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棄民の地


「こういう時代だからね。本当に助けが無くて孤独で弱い人間たちはあっという間に落ちていっちゃうんだよ」


 穏やかにそう言いながら【いれいひ】にある雑草の花を片していった。


「そういう人間がここに集まって薬で我を忘れる者、弱い人間を利用として薬を売る者がたむろしていたんだ。他にも薬でボロボロになった武装機体兵が売られていたり、武装機体兵の機体を違法で移植したり、……地獄の窯の底さ」

『でもここは静かだよな』

「一昨年の冬にキミンチにいた武装機体兵達が風邪でバタバタと倒れて死んでいった。無敵の存在が大量に病気で倒れたり死んでいくのを見たら恐ろしくて、みんなキミンチから逃げたのさ」

『え? 武装機体兵って風邪で死ぬんですか?』


 キミンチの説明より風邪で武装機体兵が死ぬって事に一番、衝撃だった。するとアンズが「あれ? ユウゴは知らなかったのか?」と聞いてきた。


『知らなかった。風邪じゃなくて変なウィルスじゃないの?』

「それもよく分からな。熱が四十度を超えて咳や吐き気とか出る。最悪死ぬこともあるし、治っても後遺症が残る。使い捨てとは言わないけど、武装機体兵の事を調べようとするものは居ないから原因も不明だ」


 その話を聞いて武装機体兵と言う立場は本当に弱いんだなと思った。そしてただの風邪でなくなるなんて意外な弱点だなと感じた。


「国家が見捨てた者を【棄民】と呼ぶ。ここにいた武装機体兵も人々に見捨てられたのさ」

「見捨てて無いじゃん、生臭坊主は。風邪で亡くなるみんなの傍にいたじゃん」


 傍にいたクワンが口を曲げて反論する。それを生臭坊主は何も言わず、頭を撫でた。


「こういう歴史があるから、ここの地は忌み嫌われて留まる奴はいないんだよ」

『なるほどね』

「だか、政府の目が届かないから無法者が隠れる場所にぴったりだな。今日の地下鉄の事件の犯人とか」


 どうやら地下鉄車両立てこもり事件を知っているようだ。生臭坊主は「そろそろスダチが来るだろう」と言って、預言者のように指を指す。


「この通路を真っすぐ行ったら階段があるから、それを登れば外に出れるぞ」

『ありがとうございます』

「サンキュー、生臭坊主!」


 アンズは「じゃあな」と言って手を振って、俺はドラム缶ロボットを操縦しながら、生臭坊主が言う道を真っすぐに向かう。

 その時、アンズの電子端末から着信音が鳴る。


『アンズ、もうそろそろ着くから』

「分かった!」


 スダチからの連絡でアンズは走り出した。キュウリ落としの子を背負って、表情を変えずに走れるなんてどんな体力だよと思う。そしてあいつは走ると俺が追い付かなくなる。

 俺が『ちょっと、待ってよ』と言うとアンズは「知るか」と笑って言う。なんだろう。アンズ、スダチが帰ってきて、ものすごくご機嫌である。

 生臭坊主が言っていた階段を登っていくと、辺りはすっかり夜になっていた。ここももちろん廃墟だから街灯もなく、ビルの明かりも無い。真っ暗だから星がきれいに見え、静かだった。

 そんな時、バイクと車のエンジン音が響き、ヘッドライトが照らす。


「アーンーズー!」


 バイクに乗ったスダチが手を振り、アンズも「スダチ、こっち!」と大声で言う。

 後ろから白いワゴン車も来ている。運転席には仏頂面のシラヌイがハンドルを握っている。なんでシラヌイが運転しているんだろう? 

 スダチはアンズの近くにとまると「お疲れー」と頭を撫でる。


「キュウリを落とした奴は捕まえたようだな」

「まあね。だけど眼鏡は無理だった」


 スダチは軽く笑って「いいさ」と言い、アンズが背負ってきたキュウリ落としの子を抱っこしてシラヌイが運転してきたワゴン車の後ろのドアに入れた。


「それで、この寸胴ロボットも運ぶのか?」


 シラヌイが窓からそう言うので、俺は『お願いします』と言った。するとシラヌイは「あれ? ユウゴ?」と聞き返した。


『……そうなんです』

「ふうん、そうなんだ。へえ、こういったロボットを動かせるんだったら、車も運転できるだろ。そしたらうちの運送会社の人員不足をちょっと解決できる」

『いや、無理っす』

「無理に決まっているだろ。武装機体兵が乱暴な運転しているから、あっという間にユウゴは事故るぞ」

「それもそうか。でも一応、考えておいてくれ」


 恐ろしいシラヌイの提案に『絶対に考えない!』と伝えると、スダチとアンズは笑う。こうしてみるとシラヌイとスダチは知り合いって感じだ。


『シラヌイってスダチと旧知の仲なのか?』

「十六の時からの知り合い。俺達、色々と愉快に楽しく仕事をしていたのさ」

「久しぶりに電話してきたと思ったら、手伝ってくれって頼まれるくらいに」


 ヘラヘラっとスダチはそう答えて、シラヌイは自嘲気味に答えて笑う。

 そうして俺が操縦していたドラム缶ロボットをスダチはワゴン車に積んだ。それにしても、あんなに乱暴な事されて動けるってかなり頑丈だな。


『じゃあ、俺はこの辺で。人生微糖のバイトに行くよ』

「おう。俺たちはハンゾウの事情聴取を受けるからってリサに行ってくれ」


 そう言って、俺は長い時間動かしていたドラム缶ロボットから離れた。




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