表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

天ガチシリーズ

復讐に向かない復讐者の日記

作者: アーックス
掲載日:2026/05/25

▽月☆日

 明日から勇者学校に通うことになった。苦節10年、ようやくと言ったところか。節目を迎えるということで今日から日記を書くことにした。孤児院の先生達が勇者学校に合格した時に欲しい物はと言ったので日記帳が欲しいと言ったらくれたのだ。厳しい所もあったが、なんだかんだ甘いのかもしれない。

 いや、勇者学校を卒業したら天使様の元で悪魔共と戦うのでその時の為のアピールだろうか?……いけない、人の善意を疑うのは悪いことだろう。天使様の元で戦う勇士になる為にも僕……俺は変わらなければならない。

 そう、全ては十年前に俺から全てを奪った奴に復讐する為に。その為に全てを捧げなければ。明日は早いので今日はもう寝る。



▽月○日

 奴だ。奴がいた!!俺から全てを奪ったアイツが、こともあろうか勇者学校に入学制として存在していた!!何故奴がここにいるかという疑問で他の殆どのことを覚えていない。共に勇士として戦うことになるだろう同級生たちの顔も名前も何もかも。

 奴の姿が俺の脳に焼き付いて離れなかった。天使様達は奴のやったことを知っているのだろうか?十年前に俺の故郷である村を焼き払った奴のことを。知らない訳がないと思う、思いたい。だが奴が俺の想像以上に狡猾で天子様達を騙しきっている可能性もある。油断は出来ない。もしそうであるのならば奴の危険性を知っているのは俺だけとなる。

 何とかしなければならない。奴に近づきその行動の一々を監視しなければ。学校側に報告したとしても公式的に俺の村に生き残りはいないということになっている以上信憑性に欠ける。

 もし、奴がその力を再び善良なる人々に向けることがあるのであればその時は俺が止める。奴に近づく為の作戦を練る為に今日はもう寝よう。



▽月△日

 屈辱だ。何故俺がこんな目に合わなければならないのだろう。天使様、俺が何か悪いことをしているのでしょうか?清く正しく生きてきてたと思うのだが。

 …………いけないいけない、天使様を疑うなどあってはならない事だ。それに今更何を言ったとしても彼らの勘違いを正すことなど出来ないだろう。

 結論から言おう。なんか俺が奴に惚れているということになっていた。昨日ずっと見続けていたのが原因だそうだ。確かに奴の容姿は美しいと言わざるを得なかった。

 光を反射し輝いて見える銀髪も、神秘的と言わざるをえない。右が夕日のように鮮やかなオレンジ色で左が雲一つない青空のような蒼色をしたオッドアイもまたその印象に拍車をかけている。十年前見た、あの時と変わらない姿が目に、脳に焼き付いている。その美しさを否定は出来ない。

 今日友達になったトゥモーがそれを教えてくれた上で分かる分かると背中をバシバシ叩いてきた。背中も心も痛かった。

 だがよくよく考えてみれば悪いことではないだろう。俺の風評が最悪になることは間違いないが惚れていることにすれば奴に接触を図ることに対して誰も疑問を持つことはない。

 奴を監視して、俺の故郷にした事をやろうとした時斬る。その為にも今はこれを利用していくべきだ。

 ……ただ心情的に非常に疲れたので今日はもう寝るとする。



▽月▽日

 腹立つ、腹立つ、本当に腹立つ!!あの女、俺が話し掛けまくっても一切反応しなかった!!!それどころか話題を振っても必ず鼻で笑って馬鹿にしてくる!!!上等だ、無視できなくなるまでずっと話し掛け続けてやる!!!他の生徒の目なんて無視だ無視!!!!

