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アウラの中


 ハンゾウから解析をお願いされた電脳空間に入ったのに、いつの間にかリュウドウのプライベート空間に戻ってきてしまった。更にトウマの反応が無いし、液体猫が個体猫になってしまった。

 そして知らない声はロムと名乗った。


『ロム、あんたは何者なんだ?』

『トウマと同じ。君と繋がっている脳の一つさ』


 そうだった。トウマ以外の脳もいくつも繋がっているらしい。実際に見たことが無いので、どういう状況になっているのか分からないけど。


『ところでアバターとか付けないの?』

『アバターは好きじゃ無い』

『なんか幽霊と喋っているようで落ち着かないんだけど』


 ロムは『それもそうか』と言って、俺の目の前にウィンドウを出してきて、【それもそうか】という文が出してきた。

 どうやらロムが喋る言葉が、ウィンドウで字幕のように綴られるようだ。


『さてと随分と厄介な空間に入っちゃったね。ハンゾウさんって言う人の依頼だっけ?』

『あんた、全部知っているのか?』

『もちろん。今日の地下鉄立てこもり事件もアンズって子が線路を走っていった事も、それより前の電脳疎開の事も、ね』


 電脳疎開は一か月前にあった出来事だ。どうやら俺がここに来てからずっと様子を見ていたようだ。

 だけどずっと俺と会話して色々と手伝ってくれていたのはトウマだけだった。


『繋がっている脳は君の行動は普通に見られるよ。特に私はすべてを見ている』

『だけど口出ししていなかったな』

『最初に言っただろ? 見る専、つまり見ているだけの立場の人間なんだ』


 俺はチラッと固体猫になってしまったトウマを見て、『トウマは大丈夫なのか?』と聞いた。


『一週間くらいでケロッとして帰ってくるよ。あの空間は精神的な刺激が大量に出ていた。トウマは結構、感受性が豊かだからね。精神的な刺激にはすぐにダウンしちゃう』

『唯我独尊っぽい事しか言わないトウマが感受性豊か? 俺には全然見えないな』

『あいつは空気を読まないふりして、かなり深読みをする。だからずっと君と一緒に行動していたんだ。別の奴を組んでみなよ、君の神経が擦り切れるくらいの言動をするぞ』


 トウマがまともな方って結構やばいな。というか他の奴が組まない事を祈ろう。現実世界でも訳分からない行動する奴が多すぎるから。


『それでロム。お前はまともな方なのか?』

『まともな方でハンゾウさんの依頼にも完璧にこなせる。どこから手に入れたのか分からないけど、この空間は【アウラ】だ』


 俺は『アウラ?』とオウム返しに言うとロムは『そうさ』と答えた。


『アウラって言う空間が見ている事やっている事が実際に起こっているって思いこむ空間なんだ。つまり記憶を操作できる』

『つまり、さっきの手術の映像空間を見ていたら手術したと思い込む感じ?』

『そうだね』


 そう言ってウィンドウに様々なプログラムが書き込まれる。そして『これで良し』とロムの声が聞こえてきた。


『この空間を客観的に見られるように出来たから、とりあえず入ってみよう』


 そう言って、再び人質イトジマが見ていたアウラの空間へと入って行った。




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