Persuasion
「立ち去りなさい」
侵入者は二人。
一人は自分と同じくらいの年の、金の髪、青の瞳をもつ青年。
もう一人は30代程の瞳も髪も黒い男。
ある程度まで観察し終えると、フィリアは二人の前に立ち、警告した。
男は大剣の柄を握りしめたまま、フィリアに問いかける。
青年はフィリアを見つめたまま動かない。
「お前は何者だ?」
「立ち去りなさい」
同じ言葉を繰り返すフィリアに、男は舌打ちした。
「何者か答えろ」
「…フィリア。
この森に住んでいる」
「こんな場所に?」
男は眉をひそめた。
どうやら疑っているらしい。
確かにこの森は人が住むには不向きである。
だが、そんなことはフィリアには些細なことだった。
「私は答えたわ。
早く立ち去りなさい。
この森は貴方たちのような人間が来る場所じゃないわ。
……立ち去らないなら、実力行使に入る」
「――僕達はこの森に用があるんだ!」
「…用?」
青年が突然あげた声に、今度はフィリアが眉をひそめた。
「探し物がここにあるかも知れない。
だから、ここに来たんだ」
「………だとしても、ここには入らない方がいいわ。
死にたくないのなら」
「俺達がここで死のうがどうなろうが、お前には関係ないだろう」
「血が流れれば、木々が穢れる」
男の言葉に、フィリアは苦々しい気持ちになった。
ただでさえこの森は弱っているのだ。
そんなときに穢れなど、冗談ではない。
だが、男と青年はその言葉を聞くと首を傾げた。
「穢れる?
どういうこと?」
「穢れるも穢れないも、要は血が流れなければいいのだろう。
なら問題ない。
通らせてもらうぞ」
「ちょっと……!」
フィリアに構わず森を進んでいく男に、青年も申し訳なさそうにしながらも着いていった。
フィリアはしばし呆然とする。
わざわざこちらが警告を発したと言うのに、何も考えず進んでいった二人。
なんだかバカらしくなってくる。
いっそのこと、放っておいて森から出られず死ぬのを待とうか。
いや、しかしそれでは――まて。
あの男達はどこに行った?
男達が進んでいった方向を見て、急いで二人を追いかける。
悪い予感がする。
この森、そしてこの森に棲む生き物について、恐らく何も知らないであろうあの二人。
もしかすると―――
木々の隙間を抜けた先に、予想通り戦う二人の男達を見つけ、フィリアはやはり問答無用で追い出すべきだったと痛感した。