 ……落ち着け、悪い癖だ。一度熱くなるとそれ以外が目に見えなくなる。日常生活ならまだしも戦いの中でこんな癖を残していたら間違いなくすぐに死ぬ。奴に復讐する前にそんなことになったらそれこそ死んでも死にきれない。

 それに悪いことばかりではない。完全に無視されてもなお関わろうとしているというのは今後どんな状態になろうと話し掛けるのに周囲からも奴からも違和感を覚えられることはない。

 奴を監視する、その目的の為にも俺はへこたれてはいられない。それでも腹の虫は収まらないので今日はもう寝る。寝れば大抵のことは忘れられる。覚えているのは故郷を焼かれた時の怒りだけでいい。



◇月☆日

 入学から一ヵ月以上経った。結論から言おう。奴は化物だった。

 うん、いきなり何を言っているのか読み直した時分からなくなりそうなのでもう少し分かりやすく言おう。奴の才能、現時点での能力はあまりに高すぎる。勇者学校に通う勇士候補達の中でも間違いなくトップだろう。上の学年を含めて、だ。既に同級生達の中には奴に対して勝てないと諦める者達が多い。俺やトゥモーはまだ奴に勝つことを諦めていない。もう一人、魔法主体の女子生徒がくらいついている。

 俺は事情があるから諦めることなどないが、彼ら二人は本当によくやっていると思う。その心の強さを本当に尊敬する。そして勝つことを諦めた彼らを責めることなど誰にもできはしない。あの力を見た上でそれでも自分に出来ることをと奮起している人もいる。本当に、俺とは違いここにいる勇士候補は心から凄いと思わせてくれる。彼らと共に学べるというのは幸運だと断言出来る。

 明日は奴との模擬戦がある。俺と奴の今の差を知る絶好の機会だ。どうにかして奴に全力を出させたい。どれくらい鍛えればいいかの目安を手に入れたい。

 その為の作戦を考えるためにも今日はここで終わろう。



◇月△日

 一日日記を書かない日が出来てしまった。サボったわけではない。ただ単に書ける状態ではなかったというだけだ。

 その原因は昨日の奴との模擬戦にある。全力で、何度地面を転がろうと諦めずに向かって行ったら面倒くさくなったのか奴がいつも動かさない眉を顰めながら俺の腹部に強めの蹴りをぶち込んでくれたのだ。地面を転がってもまるで勢いは落ちないでそのまま校舎の壁に埋まることになった。おかげで俺の身体はズタボロになった。

 天使様による祝福により身体能力が向上していていなかったらあの一撃で死んでいただろう。本当に天使様には感謝しかない。“愛”を捧げるのに一切の疑問は要らないと誰かが言っていたがその通りだと思う。悪魔共と戦うのに心強い味方だと言わざるをえない。

 それにしても奴も奴である。普通一ヵ月も話し掛け続けた人間に対してあの面倒そうな顔をしながら蹴りをお見舞いしてくるのはどうなのだろうか。

 ……いや、よく考えたら日頃から好きでもない人間に話し掛けられ続けるとかストレスが半端ないだろう。ストレス発散だと考えたら大分まともなのかもしれない。

 自分の行いを見返して死にたくなりそうだ。だがへこたれるわけにはいかない。奴が再び悲劇を起こさないかを見張り、そして奴にいつか俺の故郷を滅ぼしたことを後悔させる為にも関わり続けなければ。復讐の為にも、世界の為にもこの身を焼き尽くそう。今の俺にはそれしかないのだから。

 蹴られた腹部が痛くなってきたのでもう寝ることにする。一日休んでも治らないとか、明日もまだ治ってなければ治癒術師に頭を下げなければ。



◇月▽日

 なんか学校に行ったら滅茶苦茶囲まれた。なんでもあそこまで食らいついたその気合をみんな評価してくれたらしい。凄い凄いと言ってくれるのは少し、いやかなり嬉しかった。あそこまでやったのは俺だけだったと教官も褒めてくれた。同時に実力をちゃんと付けなければ味方を巻き込んで死ぬだけだとも言ってくれたが。

 その通りだと思う。無謀な行動はそれだけで周囲を巻き込んで破滅することになるのだから。だが今回の模擬戦は大成功と言わざるを得ないだろう。なにせこれを機に互いを刺激し合うということで奴としばらくの間だがパーティーを組むことになったのだから。奴に友好的に接し、何を狙っているのかを知る絶好の機会だ。

