表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/17

第一話 秋が来て、合唱祭の季節に 〜その3〜

 昼休みになると、私の周りに人だかりができた。


 「ねえ暮葉、伴奏やってよ。」


 一番聞きたくない話が、私の耳に飛び込んできた。


 曲が決まれば、今度は指揮者と伴走者の推薦が始まる。


 毎年の光景だったが、それが選りに選って自分のところに来るとは思ってもみなかった。


 いつも気配を消し、存在感を薄めて、教室の中で透明な存在で居るよう努めていた私。


 今回も無事に選曲を乗り越えて、このまま行けば、最後列に小さな声で合唱祭に参加する予定だった。


 私にも事情がある。


 ピアノは幼稚園の頃から始めて、この四月までレッスンを続けてきたけれど、受験を考えてこの一年はレッスンを休むことにした。


 学区で一番の進学校に入ることが、私と私の家族の希望。


 受験最優先で部活は早々に引退し、夏休みは夏期講習の予習復習に明け暮れた。


 日焼けすることなかった私の肌が、この半年の努力の証。


 その甲斐あってか、今は模擬試験でA判定をもらえるようになったし、三者面談でも堂々と志望校を言えるようになった。


 私は今の状況を変えたくはなかった。


 第一志望を誰にも邪魔されたくはない。


 学校のことなど無関心で、自分のことだけを考えて入試当日へ向かって走り始めた私は、突然目の前にハードルを置かれた気分は最悪。


 到底承諾できるわけもなく、私はきっぱりと断ると、そのまま教室を飛び出した。



 屋上に出た私は、金属フェンスを掴むと、眼下に広がるグラウンドを見下ろした。


 自分の中から沸き起こる怒りで、フェンスを握る手に力がこもる。


 「中村。なんか、みんなが詰め寄ったらしくて、本当ごめん。俺が、中村のピアノがうまいって言ったから、みんなが押し付けようとして。そんなつもりなかったんだけど。」


 拓海の視線が、私の背中を突いた。


 「放っておいてよ。」


 私は、不満を撒き散らしていた。


 収める場所がない不満の捌け口として、私は拓海を選んだ。


 選んだというより、そこに居る人なら誰でも良かった。


 私は邪魔されたくなかった、自分の未来と、自分の生活を。


 ピアノの練習時間だって馬鹿にならない。


 そんな時間があるのだったら、机に向かう時間に充てたい。


 休み時間、通学時間、通塾時間・・・細切れの時間を切り詰めて、勉強時間を確保してきたこれまでの生活。


 これからは、大っぴらに勉強できる時間と環境の確保が、私にとっては最大の関心事。


 誰にも邪魔されたくないプライベートに土足で踏み込まれた私は、後味の悪い喪失感を噛み締めていた。


 「あのさ、中村。」

 「こんな時に苗字なんかで呼ばないでよ。」


 言いかけた拓海の言葉を遮るように、私はフェンスの向こうへ声を張り上げた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