リュウドウの帰還③
リュウドウが運賃を払っている間、ナズナは「ちょっとお店に行ってきますね」と言った。
「リサさんが煮干しを買ってきてほしいって」
『近くにお店があるのかな?』
「港の近くにお店があったはず」
「俺は車で待っているよ」
フキノは車に向かい、ナズナは近くの魚屋に行くと新鮮な魚が多く並んでいた。それを横目で見ながら目当ての煮干しを見つけて、ちょっと薄汚いカウンターでおじさんに支払いをする。
「悪いな。うちは電子マネーの取り扱いはやっていないんだ」
「あ、じゃあ現金で払います」
そう言ってナズナは現金で支払いを済ませ、店を出ようとした時、リュウドウが眉間にしわを寄せて待っていた。
「おい、ナズナ。お前、現金を持っているじゃねえか」
「あ、う……。そういうリュウドウさんだって、持っていたじゃないですか」
ナズナも負けじとそう言って睨んだ。
そんな会話をしていると、「あ、リュウドウだ」とクスクスと笑う武装機体兵の声が聞こえてきた。
「ちょっと! マジで沈めるのかよ! おい! 待てって!」
「ぎゃははは! 払うって!」
「ほら、あんたら真似しないの」
武装機体兵二人がリュウドウの真似をして笑いあっているのを、近くにいた店員のおばさんが半笑いで諫めていた。
リュウドウ、すっかり人気者になっているじゃないか。ナズナはちょっと恥ずかしいだろうけど。
リュウドウとナズナは同時に大きなため息をついた。
「もう帰りましょう、リュウドウさん」
「そうだな。くっそ、あのサイコパス爺」
『でもさ、払うのに随分と時間がかかったな』
「よくぞ聞いてくれた、ユウゴ! あいつら、俺が運賃を払うと言ったら、なぜが高い金額を要求してくんのよ! 何でだよ! って聞いたら、そしたら五十キロ以上の荷物はこの金額だって言いだして! あいつら、俺を荷物扱いしやがって!」
そう言ってリュウドウはおにぎりを忌々しそうに食べる。サイコパス爺にもらったのだろうか? あれだけわがままを言って困らせて、もらうものはもらうんだなと思った。
フキノとナズナ、そしてリュウドウは車に乗り込んで、走り出した。俺はナズナの視覚と聴覚を離れて、車中のカメラから三人の様子を見た。車窓では日が昇って、キラキラと輝く海が見えたがすぐに見えなくなった。
「はあ、ひどい目にあったぜ」
『そう言えばサイコパス爺さんって、なんでサイコパスって呼ばれているんだ?』
道中、暇なので疑問に思っていた事をリュウドウにぶつけてみた。するとリュウドウはすぐに呆れた顔になって「分からねえのかよ、お前!」と言った。
「あいつの言動で分かるだろう? サイコ加減が」
『うーん、お前の扱いに慣れているとしか見えない』
「まあいい。あの爺がサイコパスって分かるエピソードを教えてやるよ」
リュウドウは意味深の笑みを浮かべて話し出す。
「人生微糖で、とある究極の選択が流行ったんだよ。もし無人島に連れて行くなら人魚か魚人間かって」
『なんだよ、そのくだらない選択。人魚は分かるとして、魚人間って』
「上半身だけ魚で下半身は人間の生き物さ。さてユウゴ、どっちを無人島に連れて行く?」
『人魚だな。下半身が魚で上半身が人間だから、俺と一緒にお話しできるだろ?』
俺の選択を聞いてフキノも「俺も!」と答えた。
「俺、泳げないから人魚に魚を取ってもらいたいな」
「えー、私は魚人間だな」
ナズナは俺とフキノと逆の選択を選んだ。ちょっと意外に思って『なんで?』と聞いた。
「だって人魚の活動範囲は海しかないじゃないですか。魚人間だったら無人島を一緒に連れて歩けますよ」
「へえ、なるほどな。ちなみに俺も魚人間だな。だってやれるだろ?」
フキノはどういう意味だ? と首を傾げ、ナズナは小さく「最低」と呟いた。確かにひどい下ネタだ。リュウドウはニヤニヤと笑う。
下ネタを深く突っ込まず、俺は『それでサイコパス爺さんの答えは?』と聞いた。
「食える部位が多い方」
この答えにナズナもフキノもドン引きしていた。そして俺も。
まさかの非常食として考えていたのか。確かにサバイバルとして見たら的確なのかもしれない。だがこの答え、めちゃくちゃ怖いぞ。確かにサイコパスだ。
リュウドウは大きく伸びをした後、「サイコパス爺の事よりもさ……」と話し出した。
「俺のいない間に面白れぇことがあったらしいな」
悪魔のような笑みを浮かべて「俺も警察に行って面白い事を見聞きしたのさ」と言った。
リュウドウも面白い事実を目の当たりにしたのか……。毎日、起こる事が発見で素敵だな、と現実逃避みたいなことを思った。