 まぁ、今回のことがなかったとしても奴が他の人間とパーティーを組めたかと言えばノーだったが。だって無表情だし。容赦がないし。顔は可愛くても態度が可愛くないので初期は沸き立っていた生徒達も今じゃ遠巻きに見ているだけだ。その気持ちは非常によくわかる。俺も理由がなければ関わろうとしなかっただろう。そもそも悪魔達との戦いの為に全てを捧げているのだから女にうつつを抜かす必要などないのだから。俺の全ては故郷を滅ぼした奴と、その背後にいるであろう四大魔王に復讐する為だけにあるのだから。

 明日から憎い奴と過ごす日々が始まる。蹴られた腹部は治療されたはずだがまだ痛む気がするので寝ることにしよう。



□月☆日

 アイツマジで生活能力が皆無なんだが。というか勇者学校に通う勇士候補達の殆どが生活能力ないんだが。勇士候補達は全員寮に入れられている。男女ともにだ。ここを卒業すれば性別など関係なく悪魔達と戦うことになるのだから当然ともいえる。男女が共に過ごして互いのことを知らなければ実際の任務の時大変なことになるだろう。だからそれはいい。当然の判断だと俺も思う。

 問題なのは勇士候補ほぼ全員がいい所の家の出身者ということだ。俺みたいな孤児院出身や一般家庭出身の人間など存在しない。要するに、実家ではメイドさんやらが世話してくれて来た人間ばかりということだ。料理など当然できないし掃除も、洗濯すら出来やしない。

 それでも最初の二ヵ月くらいはまぁなんとかなっていた。食堂の利用を学校が許してくれていたからだからだ。だがその二ヵ月を越えたら一ヵ月ごとに食堂利用をしていい月としてはいけない月に分けられた。そして今日がその日で……全員が食事を用意されない事態に対応できずに飢えに苦しんでいる。食堂の利用には金がかかるから俺は普段から安上がりに済ませるために自炊していたから影響は絶無だったが。

 奴が腹を空かせている光景、腹を鳴かせている姿はとても面白いのだがトゥモーを含めた全員がこうなると腹の音で授業が十分に受けられない。仕方ないので食堂から大鍋を借りてきてスープを作ったら……何故か他のクラスの連中まで集まってきた。ありがとうありがとうとみんな言ってきたのだが、もしかしてこれから毎日作らなければならないのだろうか。自主鍛錬もあるので嫌なのだが。

 でもあの女がいつも無表情なその綺麗な顔を悔しそうにしながらスープのお代わりをしに来たのは面白かった。これが見られるのであれば奴の部屋の掃除もしてやろう。もっと悔しそうにする顔が見られそうだ。羞恥心に悶え苦しむがいい。今日は非常に気分良く寝れる事だろう。



□月○日

 奴の部屋を掃除してやった。物自体は少ないはずなのによくもここまでぐちゃぐちゃに出来たものだ。日々出てくる洗濯物もこの調子では積み上がっていくことだろう。だがまぁこの量ならば機械を使うより手洗いした方が早いのでそうしたら真っ赤な顔して殴りかかってきやがった。

 下着なんて所詮はただの布だろうに何をそんなに怒っているのかまるで分らない。着ている所を見られたのならば殴られるのも吝かではないがこんな事で怪我するのは心底嫌なので逃げた。

 洗濯してない下着とかただの汚い布だろうに。洗濯途中の布を持って逃げたら全速力で追ってきやがった。

 結論として洗濯は自分でやるという言葉を引き出せたので良しとする。奴の屈辱と羞恥の入り混じった顔は実に見ごたえがあった。明日は殴られた顔が腫れて前が見えなくなるだろうがそれだけの価値はあったと断言出来る。腫れが酷くならないように顔を冷やしながら寝ることにする。



