神さま、転移する。
ご覧頂きありがとうございます。
‘’無双‘’がなんとランクインしました!
すごい!!
有難う御座います!!!
森を抜ける前に、やっておこうと思った事がある。
角骸鯨の個体情報は、鑑定眼で見ると同時に記憶した。
その気配も、同様に覚えた。
な〜んかこの辺って魔物が出ねぇなぁとは思っていたのだが、その理由も分かった。
どうやら、イッカクやペンギンのように、潜水を得意とする魔物が多いようだ。
陸地を進めど遭遇しないのは、ある意味で当然の事だった、というワケだ。
ソレ等の動物は、二〇〜三〇分程の潜水時間を最長としたが、角骸鯨なんかは、余裕で五時間とか潜っていられるらしい。
どんな肺活量をしているのだろう。
それだけ長時間、深海に潜っていられるなら、陸に上がった際の減圧症に悩まされそうなものだが。
きっと魔力を使って、肉体を重力から守っているのだろう。
魔物も、霊力のような‘’魔力‘’と呼ばれる、瘴気が濃縮されると自然に生じる、不思議エネルギーを消費して生活をしている。
そこまで知性の高い魔物は居ないけれど、ソレ等の力は感覚的に使う事も可能だ。
考えずとも、本能的に身を守る術として、身に付けているに違いない。
ホント、この世界の生き物って、地球の常識が通用しなくて困る。
しかし俺とて、この異世界に来てから半年以上が経過している。
シャンバラの不可解さを、受け入れられるようになってきた。
そしてソレを、活かす術も身に付けた。
セリアの様子を気にかけながらも、カノンとずっと横並びに歩いていた。
そのポジションから、違和感を抱かれない程度に少しずつ、視界から外れる程度まで後ろに下がった。
ヒトの左右両目で見た時の視野は、左右で一八〇〜二〇〇度だ。
ココまで下がれば、気付かれまい。
非常識にも霊力の扱いにも慣れたもので、身体の周りに保護膜を形成する。
水圧の影響を防ぎ、呼吸の確保も出来るように想像した。
そして角骸鯨の気配がある、深海へと瞬間移動する。
群れで行動していたらしい角骸鯨から、オスとメスを一匹ずつ鑑定眼で選別し、手早く屠る。
今回は角も肉体も、丸ごと確保しなきゃね。
カノンの怒りを鎮めるための、交渉道具だからね!
血液は傷口から今も海水に流れ出てしまっているため、フルでは持って帰れない。
だが死骸となった今ならば、容量がほぼ無限の、‘’四次元ポシェット‘’に収納が可能になった。
時の精霊の力が使われているため、時間の概念を無視してくれる、摩訶不思議な機能付きだ。
血液がこれ以上流出する事は無い。
一秒にも満たない、短時間で済ませた出来事ではあったが、二匹同時に仕留めたため、当然のように周囲の海水は赤く染まってしまった。
血の匂いに反応したのか、突然現れた余所者を排除しようとしているのか。
もしくは自分の夫を殺されたと認識したためか。
残された三匹のメスの角骸鯨は、一斉にその立派な角を前に突き出し、俺目掛けて猛スピードで突進して来た。
三方向から串刺しにされるまで、大人しく待っているような時間は無い。
用事は終わったのだ。
すぐ帰ろう。
海の中に突然現れた来訪者は、角骸鯨が夢か幻だったのかと錯覚してしまう程に短い滞在時間で、現れた時と同様、突如姿を消した。
「お前、本当、やりたい放題だな。
……おかえり」
「ありゃ、バレたか。
ただいま」
ほんの二、三秒の事だったのに。
最近のコイツは、隙が無くて可愛げがない。
気付かれてしまったという事は、俺が何処に何をしに行ったかもバレバレだろう。
サプライズに失敗してしまった。
残念である。
驚かせる事は出来なくなったが、角骸鯨以外の魔物の居場所も、だいたい分かった。
この情報は、良い土産になるだろう。
そして、俺達がいつまで経っても開拓村を見付けられなかった理由も、同時に分かった。
「オプスクリス開拓村は、こちらが入口になってます。
ただ、あの……外部の方を村の中に入れる、許可を取らなければいけないので、すみませんが、待ってて頂けますか?」
「えぇ、もちろんです。
ご面倒をお掛けしますが、宜しくお願い致します」
今の俺は‘’精霊様の使者様‘’だ。
