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スダチがした事


 ハンゾウとコナが帰った後、人生微糖は開店した。リュウドウが手に入れた酒で相変わらず酔いたい奴らで、すぐにいっぱいになった。

 パタパタと忙しなく注文を取ったり配膳をするナズナとフキノ、キッチンに入って料理を作り続けるリサ、そして無人レジで会計を監視する俺。いつもの日常って感じだが、少し違う。


「まだアンズは休みなのか」

「そうなのよ」


 カウンターで常連が尋ね、リサは普通の口調で答える。常連は事情を知っているのか、どうして何にも聞いてこない。

 ふと、リュウドウがスダチを殴った日を思い出す。


***

 セイリュウ寺で倒れたスダチをリュウドウは冷めた目で見ていた。スダチが「痛いな」と呟いて、立ち上がった。後ろ姿でスダチの表情がわからないが、辛そうなのは分かる。

 その姿にリュウドウは呆れて「大げさ」と呟いた。


「北に行っていた間、鈍ったか? スタンガン銃の威力は低くしているから痛みは引いているはずだぞ」

「なんで、こんなことをすんだよ」

「首から下が武装機体兵のお前を真っ正面から殴れねえだろ。だったら、スタンガン銃で撃って虚を突かせて、殴ったほうがいい」


 そしてリュウドウは「卑怯、卑劣、非道って罵ってもいいぜ」と笑う。このふざけた態度にスダチは苛ついているが、我慢して理性的に対話をする。


「質問を変える。なんで俺をスタンガン銃で撃って殴ったんだよ。俺は何かしたか?」

「お前が何にもしなかったから、俺はお前に攻撃したのさ」


 そしてリュウドウはジロッと睨んで、口を開いた。


「スダチ。北へ行く前、俺は言ったよな。アンズにどこへ行くかちゃんと話せって」


 ドスのきいた声にスダチは黙り込む。苛ついていた態度が急にしおらしくなった。


「俺だけじゃねえ。リサもサトウも忠告した。真実だろうが嘘だろうがアンズから離れる事を言えって」

「……」

「そしてお前はヘラヘラ笑ってわかってるーって返事した。俺は態度がどうあれ、アンズにちゃんと言うと思っていた」


 そしてリュウドウは「で、お前は言ったか?」と尋ねるが、スダチはボソボソと呟き、リュウドウは「聞こえねえよ」と返した。


「……言って、いない」

「そうだよな。お前は何にも伝えずに、ちょっと出かけてくる的な感じでアンズと別れたよな!」

「……だって、あの任務は、命の保証がなかった。それに嘘を言おうが本当の事を言おうがあいつはついていくって言いだすし……」

「ケッ! 随分とおセンチな理由だな! こんなんだったら、ごめーん、言うの忘れてた! って言われたほうがまだマシだったよ!」


 リュウドウはフンと鼻を鳴らして、スダチは立ち上がるが顔を上げずうなだれていた。


「すぐ帰ってくると思い込んでいたアンズはどうしたか教えてやるよ。リサに事情を聴いた後、スダチのところに行くって暴れだすし、お前が行くようなところじゃないと説得しても地下鉄の駅でスダチのところに行かせろって暴れて電車を遅延させる。更に近くのハヤカ牧場で大暴れして家畜が逃げ出した!」


 ……アンズ、人外的な破壊活動から野生動物がやるようなことをしたのか。

 そんな時、アンズは「やめろよ! リュウドウ!」と言って走り出し、リュウドウの前に立った。


「私が悪いんだろ! だったらスダチじゃなくて私に怒ればいいじゃん」 

「幸せだな、スダチ。何にも言わずに出て行って心が不安定にさせた無責任な元保護者のお前をヒヨコのように引っ付いて庇ってくれているなんて。泣けるぜ」


 スダチに語り掛けるように言って、リュウドウはアンズのほうに向き合った。


「お前に怒るのは飽きたんだよ。だったら原因にキレた方がいいだろ! そもそも俺はお前の破壊行動やスダチの無責任行動で怒っているんじゃねえんだよ!」

「どういう事だ?」

「お前が起こした破壊行動の迷惑料で酒とお金がぶっ飛んだんだよ! 俺が迷惑料としてお酒を渡す気持ちが分かるか!」


 ……そうだよな。リュウドウって、そういう奴だよな。現物主義者だからお金とお酒が大好きだもんな。それを渡すって事は断腸の思いだったはず。

 なんだか妙に納得した気持ちになっていると、リュウドウはスダチに向き合って口を開いた。


「俺に何か言うことはないか?」

「……」

「フン、無いか。ガキがガキの面倒なんて見れるわけがないもんな」


 リュウドウはそう煽るとスダチはリュウドウに背を向けて歩き出した。

 アンズが「あ。待って。スダチ」と幼い子供のようについていこうとするが、スダチは不機嫌そうに「うるさい」とあしらって走って行ってしまった。最低である。


 リュウドウとアンズ、現場を見ていたナズナとフキノ、そして俺だけが残った。

 そしてスダチが消えたタイミングで、後ろから生臭坊主がやってきた。


「おい、リュウドウ。スタンガン銃を撃っただろ」

「……」

「境内で銃を放つとは罰当たりな奴だ。罰金な」

「はあああああ!」


 その後、しょうもないやり取りをリュウドウと生臭坊主はまた繰り広げた。

 




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