第七話
――長い、長い夢を見ていた。
誰かと手を繋ぎながら、俺は天を仰いで指を差す。
「見て、お母さん!綺麗な流れ星だよ!」
それは、それはとても綺麗な、瞬く灯で。
「……キャアアアアッ!!」
「逃げろ、逃げろォッ!!」
耳をつんざくような不協和音が響き渡る。
どうしてみんな、流れ星を怖がるのだろう。
幼い俺自身を俯瞰する心が、訴えかけている。これは”兵器”だ。大人数の命を奪う、弧を描いた兵器の光だ。
――皆が寝静まる夜。一縷の隕石が地上に落っこちて、狼煙が上がる。
恐怖に人々は逃げまどい、サイレンの音が五臓六腑を震え上がらせ、命からがら逃げだした。
俺は、途中で足がもつれて転んでしまった。
突如訪れる命の終わりと、襲い来るであろう痛みへの絶望に、目を瞑る。
「――どうかお逃げください、早く、早く!」
自分が死んだと確信した瞬間。まるで別の人生をやり直したように。
俺は、見知らぬ土地の、雄大な牧場にある倉庫の中で胡座をかいていた。
遠くの方には、一面に星の様な白潤の花々が、風に流れて波打っている。
朧花色に満ちたこの倉庫で、曖永はいつものように頬を染めて、ゆっくりとこちらに笑いかけた。
「もし、国境もない、すべてが一つの国だったのなら。僕らは、幸せになれたのかな」
曖永は羊飼いのように、無数の羊を連れて、果てしない雲海を見上げている。
もし生まれた場所が違うのならば、俺たちが生きる人生は上手くいって、お互い幸せになれたのだろうか。
「そんな顔しないで。イズミさん」
「……ん?」
下瞼から頬にかけて、雫が流れ落ちる感触がする。
それを指で拭って、それから。
「もっとシャキッと起きなきゃ、ですよ!」
「あひゃひふ…ふひょひゃ……!」
思い切り頬を両手で伸び伸びと摘まれて。
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ゆっくりと瞼を開けると、そこには太陽のような笑顔が一輪、咲いていた。
「おはよう、イズミさんっ!」
現実に胸を撫でおろして、安堵する。
夢というのは時に、理不尽な恐怖を与える。でもそれは、内なるストレスを解消するための、脳の仕組みらしい。
「あれ、泣いてる?」
でも、なぜ処理するのに、まるで他人の人生を見るような錯覚を覚えるのだろう。
まるで、心奥底では気づいているのに、俺は見て見ぬふりをしている。
――寝てる間に泣いてた、なんて。生まれてこのかた初めてかもしれない。
「……なんか、あれだな。昔、実家で飼ってたペットを思い出す」
「えええ!それって褒めてますかあ!?」
「ん、なんか焦げ臭くないか?お前、火つける時は離れちゃ駄目だぞ」
「うわあ、そうだった!ケバブの生地焼いてたんだったあ~~!」
「……ま、慌ただしい朝も悪くはねえか」
夢の余韻にに構ってる暇はない。それに、夢の内容なんて、すぐ忘れるもんさ。
今日は貴重な休日。曖永と暮らすため、今日は買い出しに出かけよう。




