補食者
食物は連鎖しており、位階は確立している。
私はミジンコと呼ばれています。海中を漂いながら、同じく漂う植物プランクトンを食べていると、大きく口を開けた補食者が近付いてきました。もう、目の前にいます。
かわせない。そう思いました。私はそれに飲み込まれてしまったのです。
俺は鰯だ。プランクトンを丸飲みしながら、青い海を軽快に泳いでいると、補食者に出くわした。図体がでかくて動きも早い。全力で逃げたが、振り切れなかった。
だめだ。そう思った。俺はそいつの胃袋に納められたのだった。
自分は鮭という者です。餌を捕りつつ、ようやく長い回遊を終え、母川を遡っている途中で、補食者の手にかかってしまいました。体をバタつかせるも、岸に打ち上げられては仕様がありません。
観念するしかない。そう思ったのです。自分はその者に咥えられ、運ばれていきました。
我は熊である。この森の主として君臨する。ここでは、自然界全てのものが我の前にひれ伏し、我が糧となっている。域内の川を遡上する魚どもを掬い上げ、居に戻るところ、奴等と遭遇した。奴等は恐るべき武器を所持している。だが、我にも爪や牙がある。
逃げはしない、食うか食われるか。そう思念した。いざ、雌雄を決さん。我は敢然と奴等に立ち向かった。
僕は一般男子です。中背細身、外向きでないスタイルから世間的には草食と見られがちですが、僕の中でそういった意識はありません。食べる時には食べます。現に今、誘われてでですが、知り合いの女性と食事をしています。内容も野性的、彼女の祖父が獲ってきた熊肉を扱った鍋料理です。やや硬めですが、味わい深い肉の食感に舌鼓を打ち、お酒を嗜んでいると、徐々に体が温まってきて、こんな僕でも力が漲ってくる感じがします。どうやら、彼女も同じく、いや、僕より効果が強そうかも。舌は唇を舐め、目が爛々としてきています。
怖い、まるで獲物を狩る獣のようだ。その通りでした。その夜、僕は食べられてしまったのです。




