第一話 秋が来て、合唱祭の季節に 〜その4〜
拓海と私は保育園の時から一緒だった。
だから幼馴染よりずっと距離感が近くて、兄弟のような感覚で、何の遠慮もない気の置けない存在だった。
小学一年生のとき、遠足に行ってお昼ごはんを二人きりで食べた。
もちろん他の子どもには冷やかされたし、その意味すらわからなかった子どももいた。
その様子を見ていた教師たちが、唖然としていたことを強烈に覚えている。
小学五年生のとき、祖母が亡くなり、私は気分が沈んで辛かった時期があった。
行き詰った私は、拓海の家で一夜を明かした。
何も言わずに拓海は、ずっと寄り添ってくれた記憶が、今も鮮明に心の中。
中学に入ってからも、拓海は私のことを名前で呼んでくれていた。
けれど一年生の二学期、それに気づいたクラスの中で、拓海と私は浮いてしまった。
一緒に登校すれば同伴出勤。
少し視線を合わせただけで若夫婦。
誹謗中傷に晒された拓海と私の関係は、一気に冷え込んでいった。
通学路を変えて、教室では顔も見ない。
一時的な非難措置だったはずが、それがいつしか当たり前になり、気がついたらもう一年以上会話もしていない。
最初の寂しさを通り越すと、濃密な人間関係が消えてしまい、一気に自由度が増した自分の時間に浸るようになる。
「最近、拓海君、遊びに来ないね。」
テレビを見ながらお茶を飲む母は、疎遠になった拓海と私の関係を見透かしたように、さらりと口にした。
二人の関係が断ち切られたあの時まで、拓海は学校の帰り道に私の家へ出入りすることがよくあった。
だから急に来なくなれば、関係が怪しくなったことが一挙に露呈する。
母がその日以来、拓海のことは口にしなくなったことを、私は今になって気づかされた。
私が拒絶反応を示したことで、選考は振り出しに戻っていた。
とりあえず曲だけは決まったものの、指揮や伴奏はおろか、各パートの振り分けすら満足に進んでいない。
私の説得に失敗した拓海は、クラスで求心力を失い、司令塔を失った群集は思い思いの方向に迷走し始めていた。
放課後になっても何も決まらない。
合唱希望曲の申請を終えて帰ってきた由香里は、申請どおり決定したことを告げた。
何の反応もなく、滞留する倦怠感。
明日から強調週間に入る学校は、すべてが合唱祭モードになる。
強調週間の間、部活は中止、授業は短縮授業になり、その分放課後の練習時間が確保される。
すでに隣のクラスから歌声が聞こえ始めていた。
『はじまり』、『予感』、『信じる』。
スタートした他のクラスに、焦り始めたのは数人で、まだまだ澱んだ雰囲気に浸っているその他大勢。
「ねえ暮葉、ちょっと来て。」
由香里が私の手を引いて廊下へ連れ出した。