◆月■日

 入学から既に四ヵ月たった。唐突だがやはり俺に天使様が与えてくれる聖法を使う才能はないらしい。勇者学校に通いだして早数ヵ月が経ったが俺に出来るのは自分の肉体を強化することくらいだ。天使様の“ツガイ”になることが出来れば更に強くなれるらしいが俺には無理だろう。天使様と直に接したことなんてないし、接する機会もない。

 それに“ツガイ”になるべきなのはトゥモーのような聖法を天使様と同じくらい扱える本物の勇士みたいな奴だ。強い人間をさらに強くすることの方が重要だろう。俺はトゥモーのような勇士を守る盾になればいい。

 復讐者に天使様の祝福が届き切らないなんて当然のことだから納得はしている。それでも身体を鍛えることだけはやめない。不可思議な力が使えないなら筋肉で殴るしかない。あの女に対してもここ最近は食らいつけるようになってきた。もっとも条件を同じにした状態ならという但し書きが付くが。奴はトゥモーと同じように聖法も使える。しかも肉弾戦よりそちらの方が上手いほどだ。

 それを封じた上で近距離戦(武器在り)で俺を上回ってくるのだからたまったもんじゃない。クラスどころか学年、学校全体から見ても近距離戦だけならトップクラスなんだが。

 だが学校という環境の中でトップというのは別にそこまで誇れることではないだろう。なにせそんなもの毎年いるのだから。向上心を捨てずに奴を上回り打倒し、復讐するまで鍛錬を続けなくてはならない。



★月○日

 年末が近づいてきた。今年は非常に大変だったと断言出来る。だがその甲斐もあって俺は非常に成長したと言えるだろう。奴との模擬戦でも今ならほぼ対等に戦えるようになってきた。身体の頑丈さという奴に上回れる部分を鍛えまくった結果だ。今ならば胃がひっくり返るような奴の蹴りを受けても耐えられる自信がある。というか何度か耐えた。奴との戦績もここ一ヵ月で言うならほぼ五分だ。

 だが油断はしていけない。あくまで互角なのは近接戦闘の上でだけだ。聖法を使いだせば俺に勝機はないだろう。光の槍や弓の攻撃力は侮れないし、光の鎖などで縛られたら今の俺では脱出するのに一呼吸はいる。その隙を奴は見逃しはしない。実際なんでもありでやったら身動きできなくなった瞬間に集中砲火を受けて負けたのだからこれは間違いないだろう。光の鎖を無理矢理引きちぎった時の奴の顔は見物だったが。「なんで普通に逃げられるの……!?」と目を見開いていた。逃げられなかったからその後光の矢に押し潰されたのだが。手加減してたとか言っていたが嘘だろうあれは。俺以外だったら死んでたかもしれない。

 ……他の連中に使ってこなかったのは殺さない為、なのだろう。この勇者学校で過ごしにくくなるから仕方ないと思っているのか。それとも奴自身に良心があり殺したくないと思っているからなのか。

 もし後者の場合だったら、そんなものを持っているのならば、何故俺の故郷を滅ぼしたのかを聞き出したいところだ。納得することなど到底できないだろうが、それでも知りたいと思うのは俺の復讐心が弱くなったからだろうか。頭が混乱して来たし、これ以上考えたら動けなくなりそうなので止めよう。俺はもう止まることなど出来やしないのだから。



★月■日

 アイツ本当に最悪なんだが!!!なんであそこまで的確に人の心を抉るようなことが出来るんだよ!!!俺じゃなかったら心を病んで引き籠っている所だぞ!!!

