第十七話
「お前……なんか、見た目の割には熱血なんだな」
「あってはいるんスけど、もう少し手心ってものがないんスか?」
パフェはとっくのとうに空になり、俺も頼んでいた苺ジュースが空になった所で、獅鹿はこんどは生キャラメルラテとパンケーキを注文している。
「相当食うんだな。何杯目だよ」
「いや、2,000円ごとに楓夏ちゃんとのチェキ撮れるんで。あ、このまま一緒に撮ります?」
「俺は払わねえぞ」
「そこを大人の財力で何とか……ッ!そういえばリーマンさん、お名前は?」
「逗口泉だ。名刺要るか?紙のやつはそんな刷ってないからな、貴重だぞ。なんならインターンに来てもいい」
「ううう……就職の話は頭が痛くなるッス……。でもそうだ、俺が恋愛相談すると、決まって『イズミさんは〜』って話してたんですよ。いつも俺、誰だろうって羨ましくって、リーマンさんのことだったんスねぇ〜」
「……………………これ、情報料な」
机上にあったレシート分の金を置いて、椅子にかけていたスーツとコートを羽織って、席を立つ。
「……なあ、フランネル共和国ってやつはどこにあるんだ」
「まさか、ええ!本気っスか!?まだあれからヴァルハラルも別の大国と戦争続けてるみたいだし、絶対ヤバいって!」
「そんじゃあ尚更すぐ飛行機で行く」
「なんでそんな行動力あるんスか!いや俺だってアタックの数だったら負けないけど!」
楓夏ちゃんとやらが「あざしたー」と金を回収し、札の枚数を数えている。
俺は、つい聞いてみてしまった。未成年にする質問でもないかもしれないが、それでも、これまで出会ったことのない若者の意見を、聞いてみたかったのだ。
「お前は正直、どう思ってた。……俺は、曖永みたいな奴が痛い目見て、奴隷みたいな雑な扱いされて、追い出されて、憤ってた。それなのに世間は逆で、国はなんだか善い方向に向かっているような気がしてさ」
「んー……?外国人がどうのって話?いや、考えたことないッスよ。でもやけに周りはうるさかったっすね、そういうの。急にどうした?って感じで」
「俺は、あいつのことを考えるなら。本気で怒って、ほら、お前は何もかも違うから帰れって、嫌われる覚悟をするべきだったのか。……お前だったら、どうする」
獅鹿は指を顎にあてて考える素振りをして、やがてすぐ、明日の晩ごはんを聞かれたときのような顔で。
「逗口さんって、曖永っちが外国人だったから好きだったんスか?」
そう、軽やかながらも、その問いは芯のあるものっだった。
「逗口さん、曖永っちに助けられたんでしょ?だから恩返しに、何かしてあげたいなって思った。それって当たり前じゃないッスか」
当たり前の感情。そうして、自身の感情をのみ込めただけでも、心の底の澱みが軽くなった感じがした。
『……それって、誰のことですか』
部長にそう返した、曖永の言葉がふと甦る。あの時に部長をぶん殴って、んなこと言うの間違えてるだろ。って、そう言ってやれればよかった。
俺は結局、本当の俺の気持ちを曝け出して生きていくのが怖かったから、安直な常識に、これで良いのかと委ねてしまっていた。
そして、曖永にはその恐怖に打ち克つ信念があって、それが洞察力という才能として形を成し、たくさんの人々を救っているんだろう。俺とまた、同じように。
俺は礼を言って、地下にあった店を出て、階段を上って行った。外に出て、大きく息を吸う。
「今からここまで、だいぶ距離ありそうだな。乗り継ぎもあるな……?」
ざっと調べてみたら、この夕方から夜行便で半日以上。この国とまるで反対側にあるヴァルハラルは、この国の何倍もデカい。それ故か、到着してからのフランネル共和国までのはっきりとした行き方が不明だ。
しかも、ヴァルハラルのど真ん中の、山脈に囲まれた秘境のような地らしい。ヴァルハラルは、別の国と長年争っていて、渡航レベルは極めて高い。当然住民への被害も出ているという。
そんな緊張感があるなかで、曖永の生まれ育った場所は、一体安全なのだろうか?
自宅で荷造りをしていていると、曖永の置いていったものが自然と視界に入る。いまでもスパイスの香りがするし、そこの家具の裏側から。はたまた、お手洗いを空けたら。はたまた、布団の中から、「じゃーん!」と、驚かせてきそうな気配もする。
――俺の行く先は、別の世界の朝らしい。
空港に到着し、飛行機に揺られながら夜空を眺める。曖永も同じ景色を眺めていたのだろうか。この燦然と輝く数多の光を、生活の営みを。
あの日、屋上から街を見下ろした時と同じ様に。




