第一話 秋が来て、合唱祭の季節に 〜その6〜
拓海と私が、通学路を一緒に帰るのは二年ぶり。
丸二年、ポッカリ開いた空白に、会話もすぐに立ち消えて、余所余所しい感じが心地悪い。
「ねえ、今日は寄っていかない。」
私は拓海を家に招き入れた。
「あら久しぶりね、拓海君。」
私の母は、すぐにリビングのドアを開けた。
私の母が、テーブルの上を片付けるのを待って、拓海と私はソファに座った。
座ってみたものの、二人の間には切ない距離が残る。
やっぱり会話が続かない。
見兼ねた私の母が、タイミングを見計らって、ジュースをテーブルに乗せた。
「二人とも、なに遠慮してんの。どうせ二年も口利いてないんでしょ。その間に溜まりに溜まったものが、お互いあるんじゃないの。ちゃんと正直に話したら。ここで話さなかったら、あんたたち、一生後悔するよ。」
私の母は、テーブルの上のリモコンでテレビを消すと、すぐに席を外した。
私の母は、やはりすべてをわかっていた。
拓海と私の関係がこじれたことは、ただの思春期の問題ではないことを見抜いていた。
広いリビングに二人きりにされた拓海と私は、ゆっくりとお互いの視線を合わせた。
二人きりにされてしまうと、何を話していいのか、自分の中で整理がつかない。
カチンコが鳴ってフィルムが回っているような、あたりの静けさ。
石油ファンヒーターの音だけが、一定のノイズを刻んでいる。
「なんか照れるよね。」
私は拓海の顔に笑顔を振りまいた。
「なんかこういうの久しぶりだな。」
拓海は私の目を真っ直ぐ見ていた。
「ねえ。私、変わってないよね。ずっと、変わってないよね。」
拓海のほうへ体を向けた私は、すがるように問いただす。
「変わったよ、暮葉は。もちろん、いい意味で。ちょっと気が強いのは昔からだけど、大人になったし。でも、前よりも繊細になったかな。前はもっと大らかだったし。まあ受験とか、人間関係とか、ストレス溜まってるんだろうけど。」
拓海は、申し訳なさそうに、私を語った。
「私が臆病だったから、拓海にも迷惑かけたかもしれない。別に幼馴染なんだから、一緒に居たっておかしくないもんね。でも、好きとか愛してるとか、そういう感じじゃないんだよね。もう私の生活の一部っていうか。だから、これからも一緒に居てほしいなって。笑わないでよ、一応真剣なんだから。」
私は、もう一度拓海の顔を見やった。
「別に笑わないよ。俺も、暮葉がいないと、なんか物足りないっていうか。また一緒に登校したいなって思ってたから。いいかなあ。」
拓海の顔に向かって、私は黙って頷いた。
「また、一緒に頑張っていこうな。どうせ、この世は男と女しかいないんだから。」
「なにそれ。なんかいいこと言うね、拓海。そうだよね、男と女しかいないんだもんね。」
私の中で今までの恥じらいが吹っ切れた。
「ねえ、今日はうちでご飯食べていかない。昔みたいに、ね。」
私は、拓海の冷たい手を握った。
「たまにお鍋もいいわね、人数多いほうが美味しいしね。」
外で聞き耳を立てていたのか、話が煮詰まったところで、私の母はリビングへ戻ってきた。