 ……いけない、落ち着け俺。盾役には冷静さが必要不可欠だ。どこをどう守るべきかを判断するのに冷静さを欠いたら俺自身も仲間も死ぬだけだ。

 落ち着く為にも今日の出来事を振り返ってみよう。年末にはパーティーがあり、そこでダンスを披露することになるらしい。俺は当然参加するつもりなどなかった。お偉いさんに顔を覚えてもらうつもりもなかったし、パーティーでは食事もろくに食べられないらしいので行く理由がなかったのだ。

 それがどうしても参加しなければならなくなったのが俺が優等生だったからだろう。既にこの学校で一番の戦士と言われている俺が出なかった場合どのような不具合が起こるかあの銀髪オッドアイ女に懇々と説明された。

 それ自体はありがたいのかもしれないが、何故奴は語尾に「なんでこれくらいのことも分からないのですか?」とか「脳みそちゃんと詰まってますか?」とつけるのだろうか。思わず「分からない人間に説明する時の気遣いをするだけの脳みそはないのか」と言い返してしまった。たんこぶが出来るくらいに思いきり叩かれた。

 とにかくそんなことがあったので年末のお披露目パーティーには参加することに放った。問題なのはダンスとは縁のない人生を送ってきた事だろう。戦いとはまるで違う足元のステップとか覚えるの滅茶苦茶面倒くさい。

 何を思ったのか奴が俺のパートナーとして練習を見てくれることになった。奴曰く「貴方に足を踏まれたら私以外では無事に済まないから仕方ないことです」らしい。ありがたすぎて涙が出てくる。なんか妙にやる気に満ちているがなんなんだろう。



★月★日

 お披露目パーティーは問題なく終わった。料理が滅茶苦茶美味しかった。今まで食べたことのないような豪華な物だった。こんな料理貴族でも殆ど食べたことないとトゥモーが言っていた。しかし国のお偉いさんどころか天使様達が見に来るなんて聞いていなかったので非常に驚いた。優秀ということで話し掛けられたが物凄く緊張してしまった。奴が隣に立ち、肘で突いてきたので覚えた言葉を何とか出すことが出来た。非常に業腹だが今回は感謝するしかない。

 奴もなにやら天使様に言われていたが、それについては何も聞こえなかった。音が漏れないような聖法をお使いになられたのだろうか?天使様がそうするべきだと判断したのであればそれについては何も言えないし、言う気もない。

 ただそれでも学校の代表として踊る役目に俺が入るのか、それだけは聞きたかった。トゥモーのような人間がやるべきだと思ったが、当然そちらもやることになっていたらしい。学校全体の成績優秀者が参加するとこの時初めて聞いた。当然あの女も知っていたらしい。何故言わなかったと言ったら「だって聞いていたら緊張で更に物覚えが悪くなりそうでしたし」と無表情で言いやがった。それはそうかもしれないけど本番直前に知らされる俺の身にもなってほしい。

 ムカついたのでダンス中に奴のドレスを褒めちぎってやった。今ならば何を言っても反撃出来やしない。顔が真っ赤になる様は実に見応えがあったと言っておこう。

 当然そのままやられっ放しではなく、ヒールの付いた靴で思いきり俺の足を踏んできやがったが。なんなのアイツ、負けず嫌いにも程がない???



△月★日

 もうすぐ勇者学校に通いだして一年になるという今日。四大魔王の一角が大きく動き出したとのことだ。既に隣国では被害が出てきているらしい。俺達もまた無関係ではいられない。

 トゥモーを筆頭に、俺と銀髪オッドアイ女、それと聖女を秘密裏に送り出し魔王を殺すように天使様から使命を受けた。

 天使様達は最前線で上級悪魔達を始めとした連中と戦うことになる。その隙を突くということだ。天使様が魔王のいる所まで行こうとすれば必ず途中で露見するが、人間ならば可能という事だろう。悪魔に“欲望”を供給する人間があちらにもいる。人間ならば、それに紛れ込むことも出来る。世界の為にも、俺の故郷のような地獄絵図をこれ以上生み出さない為にもこの使命を果たさなければならない。

 


▽月■日

 旅を始めて早一ヵ月。ようやく悪魔の支配領域に足を踏み入れることになった、想像以上にここは混沌としていた。生物は悪魔達によって滅茶苦茶な生態系を築いており見たことのない動植物が山ほど存在する。迂闊に狩って食べる何てことしていたら毒とかで死んでいたかもしれない。毒を無効化できる聖女様がいてくれてよかった。その聖女様はトゥモーが守っている。彼の背中にくっついている聖女様は顔真っ赤だ。なんでも同じ年頃の異性と過ごしたことなどないらしい。そのままトゥモーと仲良くなってくれれば交流もしやすいので助かる。

