夜、スダチとアンズは帰っていく
真夜中、大柄のスダチをおんぶするアンズ。絶対に重いだろうと思うが、アンズは平気な顔をしておんぶしている。簡単に重たいものを持てる武装機体兵じゃなかったら潰れている。
ぶつぶつとスダチは寝言を言う。
「なんであいつに感謝しねえといけねえんだよ」
あいつって恐らくリュウドウだろう。だが確かにスダチはリュウドウに感謝を述べないといけない。
リサにリュウドウがスダチをスタンガン銃で撃って殴ったと報告した時、彼女はけだるそうに話した。
「そうね。リュウドウはスダチを殴る権利があるから」
『どういう事?』
「あのね、スダチが何にも言わずに去っていった後、アンズが荒れた話は知っているよね」
『していたな。地下鉄遅延させたり、牧場を荒らしたり』
「その慰謝料を全部、リュウドウが支払ったのよ」
リサの言葉に俺は衝撃を受けた。え? 守銭奴のリュウドウが?
更に衝撃事実は続く。
「普通だったらアンズは廃棄処分されていたのよ。人を傷はつけなかったけど、あれだけ大暴れをしたら危険と判断されて、被害者たちが処分届を出して武装機体兵を廃棄させるのよ。だけどリュウドウが頭下げたり、酒を持って行ったり、お金を出して届を出さないでくれって頼んだのよ」
廃棄処分になるのは衝撃だが妥当に思える。スダチがいなくなって精神的にダメージを食らって大暴れしたアンズを普通に廃棄処分にさせるのは同情する。だがアンズを知らない人間だったら脅威でしかないだろう。
だがそれを阻止するためにリュウドウがいろいろとやっていたのは驚きだ。
「なんでそんなことをしたのか分からないけどね。だから今までアンズが処分されずに生きているのはリュウドウのおかげなの。アンズは理解していないだろうけどね」
そしてリサは「それからスダチはリュウドウにケジメをつけないといけないの」と語った。ケジメって何だろう? 指詰めるとかじゃ無いだろうか?
そんなことを思い出しているとおんぶされていたスダチは「アンズ?」と呼びかけた。
「うん、そう」
『俺もいる。飲み過ぎだ』
「飲みすぎたって言うか、飲めないんだよ。武装機体兵の酒を飲める個体が少ないんだ。セトはガンガン飲めるのに……。」
そういってスダチはため息をついた。
そもそも武装機体兵の体って子供だから、アルコールを胃の中に入れていいのか? 肝臓は分解してくれるのか? 一抹以上の不安がある。
「え? 吐きそう?」
「いや、まだ大丈夫」
『え? まだって……』
衝撃な発言にアンズは「人生微糖についてから吐いて」と言った。いや、それはリサ達に迷惑が掛かるだろ。
「スダチ、ごめんね」
「……いや、俺が悪いんだ。悪かった」
二人の謝罪は真っ暗な廃墟のビル群に消えていった。スダチをおんぶしているアンズはズンズンと進んでいく。
しばらく沈黙しているとスダチは「ユウゴさあー」と呟いた。
「アンズの話したいことがあるから、ちょっと離れてくれないか?」
『えー、でも』
「寄り道もしないし、カップルも驚かせないよ」
アンズがそう断言したので、ちょっと怖いが俺はアンズの視覚と聴覚を離れた。その後、アンズとスダチは何にもトラブルなく人生微糖に戻ってきた。




