Genesis
――――そこは、光だった。
何もない空間に、一人の男と女。
倒れる男の傍らに跪く女は、その新緑の瞳からポロポロと涙をこぼしている。
「ねぇ、いってしまうのね」
拙い言葉が女の口から漏れる。
「私をおいて、貴方だけが。
私があの娘にどれだけ恨まれるか知っていて、それでも貴方は」
その責めるかのような女の言葉を耳にして、男は目を細める。
「あぁ、そうだな。
だが、誰も君を恨みはしない。
俺も、もちろんあいつもな。
俺達はお前に救われた。
俺とあいつが今、こう在るのもお前のおかげだ」
消え入りそうな、笑み。
いや、実際に消えかけているのだ。
話している間にも男の体は徐々に透けていき、握る手の感覚さえもがあやふやになる。
「なによ、こんなところまで来て、惚気?
私の気持ち、知ってたくせに」
男は笑った。
満足そうに。
「……そうだな。
なんといっても俺は、最高の妻と最上の女に愛された、世界一の幸せ者だから、な」
女は目を見開いて―――笑った。
涙を流しながら、それでも有り余る幸いに、笑みが零れた。
「馬鹿ね……
ありがとう、愛していたわ。
私の、私だけの王」
男が、消える。
全てが淡い光に解ける瞬間。
「なぁ、頼みがある。
お前にこんなことを頼むの、辛いことだってわかってる。
だが―――」
続く言葉を聞かず、女は頷いた。
男が切なく笑う。
「―――――頼む。
だが、縛られるな。
幸せになれ、俺の愛しい、世界の一柱」
最期に、女の耳元で何かを囁いて。
そうして男は、光になった。
「本当に、馬鹿ね………」