キュウリの子の目覚め
『ぎゃああ! 何やってんだよ! ハンゾウ!』
「大丈夫だって。元々、スタンガン銃で電気ショックさせて起こすなんてよくやっているよ」
『とんでもねえ使い方してんな』
ドン引きする俺をよそに、キュウリの子は目覚めた。俺から見たカメラでは彼女の後頭部が見える。
すぐに体を起こして、キョロキョロと見まわしているうちに目を見開いて「え? え?」と軽くパニックになっていた。
そこにハンゾウは「落ち着いて聞いてくれ」と無理な注文をしてきた。スタンガン銃で起こして落ち着けるか!
「君は地下鉄車両立てこもりで捕まった。その後、警察でどんな取り調べをしたのか分からないが、トランクに入れられロッカーの中に入れられていた。それをこのオオツさんが、自分の荷物じゃないのに勝手に開けてここに連れてきた」
「なんか私が非常識みたいに言ってますね」
『非常識だろ。勝手に他人が預けていた荷物を持ち去って』
「でもあの男が持っていたら、この子は機体持ちの素材にさせたと思いますよ」
断片的な情報しか与えられず、キュウリの子はパニックになって「あれ? シスマ様の所に帰るんじゃなかったの?」と不安そうに言った。
ハンゾウは「どういう事だ?」と聞いた。
「私は警察で働く武装機体兵でした。その後、優秀だからって事でシスマって言う偉い人の子供のお手伝いをすることになりました。と言っても一か月くらいしか一緒にいませんでしたけど」
「シスマって奴と一緒にいて、どんな手伝いをしたんだ?」
「守秘義務があるので言えません」
裏切られて、トランクに閉じ込められて、こんな場所にいるのにまだ忠誠心があるようだ。ハンゾウは少々考えていると、キュウリの子は「あの、帰らせてください」と言った。
「帰ってもいいけど、戻ったら多分、このオオツって女の子が言った通り機体持ちの素材になるぞ」
「……」
「どうする? 素材になるか、俺達と協力するか、それとも何もかも投げ出して逃げるか」
キュウリの子は忠誠心と言うか国家権力の警察の命令の背く恐ろしさか、それとも素材になるって言うハンゾウの言葉を信じるか、様々な感情などを渦巻いているだろう。
そしてたっぷり時間をかけて、キュウリの子は「協力します」と言った。
「じゃあ、まずは闇医者の拠点は知っているか? そこに案内してほしいんだが」
「分かりました」
何だか非常な運命を辿っているようなキュウリの子。真面目そうなのに、万引きと食い逃げをしているオリバよりも理不尽に思えた。
そんな時、ナズナとフキノ、アンズの声が聞こえてきた。
『あれ? アンズ達は人生微糖のバイトじゃないのか?』
「ああ、リサに頼んで呼んでもらったんだ」
気まずそうな顔でハンゾウは言った。よくよく考えればあいつらがいないとリサ店長のワンオペで店を回さないといけないのだが大丈夫だろうか?
ハンゾウは「おい、コナ。あいつらを案内しろ」と言うとコナは立ち上がった。そして三人と接触して、こちらに向かっている。
するとコナが「とりあえず、ナズナさん。驚かないでください」と忠告した。え? なんで、そんなことを言うんだ? と思っているとナズナとフキノ、アンズがやってきた。
ナズナは「お疲れ様でーす」と言って、俺が操縦するドラム缶ロボットを見て目を見開いていた。いや、目線はもう少し上だ。
ドラム缶ロボットの上に何が乗っていたっけ? あ、そうだ。首無しゾンビのモヤシ君だ。
「イイイイヤヤアアアアアアア!」
「え? アアアアアアア! なんのよ! こいつ!」
溢れんばかりの悲鳴を上げて、ナズナが悲鳴を上げて、一拍遅れてキュウリの子がナズナの悲鳴で振り向いて驚く。キュウリの子はずっと俺の方を見ていなかったから気づかなかったのか。
それにしてもネイビーの髪の武装機体兵しかビビらないのは何でだろう? 白髪のフキノはポカンとしているし、赤毛のアンズは目をキラキラさせている。茶髪のコナは警戒しているが普通だ。金髪のオリバはゾンビよりも早く帰りたい感じだ。
「何で、ゾンビがいるんですか!」
半泣きでナズナは叫ぶが、確かにそうだなって思った。