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プロローグ


 堤 咲希という名の女子高校生は、どうして「ヒキコモリ」になってしまったのだろうか、なんて著しくお節介な空想に身を投じてみることとして、まず一番に俺が考えるべき事柄は一体何なのだろうか。


 時期、期間、年齢、環境……まぁ色々あるだろうが、合理的に優先順位を決めて考えてみるのとは全く持って無縁に、この俺の決して聡明とはいえない凡庸な頭脳に真っ先に浮かんできたのは、彼女の本来の性格だった。所詮、俺は理詰めより感情論の文系男子なのである。……いや、これは俺の勝手な偏見だけど。


 とにかく、堤 咲希という一人の同級生と過ごし蓄積してきた日々を辿っていくと、俺の記憶の中の彼女はいつも笑っている。根っからの明るいやつなのか、それともちょいとおかしいやつなのか? と疑ってみたくなる気も山々なのだが、俺は一応前者ということで考察を終えている。世の中大切なのは、適当なところでの妥協なのだ。


 堤 咲希はそりゃーもーそりゃーもー非常に明るく快活な美少女であります。


 だから俺は「ヒキコモリ」版の堤を想像することができない。薄暗い部屋の中で、布団に潜り苦しい呼吸をしながら孤独に耐え、無意味に日々を消費していく堤を想像することも妄想することもできない。


 親の脛を噛みちぎる気満々に、スナック菓子を口一杯に頬張りながらPCのキーボードを乱暴に叩く堤なんて尚更だ。そこまで荒ぶるワイルドレディは俺の乏しい連想力じゃ最早ゾンビぐらいだったりする。


 なーんて、砂を噛むようなボケはこれくらいにすることにして。


 認めるのも癪だが、妥協なんてのはもちろん冗談なのだ。俺が見る限り、あいつは間違いなく明るく、この世にまたとないポジティブ女のはずである。明日地球は爆発します、ってどっかの政府が宣言したって、平気で笑っていられるような。


 それとも俺が見て、感じて、判断した全てはまやかしだったのだろうか。彼女はすべてをうまく偽って、俺を騙し通していたのか。


 まぁ、あり得る。


 俺には人を見る目もないし、残念ながら嘘を敏感に察知できるようなチート能力も持ち合わせていない。


 堤がかなりの演技派で、実は底無しに暗い性分だったりするならば、それは充分過ぎるほどにあり得ることだ。むしろ「もうそれが答えでいいじゃない」なんて、ポワロかそこらの探偵さんが行う無駄に長ーい犯人探しに耐えかねた貴婦人が投げやりに吐き捨ててしまうくらいの名推理だったりする。


 蛇足とわかって言わせてもらうと、そんな貴婦人の右隣に座ってる美少年あたりが犯人だったりするんだよね。


 さてさて、閑話休題。


 話を本旨に戻そう。


 堤 咲希は、何故「ヒキコモリ」になったのか。


 正直に言うなら、そんなもんわからない。わかるはずもない。そもそも俺自身、あまり他人と関わりを持とうと思わないのだ。そんな人間が他人のことを慮るなど、まるで雲をつかむような話である。


 他人を理解すること、し合うこと、それは到底無理なこと。俺はそう考えるし、そう思う。


 じゃあなんでお前はここにいるんだよ、と自問してみる。そして自答してみよう。


 さぁ?


 明確な理由なんてないさ。堤が気になって? 単なる好奇心? 俺が何とかできるとでも? そのすべてを俺は綺麗さっぱり否定することができる。他人と関わりを持つのは嫌いではないけれど、他人と関わりを(無理に)持とうとするのは嫌いだ。過度な干渉も、下手な慰めも反吐がでる。それができるほど俺は人間が出来てないし、自惚れてもいない。


 けれど俺はここにいる。ぬけぬけと自分の意志でここに立ち、普段の俺の理念に反しまくってここに存在している。その事実に何か理由を持たせなければいけないのなら、羞恥を忍んでこうしようじゃないか。



 不意に彼女の歌が聴きたくなったから、かな。



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