人生微糖、閉店作業
閉店後、バイトの三人は掃除に入るがその前にリュウドウが口を開いた。
「フキノ、ナズナ、話しがあるから座敷に集合」
「はーい」「はい」「うぃーす」
……おい。一人、返事が多いぞ。
「おい、アンズ! お前は呼んでないから店の掃除してろ!」
「嫌だ! 一人で掃除なんてしたくない!」
座敷は八畳くらいある畳の部屋で足の低い丸いテーブルと座布団が四つある。古き良き時代と言われている昭和の一般家庭のお茶の間って感じだ。だが一応防音になっており、襖を閉めれば話し声は聞こえない。
ナズナとフキノは座敷に入って座っている所にちょっと遅れてアンズもバタバタ音を立てながら一緒に座った。
ナズナはネイビーの髪をボブショートにして、学校に居たら優等生、学級委員長っぽい雰囲気。フキノは白髪でちょっと長すぎる前髪に隠れる金色の瞳、体は細いため儚い雰囲気だ。アンズは赤毛をギュッと縛ってお団子して、褐色の肌に三白眼の緑色の目で元気な子に見える。
そしてこの三人、結構美形だ。武装機体兵は無表情だと綺麗な顔立ちである。
「おら、アンズ! 座敷から出て行け」
「ヤダって! 一人で掃除なんてしたくない!」
「作戦会議が終わったら、掃除するよ。アンズ」
「いつ終わるのさ! ナズナ!」
リュウドウの命令に駄々をこねるアンズとそれをなだめるナズナ、そしてぼんやりとそれを見ているフキノ。やっぱり表情豊かで性格もバラバラである。
ぎゃあぎゃあと座敷でうるさくしているとリサが「いい加減にしな! アンズ!」と一喝する。するとアンズは渋々「わかったよ」と言って素直に座敷から出て行った。アンズはリュウドウよりリサの言葉の方が言う事を聞く。
こうして俺とアンズとリサはホールの掃除を始めた。俺は大昔からある円盤型のお掃除ロボットを遠隔操作して床掃除して、アンズはテーブルの食器を片し、リサは食器を洗う。
数分するとナズナとフキノが出てきて、掃除に参加した。
「ほらね、すぐに終わったでしょ」
ナズナの言葉にアンズは「フン!」とそっぽを向く。一方、フキノはマイペースにテーブルを拭いていく。
ようやく掃除も終わって、三人はリサが作ってくれた賄いを食べる。リュウドウはカウンターで酒を飲み、リサは今日の売り上げを計算していた。
俺はナズナの端末から話しかけた。カメラも起動して、三人の表情を見る。
『うまそうだな』
「いいだろう?」
そう言ってアンズは端末のカメラに白い餅のようなものを見せる。
『なんだ? その餅?』
「スイトン。小麦粉とか大豆とか、いろんな粉を混ぜて作った団子だよ」
アンズがそう言いながらスイトンを食べ、器の中をカメラで映す。スイトンの他にいろんな野菜がたっぷり入っている。何だろう、脳だけなのにお腹が空いてきた。
再びカメラは三人を映すと、フキノがしかめっ面である小鉢を見つめていた。
「フキノ、ゴーヤ食べなよ」
フキノがすでに空になったナズナの小鉢を交換しようとしたがバレてしまった。フキノは「苦いから嫌だ」と呟いた。どうやらゴーヤが嫌いのようだ。
それを見ていたアンズが「食べてあげようか?」と聞くとぱあっとフキノが笑顔になる。
「ヒョロノはゴーヤとか嫌いなものがいっぱいあるもんなあ。このままだとヒョロヒョロのヒョロノは細いままだろうな」
「やっぱり自分で食べる」
バカにされてフキノは一気にゴーヤの炒め物を食べた。ものすごく渋い顔になり、アンズとナズナに笑われた。
実際、フキノは武装機体兵の男の中でも細く弱い方だと言う。ナズナよりはあるが、アンズだと体力も戦闘力も劣る。戦前は戦闘機乗りだったから軽い方が有利らしく、体重も筋肉も増えない体にされているらしい。その代わり運転やドローン操作が得意だ。
一方のナズナは軍の手伝いや電脳空間での補助、そして民間人に紛れ込んでスパイを探したりしていたため、そもそも戦闘力があまりない。ただこの三人の中で一番、頭が良くフキノの勉強を見ている。
この中でアンズが一番、戦闘力がある。だが武装機体兵の中では平均的らしい。とはいえ、アンズのように心臓に毛がびっちり生えた大胆な戦い方を武装機体兵は普通しない。また射撃も自動標準を付けなくても難なく当てられる。戦いを楽しむ肝の据わった精神も銃の扱いも戦後で覚えたみたいだ。
同じ工場で同じ商品が出来たわけではないので性格も性能も違うのだ。
賄いを食べる三人に俺はある質問をする。
『お前らって、戦争に出て戦ったんだろ? どこと戦ったんだ?』
キョトンとした顔でフキノは「え? さあ?」と答え、アンズは「知らない」と堂々と答え、ナズナは「うーん、大陸?」と自信なさげに答えた。
こいつら、何と戦っていたのか、分からないのかと愕然としていると、リュウドウが「わかるわけねえだろ!」と酒を飲みながら言う。
「俺らさえ、分からねえんだから」
『マジかよ』
「記憶喪失のお前にとって不思議と思うだろうけど、前の戦争だってなんで戦争したのか知らねえ奴の方が多いよ。戦争はいけないと言いつつ、なんで戦争したのか分からない。奇妙な話だよな」
『俺が聞いたのは、ミュトスと戦争したって聞いたけど』
「へえ……物知りだな」
「戦争の理由より、俺は人生微糖ってどういう意味なのか知りないな。それとこの店はカフェって言わないといけないのも分からない」
フキノ、戦争の理由よりも働いている店の由来の方が大事なのか? 呆れているとリュウドウは得意げな顔で言った。
「ここをカフェにするか居酒屋にするかってリサと俺で揉めたって話は知っているか?」
フキノはおろかナズナもアンズも「知らない」と言って首を振った。
「昔はともかく、今の時代にコーヒー豆なんてハイカラな物、入手できないって事で結局居酒屋になったんだ。でも店の名前だけはカフェっぽくしようと思ったんだ」
リュウドウの話にナズナは不思議そうに「えー、人生微糖ってコーヒーってありました?」と首を傾げた。
「微糖コーヒーって言うものがあるんだ。それと俺が考えた店名を組み合わせて人生微糖にしたんだ。人生、甘くはないが苦いだけでもないって感じでいい名前だろ?」
得意顔でリュウドウが言っていたが、リサは大きなため息をついた。この様子だとリサは全然納得はしていないと思う。
店名の由来を聞いたフキノは納得した顔になり、ナズナはリサの表情を見て察したようだ。そしてアンズはどうでもいいようで「お代わりしようかな」と空っぽになった器を眺めて言った。
こいつら、あの戦争について本当に興味が無いんだな。俺は愕然としながら、あの電脳空間の質問を思い出した。
『この国は、何処と戦争するんですか?』
体験版 電脳疎開の空間で俺は質問をすると、すぐに答えてくれた。
【ミュトスです】
『それはどこの国ですか?』
【国ではないです】
『え? じゃあ、人の名前ですか? それとも思想とか主張ですか?』
【ミュトスです】
……これ以上、話しても無駄だなと思って、トウマに『出ようか』と言って空間から出て行った。