ゾンビパニック!①
ゾンビにビビり倒して、二人で抱き合うナズナとキュウリの子。初対面なのに、もはや運命共同体である。
「何で! ゾンビがいるんですか!」
「何なんですか! この頭のないゾンビ!」
「ゾンビじゃない! モヤシ君だ!」
ゾンビと騒ぐナズナとキュウリの子にオオツは語気を強めて訂正をする。そしてハンゾウは「こいつは無害だよ」と言うも二人は反論する。
「そんな訳ないじゃないですか!」
「食べられちゃうかもしれないじゃないですか!」
「頭が無いから食べれないよ、この子」
「それでゾンビになっちゃうんだ!」
フキノは不思議そうに言うが、聞こえないのか、ナズナもキュウリの子もギャアギャアと騒ぐ。もうこの二人には終末世界にいるみたいだ。
この光景にハンゾウは「ああ、うるせえな」と言ってキュウリの子に目線を合わせて、口を開く。
「このモヤシ君は俺たちの仲間だ。もちろんゾンビと協力したくなかったら、俺たちは保護もしない。ここでお別れだ」
「モヤシ君は襲わない。それは安心してほしい。と言うか、ゾンビじゃない」
ハンゾウのあまりにも残酷な条件とオオツの信用しがたい事実に、キュウリの子はさんざん考えて「協力します」と震える声で答えた。うーん、鬼畜。
そうしてキュウリの子はナズナから離れて、ハンゾウの方へ向かった。
残されたナズナはすがるような目でキュウリの子を見る。そんな目で見るなよ。この子の素材になるか保護されるかの分水嶺なんだから。
そんな時、フキノが「ナズナ、大丈夫?」と聞いた。
「大丈夫なわけないでしょ!」
半泣きになってナズナはフキノに抱き着いた。
「今日の夕方にもゾンビが出て、足がすっぽ抜けている平然としていた人が居住区にいたらしいじゃないですか! 人生微糖のお客が笑って言っていましたよ! もう! 笑い事じゃないですよ! パンデミックが起こっているじゃないですか!」
大泣きをして訴えるナズナにオオツが「それは違いますよ」と否定した。
「パンデミックは世界的感染です」
「そういう問題じゃないの! もう一日でゾンビが一人感染しているのに、なんで危機感無いの! 次の日になったら感染しまくって居住区がゾンビだらけになったら、どうするの?」
「モヤシ君はゾンビじゃないですし、足がすっぽ抜けたのは違法で機体持ちになった方です。モヤシ君と足がすっぽ抜けた方は無関係です」
「知らないわ! もう!」
そう言ってナズナはフキノに顔をうずめて泣き出した。そんなナズナにフキノは頭を撫でる。もう、可哀そうだから帰らせてあげたい。
そんなナズナを無視してハンゾウは「スダチが警察に捕まった」と言うと、アンズは目を見開いた。
「居住区に見回り中に暴れた奴をなだめていただけなのに、なぜか警官どもはスダチが暴れていると思って確保したんだ。多分、暴れている奴が警察にとって都合が悪かったんだろうな。そんでリュウドウは地下鉄車両立てこもりの【闇医者】って呼ばれていた奴に会って尾行したけど、警察に捕まった」
「なんでスダチを助けなかったんだよ!」
「俺は近くにいなかったんだよ。それよりもスダチは機体持ちの元少年兵だ。そいつが暴れていたって事になれば、精神異常って事にされて問答無用で確保されるんだよ。さすがに俺でも助けられねえ。そしてアンズ! このままだとヤバいぞ!」
「……スダチ、矯正院に入れられちゃうんでしょ」
「そうだ。PTAだか、何だかでスダチは精神的に不安定って事で人に危害を加える可能性がある。そうなると警察はさっさと捕まえて矯正院に入れられちまう。一生会えなくなるぞ!」
PTSDを間違えて父母の会の名前を言っているけど、精神障害で矯正院に入れられる事になるんだ。確かに武装機体兵と同じくらいの力を持った人間が精神的にヤバくなったら、誰もが恐れるだろう。
スダチって何でも出来て飄々と生きている奴だけど、人よりも残酷な運命を背負っているんだな。
チラッとリョウを見ると目を細めて、物思いにふけっている顔になっていた。彼女はあまり出てこないしニートだとか言われていたけど、何かあっただろうか。
ハンゾウの方を見ると、真剣な顔でアンズに話している。
「だか暴れた奴は分かっている。足がすっぽ抜けた奴だ」
「じゃあ、そいつを捕まえれば!」
「スダチは帰ってこれる。一緒に捕まえに行こう!」
ハンゾウの言葉に「うん!」と力強く頷くアンズ。なんというか物語のワンシーンのようだ。だがそれに水を差す者の声が響いた。
「絶対に行かない!」
もちろん、ナズナである。