 少なくても基本無愛想な無表情銀髪オッドアイ女に比べれば遥かにマシだろう。ここ最近味を占めたのか飯を作ってる時につまみ食いしに来る。そんなに食いたいなら作るのを手伝えと言ったら大人しく俺の隣で作り始めた。何考えてるのか本当に分からない。



◇月◇日

 今日は本当に散々だった。上級悪魔と初めて戦うことになったのだ。上級悪魔はそれぞれ二つ名とか名乗っているがどれがどれなのかまるで分らなくて困る。ただコイツラは基本的に仲間意識など皆無なので殆どの場合が単独行動している。なので戦いは四人対一人で行われたのだが……“欲望”の力というのは本当に凄まじかった。体系化されていない為、能力の発展などは俺達の陣営の方が上だが、多彩さという部分では間違いなく奴の方が上だった。

 周囲の森が更地にされたがなんとか逃げ切ることが出来た。とはいえ逃げている途中でトゥモーと聖女様とはぐれてしまった。俺と銀髪女は川に飛び込んで逃げたからだろう。これからどうしようかとも思ったが奴が二人の居場所は分かると言っているのでそれを頼りに行くしかない。

 問題なのは移動する前にずぶぬれになった身体と服を乾かさなければならないという事だろう。焚火を起こすことには成功したが銀髪女を脱がすのに非常に苦労した。さっさと脱がないと風邪をひくだろうに奴は抵抗しまくったのだ。顔を赤くして風邪の兆候まで出てきているのにだ。

 仕方ないので無理矢理ひん剥いた。力だけなら今の俺の方が上だから仕方ない。抵抗自体弱かった気もするが気のせいとする。



◇月□日

 何とかトゥモー達と合流することが出来た。別れている間に何かあったのだろうか?二人の距離が明らかに近づいていた。名前呼びになっているし気付かない奴はおかしいだろう。銀髪女が気付いていなかったのは人間関係弱者だから仕方ないとする。奴に関しては雑に扱ってもいいと思う。

 合流してからは上級悪魔について話す。奴を倒すことが出来なければ四大魔王の一角を倒すなど無理だろう。だが俺達には対悪魔戦の経験が足りな過ぎる。才能や能力はあれど経験がなければ咄嗟の時に判断し行動することも出来ないだろう。

 なので下級悪魔や中級悪魔と戦うことを目標とする。噂ではあるが、奴らは自分達の支配領域にある人間の集落をも玩具にしているらしい。そこに向かえば戦うことが出来るだろう。

 …………思い出す。俺の村は元々は天界の支配領域だったが、今は悪魔達の支配領域内にある。この先進んだら、俺は里帰りすることになるかもしれない。その時、俺はこの銀髪女に対する殺意を隠しきれるだろうか。今から覚悟しておくべきだろう。魔王を殺す為には悔しいが銀髪女の力が必要になる。自分の復讐心に他人を巻き込むのは許せない。復讐を果たすのは、魔王を倒した後にすることにした。



■月☆日

 経験を積み、上級悪魔に挑んだ。それが二日前になる。二日間日記を書けなかったのはその間俺が生死の境を彷徨っていたからだ。聖女……いや、名前で呼んでほしいと言われたのでリザと言おう。彼女の聖法によって回復してもらえなかったら俺は今頃死んでいた。

 俺達が戦った上級悪魔は長年生きてきた個体だったらしい。悪魔に寿命はなく、生きている時間が長いほど強大な悪魔になる。悪魔が位を上げる一番の方法が長生きする事らしい。大体100年生きれば下級悪魔も上級悪魔相当になるとのことだ。もっとも大抵はその前に死ぬし、元々上級悪魔として生まれてきた奴には及ばないらしいが。

