ゾンビパニック!②
「無理! 足がすっぽ抜けた人を捕まえて、ゾンビになったらどうするんですか!」
「だからその人はゾンビじゃないです。違法で手術した機体持ちです」
「どっちでもいいよ! そんなの! なんで化け物を捕まえないといけないの!」
そう言ってナズナは再びフキノに抱き着く。
見ての通りナズナがお化けとか未確認生物とか苦手である。何せ、フキノがスダチと同じ部屋で寝るようになった日から、ナズナは俺と会話しないと寝れなくなってしまった。自分が眠くならないと通話を切ってくれないのだ。俺が無視すると、ずっと着信音が鳴りっぱなしで、トウマにさっさと出ろよって目で見るのだ。
そして変な音が聞こえるとびっくりして階段を使わず、窓を開けて三階の窓に登ってフキノに助けを呼ぶのである。その姿はまさに化け物みたいとスダチとアンズは大笑いをするが、ナズナの心はか弱くてお化けが怖い女の子なのだ。
そんな子が行けるはずが無い。
ナズナをどう説得させようか考えていると、「ハンゾウ、お疲れ様でーす」「お疲れ様です」と言う声が聞こえた。カメラを向けるとセトとラパン、シラヌイとリュカとクラウがいた。
ハンゾウが「お、すまんな」と声を被せるように、ナズナが「見てください!」と半泣きで訴え始めた。
「ゾンビがいるんですよ! ゾンビが!」
「あ、本当だ」
「ガチゾンビ」
「ゾンビだー」
ナズナの迫真の訴えに対して、リュカとクラウとラパンは驚くこともなく普通の反応を見せた。と言うか、ちょっとは驚けよ!
それはナズナも思っているようで「何で驚かないの?」と聞くと三人はよく分からないって顔で口を開いた。
「だって、結構噂になっているじゃん」
「足が抜けた奴も出たらしいな」
「ゾンゾンゾンゾンビー」
よく分からない歌をラパンは口ずさみ、リュカとクラウは答える。この反応にナズナは絶望的な顔になって行った。武装機体兵でこの恐怖を理解できる奴はほとんど存在しないんじゃないか、もう。
一方、ハンゾウはセトとシラヌイにこの事件のあらましを簡単に話していた。話が終ろうとするとリョウは立ち上がって「じゃあ、私は帰るわ」と言った。
「これから戦闘に入るんでしょ。私は非戦闘員だから」
「おう、分かった」
あっさりと認めるハンゾウに「お疲れ様でしたー」とリョウは言い、オリバも会釈して後に続く。そしてナズナとフキノも。
「おい、こら! ナズナ、お前はここに残れ」
「無理です!」
そう言ってナズナはフキノに抱き着く。そんな彼女にアンズは力強く説得する。
「ナズナ、武装機体兵がやらねば、誰がやるっつんだ。化け物には化け物をぶつけるんだ」
「私は化け物じゃないです! ゾンビを倒す者は、ゾンビ作った奴です! というか、ゾンビを作った犯人は絶対にゾンビを倒す薬を作っているはずです! それを使うのです! 私の代わりなんていっぱいいるんです!」
「出来るわけねえだろ。武装機体兵を作った奴は私達を倒せないじゃん」
「あとゾンビじゃない」
アンズとオオツの言葉にナズナは「うわあああん!」と泣く。それを見てアンズは強い意志を持った目をしながら「ナズナ!」と言った。
「武装機体兵は愛と戦い忘れた人のために戦うってスダチは言っていたぞ」
「そんな設定無いし、ゾンビと戦うために生きていない! 少なくとも私は関係ない! お前らが始めた戦いだ! 誰が生んでくれと頼んだ!」
「ああもう、フキノ! 何か言ってやれ!」
アンズに指名されて抱き着かれているフキノは「ふへ?」と間抜けな声を出した。だがナズナを撫でながら、穏やかな声で言った。
「ねえ、ナズナ」
「何? フキノ」
「帰ったら一緒に映画を見ようよ」
「……駄目だよ! そんなこと言っちゃ! 死亡フラグ立っちゃうじゃん!」
おい! フキノ! なんてことを言うんだ! お前結構映画見てきているって言っていただろ! 何にも終わっていないのに次の事を計画したら、化け物に襲われるのは定番だろ!
ナズナは「もう、いやだ!」と言い出して、フキノに「もう、帰ろう!」と言う。フキノは「えー……」と言うだけで何も答えていないのに、ナズナは出口まで引っ張って行こうとする。
そんな時、アンズが「お、おい。フキノ」と震える声で言った。
「お前、ゾンビになってないか?」
ナズナが「ヒエ!」と小さく悲鳴を上げてフキノから、パッと離れた。その瞬間、アンズはフキノを掴んで走り出して、悪役のようなセリフを吐く。
「アハハ! お前の大事なフキノを返してほしけりゃ、ここまで来い!」
ぽかんとしているナズナは、二人が見えなくなってから騙されたことに気づいて「よくも、よくも騙したなあああ!」と涙声で叫ぶ。
それが聞こえたのかどうか分からないが、フキノが叫ぶ声が響いた。
「ナズナー! 帰ったら映画見ようなあああああ!」
「だからー! 死亡フラグを立てないでえええええええ!」
そう叫びながらナズナは走り出した。
その様子を傍観しているだけだったリュカとクラウ、シラヌイは言った。
「あいつら、愉快だな」
「ギャクマンガみたいだ」
「保護者に似たんだろうな」
一方オオツは「さっさと行きましょう」と歩き出したが、コナはあることに気が付いた。
「そう言えばアンズさん達、どこに行くのか分かっていますかね?」
「絶対に分かってねえだろ」
そう言ってハンゾウは「ユウゴ、連絡しといて」と言った。