ロッカーを蹴っていた奴に会いに行こう①
囚われのフキノにメールを送って、目的地へ向かう途中の駅で待ってもらった。偶然、三人が走り出した道が闇医者のアジトに通じる道だったのだ。もしかしたら野生の勘でアンズがその方向に走った。……訳ないか。
とりあえず待っている駅に行くとナズナは愛しのフキノの腰にしがみついて、アンズは呆れたような顔で見ていた。
リュカとクラウは意地悪気な顔で手を振って言う。
「よう、お待たせ。愉快な仲間たち」
「遅くなったな、愉快な仲間たち」
「誰が愉快なんですか!」
第三者から見たら愉快な武装機体兵たちにしか見えないよ、ナズナ。
そしてナズナは俺が操縦するドラム缶ロボットに座るゾンビ改めモヤシ君を睨む。そう、このモヤシ君、俺のドラム缶ロボットにずっと座っている。乗り心地がいいのだろうか? 割と重たいから、移動が遅くて大変なんだけど。
ちなみにシラヌイは先に闇医者の拠点近くにワゴン車で向かっている。彼は闇医者と患者を運ぶための運転手なのだ。……普通の運送会社の社員なのに、護送車の運転手をするのか。
そしてナズナはモヤシ君からハンゾウの方へ目線を向けて、口を開いた。
「今回の件、ロッカーボコボコ事件は地下鉄車両立てこもり事件と関係性や共通点がありますよね」
ハンゾウは「あるぞ」と答え、「歩きながら話そう」と言い、みんなで歩き出した。もちろんナズナはフキノにしがみついてへっぴり腰で歩く。よくそんな歩き方ができるよな。
「前回の地下鉄車両立てこもりの前に以前、ナズナが闇バイトをしてトランクらか武装機体兵が出てきた事件があっただろ」
「ありましたっけ?」
「ナズナ、あったぞ。トランクにはオリバって言うマレ飯でバイトしていた奴が入っていたんだろ」
「あったじゃん、ナズナ。それでリュウドウに専用の電子端末没収されたじゃん」
アンズとフキノがそう言い、その時のナズナを捕まえていたセトが「とぼけんな」と笑う。ナズナは不貞腐れた顔をして「ああ、思い出しました。ありましたねー」と言った。
ハンゾウは気にしないで話の続きをする。
「トランクから出たオリバを連れていこうとしていた機体持ちの男がいただろ? そいつは闇医者の患者で、次の患者のための素材である武装機体兵を運ぼうとしたんだろう」
「じゃあ、このまま持って行かれたらオリバは機体持ちの体にされていたの?」
「そうなるな。だけどオリバは覚醒して逃げた。これがトキオ奪還の地下鉄車両立てこもり事件の失敗の一つだった」
「え? 失敗?」
「そうだ。捕まえた偽のイトジマが言っていたんだ。本来自分は機体持ちになるはずだった。それなのに手術も何もしていなかったって」
『うん。アクアリウム・クオリアの調査で、あいつは手術をしたって言う記憶を植え付けられていた。それで火事場の馬鹿みたいな思い込みで強い力を得た。でも短時間だったけど』
俺の解説は解説をして、ナズナは「なるほど」と呟いた。ものすごくきりっとした顔をしているが、フキノの腰に抱き着いているのでどう見ても情けない姿だ。
「本来だったら機体持ちになった後、事件を起こしてイトジマとして大暴れをしてキミンチに逃げるつもりだった。だが機体の素材になるオリバが逃げたもんだから、計画はぶち壊れた。そして計画は続行しなければいけない。すでに本物のイトジマを誘拐しようとして、後日機体持ちの手術もしようとしていたのだから」
まあ、そんなにうまく計画通りにはいかないからな。
ハンゾウは「そんな大問題を抱えていたけど、当日も最悪な事が起こったんだよ」と半笑いをする。するとばつが悪そうにキュウリの子が「うん」と言いながら、話し出した。
「本当だったら私やメンバーは居住区に行って騒ぎを起こすはずだった。そうすれば、ここの派遣巡査も居住区に向かって、あそこの地下鉄の駅は手薄になるはずだった。だけどなんか知らない奴に追いかけまわされて……」
「あ、私か」
アンズの言葉に「そうだよ」とキュウリの子は言い、睨む。そう、アンズが居なければ、もっと被害は拡大していたのだ。
ニマニマと得意げにアンズはこういった。
「じゃあ、私は地下鉄を救ったって事か」
「いや、それは無い」
うんざりしたような顔でハンゾウはそう言って、アンズは「何でだよ!」とすぐに反論する。そしてハンゾウは「お前は本能だけで生きているだけだ」と返した。この言葉にはセトもシラヌイ、他の武装機体兵達も頷く。俺もそうだと思う。