 だが、その上級悪魔を俺達は倒すことが出来た。俺が盾になりトゥモーや銀髪女が攻撃を仕掛け、そしてリザが回復し“欲望”能力を防ぐ。それでようやくだった。最後の最後に鼬の最後っ屁とばかりにばかげた威力の技を放ち、他の三人を庇った俺だけがこうしてぶっ倒れたわけだが。

 それでも結果として全員生き残り勝つことが出来た。これは快挙と言えるだろう。これだけで魔王を殺せると判断するのは早計だが、それでも可能性は見えてきた。俺達ならば、勝てるかもしれない。



■月■日

 銀髪女がずっと看病してきて鬱陶しかった。いや、鬱陶しいというのは少し言い過ぎたが、それでも着替えを手伝おうとして来たりとか面倒くさかった。今俺達がいるのは悪魔の支配領域の中にある廃村だ。奇跡的に残っていた屋根のある家、そこで休息をとっていた。

 廃村を見渡せばそこには記憶にある光景が広がっている。そう、ここは俺の故郷だ。そして今寝ている家は、俺が家族と一緒に住んでいた家だ。

 もう誰もいない。ネズミすらいない廃村の中で銀髪女にずっと看病されている。トゥモーとリザは食材をとってこようと行ってまだ帰ってこない。二人きりというのは、どうにも居心地が悪い。

 だからなのか、それとも生まれ故郷に帰ってきたからなのか、俺はどうかしていたのだろう。銀髪女に思わず聞いてしまった。何故、この旅に参加したのか。魔王を倒しに行くのかと。

 アイツは復讐と答えた。自分の家族を殺したアイツを殺す為と。


 頭が沸騰しそうになった。俺の家族を殺したコイツが、自分の為に復讐するのかとそう思って。

 だけどその想いは次の言葉で消えてしまった。


「ここの村人を殺したのは、私。私がみんな殺した。家族を人質にされて、強いからって理由で忠誠を確かめるために。でも、その頃には私の家族はもう殺されていた。四肢を切断されて、苦しんで死んでいた。そんなことも知らずに、私は大勢殺した。……地獄に落ちたい。死んでずっと苦しんでいたい。でも、ただ死ぬなんて私は許せない。だから、せめて魔王をちゃんと殺さないと」


 アイツは、俺と同じだった。アイツが俺の家族を、故郷を滅ぼしたのは家族の為だった。俺がアイツの立場だったらどうだろう?同じことをしなかったなんて断言出来るだろうか?

 いいや、俺が銀髪女の立場だったら同じことをしていた。家族の為だったら、見ず知らずの人を殺すこともいとわなかったはずだ。


 アイツは泣いていた。このことを話していたアイツは大粒の涙を流して、それでも声をあげずに泣いていた。後悔に苛まれて、仕方なかったなんて言い訳も出来ずに。

 気付けばアイツの頭を抱き寄せていた。泣いていいと言えば銀髪女、エナは周囲を憚らずに泣いた。何故こんな事をしたのか自分でも分からない。それでもこうすることが間違いだとは思わなかった。


 俺は、どうするべきなのか分からなくなった。復讐を果たすべきか、それとも全てを押し殺してなかったことにすべきなのか。

 父さんなら、こういう時どうしたのだろう。誰も答えを教えてくれはしなかった。



★月●日

 いよいよ明日、俺達は魔王に挑む。奴の居場所を特定することに成功した。天使様達も一大攻勢を仕掛けて悪魔達を釘付けにしている。ここで俺達が奴を殺すことが出来れば人類にとって大きな一歩になるだろう。勝率は、決して高くはない。1%あればいい方なのだろう。そしてそれが最大限良くみた上での結論だ。それでも学友達が、天使様達が戦っている以上負けることは許されない。


 そんな決戦前夜だからだろうか。トゥモーとリザは二人共いつの間にかいなくなっていた。夜のデートに行っていると銀髪女は俺の隣に座って言っていた。何故俺はコイツと二人で星空を見上げているのだろう。夜空は、昔家族と並んでみた時と同じ光景として目の前にある。あの時と違うのは隣に座っている奴だけだ。


