見る専 ロム
入った瞬間、パアッと光が付いて眩しかった。しかもその光は消えることは無く、自分を照らしていた。何となく見覚えがある光だなと思った。ああ、分かった。手術室で使うライトに似ているんだ。
電脳空間なのに、妙にリアリティがあった。電脳空間は現実が崩壊しているから、現実離れした綺麗さや奇抜さ、またはアニメ的な演出が目立つ。
でもここの天井は見覚えのある壁で、一向に面白おかしい演出は無かった。無機質な感じがある。異質な空間だ。
そう思って体を動かそうとすると動かなかった。ん? 固定されている?
『ねえ、ユウゴ。ここ、ヤバい』
『どうした? トウマ?』
電脳空間では自信家で唯我独尊なトウマが怯えている。しかも俺の呼びかけにも反応がなってしまった。
その時、自動ドアの音が聞こえてきて青い帽子や手袋、術衣を来た男性や女性が現れた。そしてゴロゴロとカートの音が聞こえて、金属音が聞こえてきた。
あ、これ、やっぱり手術だ!
『もう無理だ!』
トウマが叫んだ瞬間、トウマの気配が消えた。
その瞬間、ものすごく胸が痛いくらい熱い。胸なんて俺には存在しないのに。そして焦って苛立ってくる。どうしてだ? なんで、こんなにもイライラしてくるんだ? そして何かしないといけないって思ってしまうんだ? 忙しない気持ちはグルグルと溢れ出ている。
『そもそも身体なんて無いんだから、どうする事も出来ないじゃん』
俺の声でもトウマの声でもない。知らない声が響いた。え? 誰?
『そろそろ起きなよ』
知らない声が聞こえて、パッと目を開ける。
そこはリュウドウのプライベート空間だ。あれ? 俺とトウマはハンゾウに頼まれた電脳空間に入ったはずなのに、なんで戻ってきたんだ?
あたりを見回すとトウマのアバターらしきものが見えた。
『固まっている』
いつも魅惑の弾力を持っていた液体猫のアバターは氷のように固まってしまっていた。これじゃ、【固体猫】である。
俺がペシペシと叩いても硬くて、トウマも反応がなかった。
『あーあ、やっぱりトウマは耐えられなかったか』
また知らない声が聞こえきた。
『あのさ、気づいているんだったら反応してくれない? 自己紹介が出来ないでしょ』
『……あれ? 謎の声が聞こえるぞ?』
本音ではもう色々とありすぎて、知らない声が聞こえてきても疲れて反応したくなかった。でも何とか絞り出して出た言葉に、声の主は『うーん、わざとらしい』とわがままを言ってきた。
『何はともあれ、自己紹介のきっかけを作ってくれてありがとう。私はロム。見る専だ』
ここにきて新キャラが来るとは思っても見なかった。




