表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/17

第一話 秋が来て、合唱祭の季節に 〜その1〜

 夏の余韻が完全に消え去った十月。


 私の中学校では、毎年恒例になっている合唱祭の季節がやって来る。


 大したイベントのないこの町には、住民の来場も自由で、毎年中学生の歌を楽しみにしている人も多いらしい。


 現に毎年合唱祭が行われる学校の体育館には、用意されたパイプ椅子を埋め尽くす人が訪れていた。


 中学生を繰り返すこと三回目。


 とうとう私も、中学校に残ることが許されない年齢になってしまった。


 そもそも合唱祭というものは、楽しみにする地域住民と、指導に熱を入れる教師のためのもので、私にとってはさほど大事なものではない。


 大体、素人の指揮に合わせて、素人のピアノと素人の合唱を聞いて、何を感動するのだろうか。


 私にとっては、合唱祭なんて巨大な時間の無駄でしかなく、それに強制動員される立場も考えてもらいたくて仕方がない。


 何しろ練習するだけでも一苦労。


 下手な指揮にみんなが惑わされ、音痴な人ほど声が大きい。


 実際に始めてみれば、やる気のない男子と我慢して練習する女子が喧嘩する日々。


 毎年同じことを繰り返して、誰も反省しないことの方が驚くべきことで、これが舞台裏の真相。


 もっとも、指揮者は公平という名のくじ引き、伴走者は推薦という名のやらせ。


 これでやる気と結束力が高まるはずもなく。


 結果を見れば益々無惨で、振り返りたくもない忌わしい記憶でしかない。


 家に帰れば、一家総出で鑑賞に来ていた家族から批難の嵐。


 「どうして、貴方たちのクラスは、あんなに下手くそなの。よくあれで、人様の前に出て歌えるわね。」


 母親の小言が延々と続き、最後に父親から、


 「最近の学校は、あんなのでも注意されないのか。」


 と、ありがたい苦言をもらう。


 それが二年も続けてだから、私一人の問題ではないことは、両親もさすがに理解していた。



 三年生へ進級するにあたって、当然クラス替えをした。


 けれど、蓋を開けてみれば、ステージ上での学級崩壊。


 体育祭をやれば、最下位を独走し、球技大会をやれば一回戦敗退する有様。


 勝敗が決まってしまえば、隣の応援席で暑さを紛らす無駄話に花が咲く。


 早々に負けてしまえば、その分だけ教室で喋っている時間が増える。


 努力しないことで、楽しみが増えることに味を占めて、私のクラスというのは妙な凝集力をもっていく。


 私は、学校生活を充実させる方法に、頑張ることと頑張らないことの二つがあると思う。


 堕落するクラスにすっかり染まった私は、頑張らない楽しさを人生が始まって十四年で会得してしまった。


 「今年は最後だけど、それなりに合唱らしくなるの。そうは言っても、半分はあきらめてはいるけどね。お母さんとしては、一回くらいまともな合唱を見たかったなあ。」


 キッチンでテレビを見る私に向かって、私の母は洗い物をしながらで、その背中が振り向くことはなかった。


 「見たかった・・・って。まだ終わってもいないのに。」


 私もテレビから視線をそらすことはなかった。


 私の母の中では、これから練習を始める今年の合唱祭も、すでに過去のものになっている。


 何度か行われた授業参観に来た母は、私のクラスが期待薄なことを漠然と掴んでいた。


 そういう場の雰囲気を読み解く感度が鋭い私の母は、体育祭も球技大会も全滅することを予言していた。


 実際、まったくそのとおりになって、私の母は今度の合唱祭も“やるだけ無駄”と切り捨てた。


 「まあ貴女の成績は、そんなに悪くはないし、高校受験だけは、ちゃんとやってくれればそれでいいわ。」


 私の母の関心は、すっかり年が明けていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