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ハンゾウとリュウドウの飲み会

「それでリュウドウ」


 そういいながらハンゾウはお酒をあおる。一方のリュウドウはにやにや笑いながら、刺身を食べる。この刺身は数日前にあったサイコパス爺が依頼した仕事の報酬でもらったのだ。


 そう、地下鉄の立てこもり事件も数日が経った。


 開店前の【人生微糖】の畳が敷かれたお座敷で刺身と酒を並べてハンゾウとリュウドウ、そして俺は会議をしていた。


「説明してもらおうじゃねえか、寺で起きた騒動を」


 睨むハンゾウはかなり凄味があって怖かった。それに一切、気にしないで酒を飲むリュウドウは、ようやく口を開いた。


「随分と気が立っているな、ハンゾウ」

「まあな。トキオがこんな感じだから、ここで事件があったら捜査権はカミカワが持っているんだから。それなのに勝手にもう一人のイトジマをナゴノとセンヨウ警察に引き渡したから、カミカワの警察から文句と嫌味を散々言われたんだよ!」

「そりゃあ、申し訳ない」


 リュウドウは全く、申し訳なさそうには見えない謝罪を言い、そして声を低くして、こう言った。


「だかあんたも気づいているだろ? イトジマ タケルは主犯じゃないって事を」

「……まあな」


 アンズが地下鉄でキュウリ落としの子と大騒動を起こしていた時、リュウドウ達が乗っていた船を襲撃した海賊の船の中に本物のイトジマ タケルはディメンションブレイクを被せられて監禁されていたのだ。


「センヨウ警察も誘拐されたお偉いさんの孫にビビってアタフタしていたな。だから俺が中心になって捜査していたらウザいと言われて、警察署に着いたら取り調べをさせられて……」

「当たり前だろうが」

「とりあえずセンヨウの病院に本物のイトジマは入院しているが、変な電脳空間を見せられて混乱していた」

「でもそういう風に証拠を残していったんじゃないのか? 誘拐されたふりして裏で指示を出していたとか……」

「トキオ奪還の活動でイトジマは幹部だったが、今は遠く離れた親戚の家で農業のバイトと通信制の学校に通っている。トキオ奪還の活動の参加にもしていないし、ましてやナゴノの爆破未遂にも関わっていない」

「なんで分かる」

「船に残されていた電子端末にイトジマが見ていた空間が残されていたのさ」


 リュウドウが電子端末の画面を立てハンゾウに見せる。画面には【アウラ】の履歴が乗っている。ここで俺が喋る。


『本物のイトジマも【アウラ】の空間に入っていたんだ。【アウラ】は入っている人間の脳波や見せている空間の履歴を長い期間残せるようになっている。俺達が調べてみると破未遂事件が発生する前まで、本物のイトジマはずっと電脳空間を見ていたんだ』

「ほう」

「海賊たちもイトジマを船内で数日監禁していたことを認めている。イトジマを引き取っていた親戚の人たちも電子端末をナゴノ警察やアクアリウム・クオリアが回収した。解析してもイトジマが事件との関わる指示を出した証拠が見つからない」

「なんでアクアリウム・クオリアが関わって来るんだ?」

『【アウラ】は戦時中に使われていた危険な電脳兵器なんだとさ。戦後の混乱で世間に流出してしまってアクアリウム・クオリアは【アウラ】を早く取り締まりしたいようなんだ』


 ハンゾウはなるほどね……顔で刺身を食べる。リュウドウは苦笑いしながら、「それで俺も聞かせてほしいな」と言った。


「あんたとコナが追っている【闇医者】について」


 酒を飲んだハンゾウは「まだ調べている最中だから言えない」と言い、「はああああああ?」とリュウドウは叫ぶ。


「俺のとっておきの情報を出しているのに、お前はなんで言わねえんだよ!」

「まだ全然分からない状況だ。とりあえず言えるのは【闇医者】は、キミンチにいる武装機体兵の部位を移植して、違法で機体持ちにさせる違法な医者ども……」


 そう言いながらハンゾウはリュウドウの電子端末を操作して、プライベート空間が映し出された。すると液体猫のトウマが『勝手に見るな!』と威嚇した。

 ロムの見立てでは一週間くらいトウマは出てこないと言っていたが、三日で俺の前に現れた。『やっぱり僕がいないとねー』と涼しい顔をして。それと入れ替わって、ロムは居なくなった。また【見る専】に戻ったみたいだ。

 さてトウマを初めて見たハンゾウは興味津々だった。


「ん? なんか猫がいるな」

『なんだ、このおっさん!』


 トウマはフシャーっと液体猫のアバターを沸騰させて、見ているハンゾウを威嚇した。

 だがハンゾウは「ははは、怒っているな」と言ってトウマの沸騰する液体猫をタップしようとする。


『ぎゃああ! おっさんにセクハラされる!』


 そういってソファーに潜り込んだ。


「あらら、逃げちゃった」

『帰れ! セクハラじじい!』


 和やかに笑うハンゾウと気体猫になるんじゃないかってくらい沸騰するトウマに俺はちょっと笑う。ちなみにトウマの声はハンゾウには聞こえない。

 リュウドウは鼻で笑いながらプライベート空間を消して「それで今回の事件について、どう思っている?」とハンゾウに聞いてきた。


「面倒なことになっているなって」

「他人事だな」

「所詮、他人事だよ。派遣巡査で正式な刑事じゃない。警察の正社員が頑張ってもらうさ。だって俺はそこまで推理して真相を探るほど俺は給料をもらっていない」


 遠い目をしながらハンゾウは言って刺身を食べ、リュウドウは「そうかよ」と返事をした。


「そういえばさ、スダチとアンズは元気か?」

「はあ? なんで?」

「最近、見ていないし。今日だって人生微糖の開店準備にいねえじゃねえか」

「アンズは体調不良なのさ。スダチは、多分シラヌイのところにいるんじゃね?」


 気まずそうに答えるリュウドウにハンゾウは「ふうん」と相打ちをする。この反応だとリュウドウとスダチ、アンズの顛末を知っているだろうなと思われる。

 ハンゾウは刺身を一つ食べて、「お前さ、罪悪感とか無いの?」と言った。


「数年しか生きていない武装機体兵、その機体兵の肉体を移植した十代二十代のガキども。何にも知らない、社会の常識も理解していない、若いころの俺たちのように何にも考えずに遊んでいる期間もなかった。そんな奴らに戦場で戦ってこい、仕事をしろって言うの」

「特に無いな」

「そうだろうな」


 呆れた表情をしてハンゾウは立ち上がって「俺はそろそろ帰るわ」と言った。

ふすまを開けるとキッチンで料理を作るリサと開店準備をするナズナとフキノ、そしてなぜかコナもいる。


「おい、コナ。ナズナとイエス・ノーゲームは終わったか? じゃあ、帰るぞ」


 そういうとコナは「はーい」と言って、「お疲れさまでした」と一礼してハンゾウと一緒に人生微糖を出て行った。




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