ナズナ、波乱の日々
スダチがやってきて数日後、フキノと二人でリュウドウが所有する三階の部屋を片付けて新たに男子寮を作り上げた。元々、フキノとナズナ、アンズ三人一部屋で寝ていて、特に不満は三人から無かった。
なんで男子寮が出来たのか、スダチの素朴な疑問から始まった。
「おい、フキノ。どうしてお前はナズナとアンズの部屋で一緒に寝てんだ?」
「なんでって、そこにベッドがあるからだよ」
当たり前だろって顔でフキノは答えた。それにスダチはちょっと遊びに誘い出すように話す。
「俺さ、三階を片付けて俺の部屋を作ろうと思ってんだ。お前も一緒にどう?」
「えー、別にいいよ。面倒くさいもん」
「お前、ずっとナズナに漫画を片せ、脱いだ服はそのままにしないで、とか怒られるだろ? 俺と同じ部屋になったら、そういう事言わないぞ」
「え、マジで」
確かにナズナの小言はフキノもうんざりしていた。なかなかスダチの誘いはいいかもしれないが、フキノはちょっと悩んだ顔になり「でもナズナが……」と呟いた。
「あれ? もしかしてナズナって夜に怖い思いをしているの?」
「うん。ホラー映画を昔見て以来、一人で眠れないんだ」
そう、ナズナは暗い所や幽霊や化け物などが苦手である。怖くなると探索するときは、フキノの腰に抱き着いてへっぴり腰で行くのだ。
もしかしてナズナは夜にトラウマがあるのでは? とスダチが思ったのだろうけど、しょうもない理由に「あー……、そうなんだ」と言った。
「あとアンズがナズナの事を脅かすかもしれないし」
「アンズには俺とリサが注意しておくよ。それに何かあったら階段降りてすぐなんだから、大丈夫だろ」
「そうだな。じゃあ、俺もスダチと一緒に三階で寝る」
こうしてフキノはスダチと一緒に三階に移った。すでに数日たったが、フキノは不便を感じていないようだ。
こうして二階がナズナとアンズの女子寮、三階がフキノとスダチの男子寮ができたのだが、これに異を唱える者がいた。ご想像通り、ナズナである。
すぐにスダチに抗議する。
「なんでフキノ、三階で寝るんですか?」
「思春期の男女が一緒の部屋で寝てはいけないっていう古の民の言葉を知らないのか」
「なんとなく知っています。でもフキノも私も思春期じゃないです」
「あと俺が嫌だから」
「なんですか? その理由!」
「だって男女がおんなじ部屋で寝ているなんて嫉妬するだろ!」
「嫉妬なんてしないでください。私とフキノは家族みたいなものですから」
「それにー、前の部屋のままだとサンピーになっちゃうじゃん」
「ちょ! 何! 言ってんですか!」
それを聞いていたフキノが「サンピーって何?」とナズナに尋ねて、ナズナが「聞くんじゃありません!」と憤慨する。これは意味を聞いてはいけない下ネタである。
そうだったな。スダチってアンズにカップルを脅かすという行為を教えた奴だった。ギャンギャンとナズナが怒ってもスダチは気にしせず、フキノも三階の部屋で満足そうだ。もちろんアンズは怒ったり焦ったりするナズナを面白がっているだけだった。
味方がいなくなったナズナはリサとリュウドウに意見を求めた。
「らしいわね。でもいいんじゃない? 遅かれ早かれ、私もフキノは別室に行ったら? っていうつもりだったし」
「そう言えばフキノもオスだったな。あいつオスっぽくないからな」
二人は全く取り合ってくれず味方がいなくなり、未だにナズナは俺や友達に愚痴をグチグチと言っている。
今日も地下鉄の駅構内にある【隠れ家】と呼ばれる本屋で仕事をするキティに愚痴を言う。
「どう思う、キティ」
「うん、やっぱりナズナってヤンデレタイプなんだって思った」
「なんでよ!」
愚痴の内容に的確な感想を言うキティにナズナは憤った。
「ああいう人って、相手が何しているかな? とか私以外の子にときめいているかな? って妄想してずっと連絡したり監禁する人の事でしょ! 私はそんなことしないもん!」
ナズナの言葉にキティはどうだか……って顔で見ている。
キティは明るい茶髪の武装機体兵である。コナと同じ型の武装機体兵らしい。肩まである長い髪を一つに縛り、上品な顔をしている。
そんなキティはちょっと呆れた顔をして「それにしても、あんた達は平和ね」と言った。
「どういう意味よ、キティ」
「ここの駅構内は殺伐としていて、お客さんが来ないんだもん」
うんざりしたようにそう言い、ナズナも「確かにそうだね」とう頷く。
地下鉄立てこもり事件は事件のカギを握る【眼鏡】の男の行方が分からず、宙ぶらりんになってしまった。ハンゾウも「まあ、そうだろうな」と面倒くさそうに言っていた。何となく予想はしていたからな。
だがこの状況以上にヤバい事が起こった。カミカワ県の警察が覆面で見回りをする事が決定されたのだ。これはハンゾウも予想しておらず、「めんどうくせーな」と呟いていた。
ハンゾウたちの派遣巡査でなく、ちゃんとした正社員の警察である。グレーゾーンの事をしている奴ら(通路で出店を開いている奴など)は摘発されると思って全員、いなくなり閑散としている。
だから駅は未だかつてないくらい静かなのだ。




