Gather
翌日になってもバルドが目を醒ますことはなかった。
そろそろ目を醒ましてもいい頃合いのはずなのだが、なかなか上手くいかない。
恐らく旅の疲れもあるのだろう。
必要な薬草をすべて採り終え、フィリアはルークの待つ自らの住処へと戻るのだった。
「様子はどう?」
中をのぞきこみ、声をかける。
だが返ってきた返答は変わらないものだった。
「まだ眠ったままだ…」
「そう……
薬草を持ってきたわ。
そろそろ包帯を変えましょうか」
それに頷いたルークは丁寧にバルドの包帯を解くと、フィリアが手渡す薬草を傷口に貼り、新たに包帯を巻き直した。
ルークの口から溜め息が漏れる。
「……ルーク、外に出ない?」
「…え?」
「根を詰めすぎよ。
そこで見ていてもバルドの目は醒めないし、だいたい貴方、一度も外に出てないじゃない」
「でも…」
「でもじゃないわ。
さ、行くわよ」
渋るルークを外に連れ出す。
少々無理矢理な気がしなくもないが、まあこれぐらいいいだろう。
初めて洞から出たルークは、フィリアが住処としている大樹を改めて外から見て、そのあまりの大きさに驚いているようだった。
「大きいでしょ?
この森で一番の大木なのよ」
「うん、すごい…」
まるで自分のことのように自慢してしまうが、それに返された素直な感嘆にくすぐったい気持ちになった。
二人で樹の根元に座り込み、体を預ける。
「ありがとう」
「なにが?」
「気づかってくれたんだろ?
僕が責任を感じてると思って」
そう、ルークは責任を感じていた。
バルドのあの怪我は、ルークを庇ってできたものだ。
「別に、そんなんじゃないわ。
私が貴方と話したかっただけよ。
ここだと他の人間と話す機会なんてないし、私なんにも知らないの」
「ありがとう」
「そう言えば、ルーク達は王都っていう所から来たんでしょ?」
「……!!
なんで…そう思ったんだ?」
フィリアのした質問に、ルークの雰囲気が一気に警戒を帯びる。
その様子にフィリアは首を傾げた。
「みんなが教えてくれたの」
「みんな?」
「ここにいる木々が」
ルークがポカンとフィリアを見つめる。
その表情に苦笑すると、上空の梢を眺め、目を閉じた。
「別に嘘でもなんでもないけれど…他の人は違うのよね?
私しか聞こえないって、言ってたわ。
疑うのも、わかる」
「いや、疑うわけじゃ…」
「いいの。
でも声が聞こえるの、本当なんだから。
証明してあげる」
そう言ってフィリアは目を開くと、ルークを見つめてニヤリと笑った。
「貴方達は王都という所から来た。
その前は大きな建物に住んでいて、勉強や剣を習ってたけれど、サボりがちだったのよね?
バルドと同じ黒い髪の人に毎日追い回されてたって言ってるわ」
「な、なんでそれを………」
「だから教えてくれたんだってば。
ね、これでも信じない?
まだあるわよ?」
「わかった、信じるよ」
悪戯っぽい笑みに、ルークは降参とでもいうように両手をあげた。
「ありがとう。
ねぇ、王都ってどんな所?
というかこの森の外ってどんな風になっているの?」
負けを認めたルークに、フィリアはここぞとばかりに質問を重ねた。
だが、その問いはルークを驚かせたようだ。
「フィリアはこの森を出たことがないのか?」
「えぇ、だって私は――
「ルーク!!
無事か!?何処だ!?」
フィリアの言葉を遮るように、あがったひとつの声。
二人は顔を見合わせた。
「目が覚めたみたいね」
「そうだね、話の続きはまたあとにしよう。
バルド!!大丈夫だから落ち着いて。
今から行くから」
二人は立ち上がり、バルドの待つ洞の中へと向かった。