Persuasion
「で、それを信じろと?」
目を覚ましたバルドに今までの経緯を話したところ、返ってきたのはそんな言葉とフィリアに対する疑いの目線だった。
「バルド!!
フィリアは僕達を助けてくれたんだよ?」
「俺達を油断させるための作戦かもしれないだろう。
そうやって隙を見て襲い掛かってくるんじゃないのか?」
睨みつけられたフィリアはキョトンとしている。
「僕達を殺すつもりなら毒で倒れているときにできたはずだ。
フィリアは敵じゃないよ」
「どうだかな」
「ねぇ、とりあえず…ご飯にしない?」
「「…」」
あまりに空気を読まないフィリアの発言に、勢いをそがれなんとなく従ってしまうルークとバルドだった。
「そう言えば貴方達が探している宝石だけど、本当にこの森にあるみたい。
ここにあるのはエメラルドですって」
「「ブッ」」
「汚いわよ貴方達…」
驚いて食べていた木の実や薬草のスープを噴出した二人をフィリアは半眼で見つめた。
そんな彼女にルークがせき込みつつ問いかける。
「フィリアが急すぎるんだよ。
というか、どうやってそれを?」
「木が教えてくれたの。
貴方に話を聞いた後、探しておいてほしいってこの森中の木に伝えておいたから」
「例の木と会話できるとかいう能力か…
ハッ、胡散臭いことこの上ないな」
怪しいものを見つめる目に、フィリアは顔をしかめた。
「なによ、疑うの?」
「当然だろう、お前のようなどこの誰ともわからん小娘を信用するほうが難しい」
「バルド、いくらなんでも失礼すぎるよ」
「うるさいぞルーク。
ならお前はどこから来た?親は?いつからここにいる?」
「…どれも知らないわ」
返答に眉をよせた。
「どういうこと?」
「私、何も知らないもの。
気づいたらここにいて、あたりには誰もいなかった。
訳が分からなくて混乱してたら木が話しかけてきて、私はずっとここにいた、少し前に一度森を出たけど、すぐに戻ってきてそれからは一度も森から出てないって言ってた。
だからここにいたら何かわかるかも知れないと思って、ずっとここにいるの」
「記憶喪失ということか?本当に?」
「本当よ!」
「お前、闇の者じゃないのか?」
バルドの問いに、緊張が走る。
一方フィリアは首を傾げた。
「闇の者ってなに?」
「……ふん、記憶喪失というのは嘘ではないらしいな」
「さっきからそう言ってるじゃない。
で、闇の者ってなんなの?」
「闇の者っていうのは、今この国に現れている化け物たちの総称だよ」
問いを重ねるフィリアに答えると、彼女はさらに混乱したように言う。
「でもそんな奴等、私見たことないわよ?」
「それはこの森のおかげじゃないかな。
この祈りの森は、昔女神が棲んでいたとされる神聖な場所だから」
「それに闇の者が現れたのはごく最近だ。
今まではそれこそ平和な国だったさ」
「なんで急に?」
「この国を覆う結界がやぶられた。
しかも人間の手によってな」
「人間の?」
「そう。
この国の前宰相が馬鹿なオジサンでね。
なんでだかは知らないけど、封印を解けば闇の者が自分の言うことを聞くと思ってこの国の支配を目論んだんだ。
で、平和で油断してたところを裏切られて、結界が破られてしまった」
「全く迷惑なことに、その結界をまた張るために俺達が旅をしているということだ」
「……なんというか、大変ね」
あまりにうんざりした様子の二人に、フィリアは一言だけ返した。
「あぁ、じゃあその結界に宝石と剣が必要なのね?」
「なんでそれを?
まさかルーク……」
「あははは…」
「何をやっているんだお前は!!」
「他の人に見せてはいけないの?」
叱られるルークを見てフィリアが不思議そうに尋ねた。
「そりゃあ一応これは王位継しょムグッ
「あ、あぁ、結構有名でな。
他人に見られると噂が広まって闇の者が宝石集めを邪魔しに来るかもしれないだろう?
いつもは宝石が嵌っている部分に布を巻いたりして隠しているんだが、この森に人がいるとは思わなくて外していたんだ」
「ふーん」
頷いて納得しているフィリアを横目に、ルークとバルドは小声で話す。
(なんでお前はそんなに口が軽いんだ!!)
(いやぁ、つい…)
(ついじゃない!危うくばれるところだったじゃないか!
大体そんなにホイホイ剣を見せるな!)
(フィリアは助けてくれたしいいじゃないか)
(そういう問題ではない。
全くあの娘が記憶喪失で助かったな、普通は剣を見ただけで気づかれるぞ)
(だからごめんって)
(次から注意しろよ)
(わかってるよ…)
「ねえ」
「はいっ!」
急に声をかけられ肩を揺らして振り返る。
「内緒話はそろそろ終わった?」
どうやら二人が隠れてコソコソやっていたのが気に入らないらしい。
「いや、バルドにフィリアは信用できるだろって話してたんだ。
ね?バルド」
「あ、あぁ」
「…疑いが解けたならよかったわ。
まだ信用されていない気がしなくもないけど」
「いや、よろしく頼む。
俺達にはこの森のことはよく分からないしな。
それと、疑って悪かった」
「別にいいわ。
確かに私、怪しいもの。
それじゃあこれからよろしくね、バルド」
にっこり笑ってバルドの手を取ると、フィリアはブンブン勢いよく振った。
その行動に呆気にとられたバルドを見て彼女は不思議そうに言った。
「?昨日ルークがこうやってたんだけど…これって仲良くなったしるしみたいなものじゃないの?」
こちらを半眼で見つめるバルドの視線に耐えきれず、ルークはサッと目をそらした。