 どうすればいいのか俺は未だに分からない。俺の故郷について伝えるべきか、憎んでいることを言って責めるべきなのか。それとも何も伝えずこのまま生きることにするのか。どれを選んでも誰かに対して不誠実になるだろう。


 復讐をしても誰も戻ってこない。そんなこと分かっている。


 そんなこと誰も望んでいない。俺の家族ならきっとそうだろう。


 世界を救うためにそんなことするべきではない。ああ、幼い頃に夢見た英雄になれていたならそれを選ぶことにきっと躊躇いなどなかっただろうに。


 俺は結局、この日何も伝えられなかった。ただ、全部が終わった後に言いたいことがあるとだけ銀髪女、エナに伝えた。


 どんな選択をするのか、それを決めるのは俺自身だ。他の誰にも決めさせない、俺の選択肢。


 ただ、隣で顔を赤くしてこちらを見てくる彼女を苦しませたくないと思ったのは確かだった。



★月★日

 魔王を倒すことに成功した。四人とも生きて帰ってこれたのは奇跡と

 決めた。俺は明日復讐を決行する。もう止められない。認めるのは悔しいが俺は銀髪女が。エナをいつの間にか好きになっていた。アイツが俺の故郷を滅ぼしたのも、仕方ないことだと思う。


 だけどそれらを含めた上で俺はアイツを許せない。いや、許したくない。許したいけれど許したくないという二律背反の心情だ。もうぐちゃぐちゃになって苦しい。四大魔王の一角を殺した俺達は英雄と言われている。俺が死んでも残り三人も魔王が残っている。だが、そいつらと戦うだけの気力が俺にはなかった。もう、終わりにしたいという身勝手な想いに支配されている。


 もしかしたらこれが魔王が最期にかけたという呪いなのかもしれない。人間関係もぐちゃぐちゃにしてから死ねという、幻覚やら何やらを操ってくる奴にふさわしい能力だろう。

 ……復讐の仕方は、エナが俺にした事をする。簡単に言えば、アイツの大切な人間を殺す。俺が家族を殺されたようにアイツの大事な人間を殺す。誰を殺すか、そんなもの悩む必要もなかった。


 俺は……僕は僕を殺す。


 エナを呼び出して、その目の前で自分の心臓を貫いて死ぬ。


 彼女にとって僕が大切な人間になっていれば、辛いことになるはずだ。その前に僕がどのように生きて来たかのか話すつもりだ。何故こんな事をするかも話す。

 行き当たりばったりの生き方をして来た僕にふさわしい終わり方だと思う。


 後悔はないとは言えない。未練も後悔もある。勝手に死んでトゥモーやリザには悪いと思う。謝ったところで何も変わりはしないけれど。


 そしてエナ。僕の家族を殺した彼女をこれでようやく憎まないで済むようになると思えば、心が軽くなる。もう二度と彼女を憎みたくはない。


 もし、生まれ変わりというものがあるのであれば、彼女ともう一度ちゃんと出会いたい。その時は、ちゃんと好きだと伝えたい。一緒に生きていきたい。なんてこれから彼女の前で死のうとしている奴が言う事じゃないかもしれないけど。


 日記帳もこれで最後のページになる。二年半くらい使えたことを嬉しく思う。僕の全てはここに記すことが出来た。

 エナ。僕が愛しく思い、憎く思った君。僕のことを引きずってほしいと憎む心が思う。忘れて幸せになってほしいと愛する心が思う。二つがあって、どうしようもないけれど。どちらも否定しきれない。だからせめて最後に彼女に伝えたいことを最期に書こう。


 初めて会った時からここまで来て、僕は君を好きになっていたよ。


 ……さて、そろそろ彼女を呼び出した約束の時間だ。死にに行くとしよう。思い返せば色々とあったけど総合的に見れば、きっといい人生だった。



【魔王を倒したパーティーの戦士:リョウの日記】


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