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スダチとシラヌイとセトの飲み会


 人生微糖の閉店時間に差し掛かった時、リサはお店を出て「アンズ!」と呼ぶ。ここの建物は四階建てで二階はアンズ達の部屋になっている。


「シラヌイのところに行ってスダチを連れてきて!」


 リサがそういうと上から重いものが落ちてくる音が聞こえてきた。アンズが二階の窓から出た音で、「分かった、リサ」という覇気のない声が聞こえてきた。

 アンズの声でこんな覇気のない声を聴くとは思わなかった。


「あと、ユウゴも一緒に連れて行って」

「はああ? 嫌だよ」

「寄り道したり、カップルを脅かす事をするでしょ、あんたは」


 リサが呆れていうとアンズは「しないって!」と苛つきながら答えた。元気がなくても、こいつには前科があるからな……。

 アンズは不満げだが、俺と一緒にシラヌイの家に向かった。


『シラヌイの家って、どこにあるんだ?』

「……聞いてもどうにもならないだろ」


 シラヌイの所まで行くまで無言はきついので、雑談しようと誘う俺の言葉をバッサリと切り捨てるアンズ。それ以降、互いに言葉を交わさず歩いて行った。

 珍しくアンズはビルからビルへパルクールせず、寄り道もカップルを脅かす事もしないで普通に歩いて行った。珍しいけど、それくらい心が弱っているのだろう。


 アンズは三階建てのマンションに入っていった。戦前は普通に住居としてのマンションだったのだろうけど、今ではお店や簡易ホテルみたいな看板がマンションのベランダや表札にかかってあった。

 そんなマンションの二階に【シラヌイ】の表札がかかった部屋があった。チャイムは壊れているようで、アンズはドアをどんどん叩いて「シラヌイ、来たぞ」と言った。

 するとすぐにシラヌイがドアを開けて、ヘラっと笑って出迎えてくれた。


「廃人回収、お疲れ様」

『お邪魔します。というか廃人って?』

「ユウゴもいるのか。お前らスダチを回収しに来たんだろ。もう廃人だから回収してくれ」


 普段のシラヌイはあまり笑顔にならないし冗談を言わないタイプの男だが、今はものすごく陽気だ。少し顔が赤く、お酒を飲んでいたようだ。

 アンズが中に入ると「アンズだー」と言ってシラヌイが世話しているリュカとクラウ、セトが世話しているラパンが部屋から顔を出した。

 

「スダチを迎えに来たのか?」

「ベロベロに酔っているぞ、あいつ」

「ベロベロー」


 リュカとクラウ、ラパンがスダチの様子を教えてくれるが、アンズは返事せずシラヌイの後を追う。……それにしても随分、広い部屋に住んでいるな。堅気の二十歳の若者が住む家ではないと思う。でもリュカとかクラウもいるから、このくらい広い部屋が必要か。

 そうしてシラヌイは奥の部屋を開ける。そこはダイニングとリビングが一緒になった部屋で、戦前だったファミリー層が団らんする場所だったのだろう。だがシラヌイが開けた部屋は背の低いテーブルが一つ置いて、座布団が数枚あるだけだった。部屋は広いけど家具が全然ないな。

 テーブルにおつまみやお酒がおいてあり、そしてスダチは突っ伏していた。

 スダチと向かい側に座るセトがアンズに気が付いて「ほら、お迎えが来たよ」と老人に語り掛けるようにスダチに言った。


「……うるせえよ。まだ飲めるよ」

「飲めないでしょ、あんた。一杯でこうだもん」


 え? 一杯でベロベロになったのか……。ものすごくお酒に弱い。

 セトが立ち上がらせようとするが嫌がって、「帰らない!」と言って仰向けに倒れた。うわー、廃人というより駄々をこねる子供っぽい。気のいい兄ちゃんっていう感じだったのに、イメージが崩れる。酒を飲むと人って変わるからな。

 スダチは寝ながら「みんなさ……」と呟く。


「みんな、リュウドウに感謝しろよって……、うるさいんだよ。それにケジメって」

「はいはい。お家に帰りましょうね」


 セトが小さい子のように語り掛けるようにそう言うと、スダチは「クッソ」と言ってうつぶせになった。駄々っ子になるかと思ったが、寝息を立てた。寝ちゃったよ、こいつ。

 なんというか、人生微糖の居酒屋に来る酒癖の悪い奴並みに厄介である。

 セトとシラヌイは苦笑しながらスダチを二人がかりで起き上がらせた。


「悪いけど、アンズ。スダチをおんぶしてもらっていいか?」

「大丈夫」


 アンズは抑揚のない声で返事をした。




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