第八話【サブストーリー】
【獅鹿勇斗の憂鬱】
またフラレたっす。それでも、何度も何度もアタックして。
つけられたあだ名は『永遠に二番手のナンパ師』『もみじ饅頭が似合う男』『逃げ足秒速5cm』。もう勘弁してほしいっス。
だいたい今の若い野郎って、草食系じゃないんスか!?なんで俺みたいな肉食系は厄介払いされて、飄々としてふんぞり返ってる野郎がモテるんだ!
こうなったら俺、やっぱ海外に行くしかないっス……!
「ってことでどうか、俺に外国語を教えてくださいッス」
「お断りッス!」
「そこをなんとかァ〜〜」
「もうーお客さん、うちの曖永にこれ以上ダル絡みするなら出禁にするからねェ!」
「うう……店長にまで厄介払いされたら、俺はぁ……グスン」
こんなときは待受を見て、平静を保つ。
俺の推しの『SSSグループ 姫華ちゃん』の握手会に参加したときの、奇跡的に撮れたツーショットでしか俺の心は癒せない……。
「僕はお客様のお話聞くの、楽しみですよお!寧ろ行く末が気になります!」
「人の人生肴にしないでください!あ、というかこのあと可愛い女の子とデートなんすよ〜なんか良い口説き方思いつかなくて」
「ぼくの母国だと、胃袋つかむのが必殺技ですよお!で、材料になる鹿肉とか仕留めて首根っこ持ってけばモテモテ間違いなしです!」
「……おお、確かにぃ!!……でもこの辺りに鹿っていたっけか?」
「いらっしゃいませェ」
でもま、気入れ替えてくかー。
なんたって今の時間から午後までの科目は、楽単なので出席カードさえ出せばいい。そして既にカードは出してあるので、この後は曖永さんに引き続きデートについてアドバイスもらって。
午後からはずっと狙ってた、別のクラスの可愛い女子とデートだし!
……と、あれやこれや考えていると、ちょうど扉がチリンと開けられた音が鳴って、爽やかなサラリーマンが来店した。
そのサラリーマンは怪訝そうに、まるで小路に迷い込んでしまったかのように店内を見回してから、一言。
「あのー……ここって有名なケバブ屋ですか?先輩に教えてもらって来たのですが」
「うん。ケバブ屋じゃなくて喫茶店だけどね?」
「それは表メニューで、こちらの表が裏メニューだよ!」
「こっちが本当の喫茶店のメニューだからァ!」
確かにここ最近、ケバブやチリソースパスタ、マッサマンカレーやタコライスなど、通常の喫茶店では提供されることのない料理が続々と登場している。
もちろん初見で憤慨した客は二度と来ないし、有名なマップレビューでもそりゃ酷い書き込みもされてる。
でも、俺みたいに物好きな奴らは、味もさることながら、曖永さんの人柄にもやみつきになってまた来ちゃうわけで。
困惑しながらもそのリーマンは机に座り、コーヒーとケーキを注文した。
そして曖永さんが意気揚々と厨房に戻ったところで、ぽつりと呟いた。
「……先輩に酷いこと言っちゃったなぁ……」
「その先輩って、普段ここに来るんすかー?」
俺は好奇心旺盛なので、飲みかけのアイスティーを持って、何やら訳ありなリーマンの正面にどかりと腰かけた。
「いつも時間ないときは、ケバブをテイクアウトして食べてるから、同じフロア内にいると分かるんですよ。だからその……この前ランチさせてもらったときに、場所を教えてもらって。私もちょっと、食べたくなりまして」
「へー。その人気に入ってるんスね、曖永さんのこと」
「でも来年にはもういなくなっちゃうんですよ。これから先、僕一人で務まるとは……」
次の言葉が見つからないまま俯くリーマンを見ると、
俺も将来就活して社会人になったら、こんな湿気た顔で働きづめになりたくないな〜なんて考えてしまう。
「んなの当たって砕けるもんっしょ。……うわ、眉間にシワ寄ってる」
「……む」
深く刻まれた眉間のシワを親指で伸ばしていると、
