一残されたのは、悪魔の囁きのような最悪の選択。
海岸の左手を一瞥する。やはり何も見えないので観察を諦め、俺は海に向かって一目散に駆け出した。彼女を救うために。
俺の決心は、俺の選択は、この時に俺が思っていたよりも大きく重かった。
それは俺の運命と人生を根こそぎ覆し、まるっきり別物に変えてしまった瞬間だった。
―― hoyoosnii einaloose ――
こそれは天の川銀河の片隅で六千三百万光年の範囲に拡がる
八二億の星系と
一億一三〇〇万種・四京一一四〇兆人の異星人と
―― そして『準結晶器』 ――
それらを内包する強大な軍事国家
それに翻弄された一人の少女と、そして俺、伊佐那 潤の物語である。