点滴と林檎
静かな病院の廊下にバタバタと騒がしい足音が響いた。
それほど大きな病院ではない為、全ての病室にまで響いていただろう。
何度目かの自殺に失敗した僕、高松 杞雪 (タカマツ コユキ)は、その足音を正直、迷惑に思う。
お見舞いをしに来た足音だと思うが、あまりにも騒々しい。
廊下を駆ける足音の彼。
あまり言いたくないが、それは紛れもない、僕の幼馴染みの足音である。
僕の病室(僕特定の個室と言っても過言ではない)の前で足音が止まり、切羽詰まった様子でドアが開かれる。
僕特定の個室(入室者名は万年、高松杞雪である)に踏み込んだ部外者。
と言っても、幼馴染みの彼であるが。
「杞雪ー、起きてるか?」
彼は紙袋を右手に、お見舞いの品を左手に持ち、足音とは裏腹に静かに入室して来た。
「毎回ご苦労だね。悠君」
点滴は、もうほとんど終わっていたので、ゆっくりと体を起こし、幼馴染みに挨拶を交わす。
「返事をしろ、返事を」
「起きてる、って言うか悠君の足音で起きた」
幼馴染みの彼──山田悠。どこにでも居そうな、平凡な男。
「杞雪、まだ寝てろよ。着替えここに置くからな?」
でも、優しい。
「うん。悠君、そこのナースコール押してくれる?」
僕は昔から彼の事を悠君と呼んでいる。
悠君の場合、こゆ、ゆき、杞雪、と変わっている。
個人的には、こゆ、が好きだったかも。
「どこか痛いのか?」
「ううん、点滴外してもらうだけ」
悠君はすぐにナースコールのボタンを押してくれた。
そして、左手を差し出してフルーツが入っているバスケットを見せる。
「なんか食べるか?」
正直、この男に尽くされるのは悪い気はしない。
僕は、一番好きなフルーツを指さした。
「林檎。」
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