「お待たせいたしましたぁ、パパイヤジュースともちもちフルーツナンでございまあす」
「…………私が頼んだのはコーヒーとケーキですが?」
随分と南国な料理に、思わず吹き出してしまう。
その表情のまま、リーマンが目の前に提供されたケーキ……ならぬもちもちフルーツナンを一口齧ると、曇っていた表情が明るくなり、眉間のシワもなんだか薄くなった気がした。
「これが。これが……先輩の、好きな味なんですね」
まるでドラマのワンシーンみたいなドラマティックに、俺の笑いは加速した。
「……ップハハハハハハハ!!」
「……何がおかしいんですか」
「え?いや、何でもないっす!……ップ、アハハハ!!」
俺もいつかこんなふうに、誰かに愛される人になりてえよ〜。でもその前にまた適当にはぐらかされるんだろな。
リーマンは揶揄われたのかとコホンと咳払いをして、それでも耳までピンク色になっている。分かりやすい人っすね~。
曖永っちも、目の前のリーマンが元気出たのが余程嬉しかったみたいで。
正午の柔らかい西日が大きな窓から差して、夏の夜風に鳴る風鈴のように、指先を口元に寄せてころころと笑ってた。
「……というかその缶バッチ、もしかして姫華ちゃんですか?」
「そうですけど……ってええええ!いや、偏見は良くねえっすけど、もしかしてドルオタ!?」
「私箱推しでもあるんですが、桃美たん推しでして」
「えええ桃美ちゃん小柄で可愛いっすよね!つか、たん!?」
「……私、こちらの名刺にございます通り西川と申します」
「え、ああ、はい…………勇斗って呼んでもらえたら嬉しいっす」
「このあと暇ですか」
そんなものすごい剣幕で凄まれたら、ただ頷くしかないッスよ。というか食いつきがさっきとまるで別人っす。なんかもう魂の片割れ見つけました的な、そういう凄みッス。
しかもグレーでキッパリと着こなしたスーツに爽やかオーラなどの姿で、ドルオタっていう共通の趣味があるのは、なんだかもっと西川さんを知りたくなってきた〜ッ!
「いつもの結末を考えたらまあ、暇っちゃ暇スね」
「コンカフェ……って、興味あります……?」
「ねえねえお客様たちどこか行かれるんですか!?僕もついていきたいです!!」
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――数時間後。多くの人々が行き交う交差点の中を、俺と曖永っち、そして西川さんで意気揚々と目的地へと向かう。
なんと俺らしくないことに、デートの誘いを断ってまで。
地下へと続く階段をくだっていくと、そこは天国だった。ピンクのカーテンや内装に、チョコレートパフェの甘い香りがする。
「いらっしゃいませ、ご主人様~!」かわいい子ちゃん達が俺に笑いかけている。俺はチョロいから、ああこの瞬間のために、この国に生まれてよかった~なんて思っちゃう。
曖永っちは「美味しくなる魔法、お店でもやってみようかなあ!」と巧みな指ハートやウインクを持ち前の器用さで習得してて。
一方でお酒が入った西川さんは、「……やかあせんぱいぃぃいいわたくしは、ううっ、どうかぢあわぜにぃ…………」泣き上戸で方言出てきちゃうタイプというまさかの展開。
間に挟まれた俺は必死に口説くも、業務的なプロの対応で尽く躱されて。
でも、俺って結局。こうやって大鍋みたいに皆がいられるがまま、楽しくやってるの大好きなんスよね〜!
……俺たちの関係性ってきっと、それぞれの旅の拠り所なんだ。
――こんなKOMICHIで結ばれた縁が、俺はたまらなく大好きっす!
ふと開いた受信の「本日の抜き打ちテストについて」というタイトルを速攻スワイプして、かわいい装飾のあしらわれた銀製のスプーンを手に取り、オムライスを口いっぱいに頬張った。




