Phantom beast
ルークは頭をかかえたくなった。
フィリアという少女の制止を振り切って進んだ森の先には、なんとドラゴンがいた。
そう、ドラゴンである。
「ドラゴンって、伝説上の生き物じゃないの!?」
「俺に聞くな!」
襲いくるドラゴンの爪や牙、尾をどうにか剣で防ぎながら叫んだルークに、バルドも同じく叫んで返した。
その間にも所々攻撃がかすり、小さな傷が増えていく。
「くそっ」
思わず悪態をつく。
ルーク達も決して弱いわけではない。
相手が悪いのだ。
こんなことならあのフィリアという少女の言うことを聞けばよかったかもしれない。
腰まで届く緩く波打つ黒髪と、初めて見る不思議な緑の瞳を持つ美しい少女の姿を思い出す。
初めて見たとき、思わず見とれた。
それほど、彼女は不思議な独特の雰囲気を持っていたのだ。
「……!!
ルーク!!」
少し注意が逸れた瞬間に、ルークに巨大な爪が襲いかかる。
避けきれない。
そう思った瞬間。
――ドンッ
「ぐっ……」
ルークを突き飛ばし、その盾になるかのように立つバルドは。
ドラゴンによって肩から大きく袈裟懸けに切り裂かれた。
「バルド!」
ルークが叫ぶ。
バルドの大きな体がグラリと傾いだ。
ドラゴンは未だ興奮したようにこちらを窺っている。
今にも再び襲いかかってきそうな様子だ。
絶体絶命。
そんな言葉がルークの脳裏をよぎった。
そんな時。
「――だから言ったでしょ、立ち去りなさいって」
凛と透き通る声が響く。
ルークとバルド、二人を守るように現れた少女、フィリアが肩越しに振り返り、呆れたようにそう言った。
ルークは茫然と立ち竦む。
そんな彼に構わず、先程と立場が逆になったように、彼女はスタスタとドラゴンに近づいて行った。
「なっ……危ない!!」
思わず声をあげたルークに、しかしフィリアは動じない。
そのままドラゴンに限界まで近づき、そっとその躯に触れた。
ルークは絶句した。
ドラゴンが、あの、伝説の生き物が。
まるで甘えるかのようにその長く大きな頸をおり、フィリアへとすりよる。
理解しきれない現実に、ルークはそのまま意識を失ったのだった。