外面は良くしなければ。
丁寧な言葉で、ムダに笑顔を振りまき、手に持っていた籠をセリアに手渡す。
こんな少女が一人、危険な森へと薬草を詰みに行かなければならないような状況だから、てっきり大人連中が漏れなく病気でダウンしているのかと思ったのだが。
許可が必要な、上の立場の者が居る。
その事実を鑑みるに、どうやらその予想ははずれたようだ。
免疫の高い大人が看病をして、ソコソコ年齢を重ねた、教わらずとも自分で薬草か否か判断出来、魔物と遭遇しても対処出来るセリアを使いっ走りにしたという事なのだろうか。
ソレなら、男を向かわせた方が、万が一の時には危機から脱出しやすいと思うのだが。
毒草も摘んでたくらいだし。
「セリアさん」
「わ、わたしなどにけ、敬称はいりません、使者様っ!」
「……では、セリア」
元気だな、この子。
確かに一〇〇円均一と同じ名前に敬称を付けるのって違和感あるな〜とか思ってたから、有難い申し出だけれども。
だがやはり、変だな。
敬称とか、普通に喋ってる丁寧語とか。
この世界には学校がない。
イヤ、最近創ったから非常に少ない、が正解か。
丁寧語や尊敬語、謙譲語を喋れる人。
しかもソレを相手によって使い分けると知っている人は、世界中を探しても正直、ほぼゼロだと思っていた。
客商売をしている人達ですら、ぶっきらぼうな喋り方をしている人が殆どなんだもの。
貴族や王族のような偉い人達。
またソレ等の人達に使える人々。
年貢を徴税しに来た役人達をもてなすための立場にある、町長や市長のような集落の偉い立場にある人。
あとは施設出身の地球人。
それくらいしか、まともに丁寧な話し方をしている人を見た事が無かった。
なのにセリアは、自然と喋っている。
所々、尊敬語と謙譲語が入り乱れてはいるけれど、ソレは俺も似たようなもんだ。
注意して来るようなヤツもいないし、良いやと適当に喋っているからね。
だって立場を弁えて居ないとか言って、罰を与えて来るような輩はもう居ないんだもの。
誰か、教える立場の者が、身近に居るのか……
もしくは、親が村長で、次期村長だからと今から叩き込まれているのか。
イヤ、それなら尚更、危険な薬草採集なんてさせないよな。
はて?
「貴女は角骸鯨の角を取って来るように申し付けられていたのですか?」
「い、いえ……
命令をされていた、わけでは……」
「そうなのですか?
もしそうなら、私が貴女の採取の邪魔をしてしまったと思うので、お詫びに手持ちの欠片でも宜しければ、お渡ししようと思ったのですが……」
角を丸ごと渡したら、カノンに渡す分が無くなる。
二本あるけれど、オスとメスで効能が変わるかもしれないから、どっちかだけでも渡すなんて事も出来ない。
だが薬草採集ではなく、最初から角骸鯨の角が目的だったのならば。
独りだけの決死隊として送り込まれた、その犠牲者数ならば。
「目的のブツも持たずに何おめおめと帰って来ていやがるんだ、テメー!」って感じで、ちゃぶ台をひっくり返されて怒られてしまうかな、と思ったのだ。
もうすぐ成人を迎えるとは言え、女の子をたった一人で森に向かわせるなんて、おかしいもの。
村の事を思い浮かべる話題を出すたびに俯いているし、後ろめたい事でもあるのかなと思ったのだ。
「お持ちなのですか!?」
セリアは俺の言葉に、弾かれたように顔を上げる。
そして期待に満ちた眼差しで、顔を覗き込まれた。
この距離で、それだけ熱烈にジッと見られてしまうと、いくら薄暗くても、魔王の特徴がバッチリと分かってしまわないか、気が気じゃなくなるのだけれど。
だが直ぐに自分の無作法を詫びて、慌てたようにまた顔を伏せた。
この様子なら、大丈夫……かな?
「えぇ。
村まで案内して下さったお礼に、差し上げます。
もし、もっと大量に必要だという事であれば……
村の中で、依頼交渉と致しましょう」
「入村許可、もぎ取って来ますね!」
両手にグッと握り拳を作ったあと、何か指で印を切ると、セリアの姿が忽然と消えた。
……コレも、精霊術か。
心臓に悪いなぁ。
やはり半年程度では、まだまだこの世界のすべてには、慣れそうにない。




