短すぎる休息
様々なウィンドウがどんどんと消えていき、やがて全部が無くなってしまった。そして新規メール作成のウィンドウが出てきて、どんどんと文字が打ち込まれて行く。読んでみると専門用語や難しい言い回しが次々と文章に並んでいった。
どうやらハンゾウや警察、アクアリウム・クオリアへの報告文書をまとめているようだ。こいつは傍観者ってイメージだったが、こういう事をしていると優秀な一般人って感じに見えた。
『よし! 完璧! 後はこのメールを送るね』
ロムは報告書を添付したメールを送信した。するとハンゾウから着信があった。
「お疲れさま。報告書まで作ってくれてありがとう。ついでに俺がこれから書く報告書もお願いしてもいいか?」
『全力でお断りします。と言うか、俺がやった訳じゃないよ。助っ人にやってもらったんだ』
「あれ? ユウゴがやったわけじゃ無いのか。なんだ、今後、起こるであろう事件の報告書を作ってもらおうと思っていたのに」
『全身全霊でお断りします!』
そんな会話をして、通話を切った。
チラッとロムを見ると早速、ウィンドウを出して解析をしていた。……トウマもアバターを作るのはものすごく早いし上手いけど、ロムも報告書や解析が得意なんだろうな。
俺の脳はくっついているようだけど、他にくっついている奴も空間に関してそれぞれ得意分野があるんだろうか?
それはそうと俺は記憶を失っているけど、何か空間で得意な事があったのだろうか?
『なあ、ロム。そう言えばさ……』
『うん』
『俺って記憶が無いんだけど、俺の事を覚えている?』
『……』
『俺も空間で何か得意な事があった?』
『……』
ロムは黙ったまま、何も答えなかった。話しを聞いていないのかと思って、ちょっと強い口調で『あの、ロム?』と呼んだ。
『あ、ごめん。反応できなくて。思い出に関しての記憶が無いから答えらえないんだ。多分、他の脳も自分の関しての記憶は消えていると思う』
『なーんだ。でも俺だけ電脳空間に関する才能とか無いんだな』
不貞腐れたように俺が言うと、ロムは意外そうな声で『いや、あるよ』と言った。
『長時間、電脳空間に入れる事。もう一日の半分以上は電脳の中で動けている。これはもう廃人レベルの才能だよ。あと普通の人以上に電脳の中で器用に動ける』
『あんまり嬉しくない才能だな。それに今は現実世界の仕事の方が多いし』
そう言いながら俺は大きく伸びをする。伸びしたって筋肉さえないから、意味は無いけどポーズだけはしたい。
『そろそろ休んだら? ユウゴ』
さすがロム。この動きだけで休息を勧めるなんて。トウマじゃ考えられないな。
お言葉に甘えて休息しよう。今日はアンズが暴走したり、地下鉄車両立てこもりがあったり、その車両が動き出して一緒に入ったり、……いろんなことが詰められて本当に一日で起こったの事なのかと疑問になる。
トウマが作ってくれたソファーで横になる。立ったまま休息は取れるけど、休息の型は必要だと思う。そうして俺は視界を真っ暗にした。




