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絆創膏を

作者: 夏城燎

「かあちゃん」

「なあに」

「怪我しちゃったよぉ」

「あらまぁ、待っててね。いま絆創膏を持ってくるから」





 六歳。外で遊んでいる時にいつの間にか切り傷が出来ていた。絆創膏を貼る。

 六歳。学校の校庭で豪快に転び膝を擦りむいた。絆創膏を貼る。

 七歳。教科書で指を切ってしまい、人差し指に絆創膏を巻く。

 八歳。包丁の練習中に手を滑らせ、手の甲を切る。絆創膏を貼る。


 十歳。自転車で水路に落ちて擦った部分に絆創膏を。

 十二歳。友達と喧嘩して頬を切り絆創膏を。

 十五歳。駅前でバランスを崩して足に絆創膏を。

 十五歳。卓球で台に腕をぶつけて絆創膏を。

 十六歳。勉強中にうとうとしてしまい、おでこを強打して絆創膏を。

 十八歳。久しぶりに趣味で使った彫刻で絆創膏を。


 二十歳。彫刻刀で指を切って、何回も絆創膏を。

 二十歳。ささくれが中々治らなくて絆創膏を。

 二十一歳。乾燥で血が出て来て絆創膏を。

 二十一歳。山から転げ落ちていたるところに絆創膏を

 二十二歳。自転車に轢かれて、病室で女性と出会い、絆創膏を。


 二十三歳。彫刻刀を落として足に絆創膏を。

 二十四歳。彼女と一緒に行ったスキーで怪我をして絆創膏を。

 二十四歳。削った木が指に刺さって絆創膏を。

 二十四歳。彫刻刀をひっくり返して頬を切り絆創膏を。

 二十五歳。彼女に指輪を渡したその日、指のひび割れを見かねた彼女が絆創膏を。


 三十歳。軍手を着けずに彫刻刀を触って不注意で絆創膏を。

 三十三歳。彼女と一緒に山に出かけて虫に刺され絆創膏を。

 三十四歳。彼女の手に、絆創膏を。

 三十六歳。耳が欠ける大怪我をしていたるところに絆創膏を。

 三十六歳。ささくれがまた悪化して絆創膏を。

 三十七歳。娘の小さな手に、絆創膏を。


 四十歳。泣き喚く娘に絆創膏を。

 四十一歳。足を切った娘に絆創膏を。

 四十一歳。指を切って泣いた娘に絆創膏を。

 四十二歳。彫刻刀で指を切ると、娘が絆創膏を。

 四十三歳。妻が包丁で怪我をして絆創膏を。

 四十四歳。老人ホームにて眼前で指を切った母のしわしわな手に絆創膏を。

 四十五歳。読書をしていて本で指を切り絆創膏を。

 四十五歳。深爪で血が出て来たため、処置して絆創膏を。

 四十六歳。転倒して腕を縫い、他の傷に絆創膏を。


 五十歳。娘の大怪我に慌てて腕をぶつけ、絆創膏を。

 五十一歳。病室で娘と過ごしていると紙で指を切り、娘が絆創膏を。

 五十五歳。庭の植物園で虫に噛まれ絆創膏を。

 五十六歳。妻が足を擦りむいて絆創膏を。

 五十九歳。彫刻刀でまた、怪我をして絆創膏を。


 六十五歳。気が付かぬ間に小指を切っており、娘が絆創膏を。

 六十六歳。妻が家で転倒して絆創膏を。

 六十七歳。妻と一緒にお出かけ中に虫に刺されて絆創膏を。

 七十二歳。妻の仏壇の前で足を滑らせ尻餅をついて、体重をかけた腕が擦りむいたので絆創膏を。


 八十一歳。

 孫が庭で遊んでいるところりと転倒して、わんわん泣きながら寄ってきた。絆創膏を取り出して丁寧に巻いてやると、孫は表情を綻ばせてかわいく笑った。







 三歳。おじいちゃんが僕に、絆創膏を。


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絆創膏という日常的なアイテムを通して、人生の様々な出来事や人との繋がりが紡がれていくのがとても心温まります。幼少期の怪我から始まり、恋愛、結婚、子育て、そして老いと、各年代での絆創膏にまつわるエピソー…
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