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地下鉄駅車両、立てこもり②


 アンズによる自己犠牲精神ゼロの特攻のおかげで車内の様子が分かった。だがまだ緊迫している。

 ハンゾウがトキオ奪還に向けて返答する。


「お前らの要件は分かった。首都をトキオに戻したいんだろ。いつかは俺達も去るから、ひとまず地下鉄の立てこもりはやめろ」

「ダメだ、今すぐ出て行け」

「今出ようが、恐らくトキオは首都に戻らないぞ」


 ハンゾウは呆れながらそう言い、「ついでに占拠している車両は一つで十分だよな」と言う。質問の意図が理解できないトキオ奪還のメンバーは、「どういう事だ?」と尋ねるが、答える前に電車が発車するチャイムが鳴る。


「おい! なんだ、このチャイムは」

「占拠していない車両を次の駅に向かわせるんだ」


 ハンゾウがそう言うと先頭車両以外の電車が発車した。……え? 発車するのかよ!

 俺同様に絶句しているトキオ奪還だったが、占拠している先頭車両だけホームに残されると人質にスタンガン銃を向けている奴が叫び始めた。


「おい! なんで勝手に発車しているんだよ!」

「立てこもっている車両は一つだけなんだから、他は発車してもいいだろ!」


 トキオ奪還メンバーは「どういう理屈だ!」と怒鳴るが、ハンゾウは冷静に怒鳴って喋る。


「もうトキオは首都では無いが、物流の要なんだよ! ここは他県から送られてきた農作物などを仮首都のナゴノや別の県に運ぶための地下鉄だ! お前らの勝手な理想を暴走させて地下鉄を占拠したら、荷物を待っている人間に迷惑かけるんだよ!」

「だけど!」

「だけど、なんだよ! 現実を見ろよ! トキオを首都に戻す夢なんて誰だって見るさ! だけど、その前に今の生活や経済を維持させるのだって、精一杯じゃねえか! それなのにトキオを首都に戻すなんて無理な話しだろ!」


 戦時中、トキオが壊滅状態になってナゴノを仮の首都になった。

 そして終戦した後、首都をトキオに戻すかって議論になったのだが、そのためには膨大な税金や時間がかかると分かり、全国の復興を最優先してナゴノを首都のままにした。

 だがこの決定に一部の人、特に若者達に猛反発が起こった。


 そこで【トキオ奪還】ってチームが出来た。


 最初は大人しく演説したり、プラカードを持って行進したりしていた。だが一部で破壊活動も起こって激しくなり、テロリストって思われるようになった。だが首都をトキオに戻したい気持ちは共感できると言う事で、多くの若者がトキオ奪還を嫌わず、入りたいと思っていると言う。電脳空間でもトキオ奪還の講演会みたいな事もしているし、【応援しよう】という名目でグッズ販売や寄付も受け付けている。


 以上が立てこもりを見守りしている時にフリーダムジャーナルの記事を調べた【トキオ奪還】の概要だ。だが記事を読み進めると若者がトキオ奪還に惹かれるのは、こんなセンチメンタルな理由じゃないらしい。


 ハンゾウはトキオ奪還のメンバーの気持ちに寄り添うように語る。


「お前らの気持ちは分かるぞ。俺だって華やかな首都 トキオを戻したい。だけど、今はその時じゃ無いんだ」


 フルフェイスマスクで顔は隠れているが、トキオ奪還のメンバーの表情に揺らぎがある。この行動に迷いが出てきたようだ。


「ここは警察の応援も遅くなるが、特殊部隊が駆け付ければすぐにお前たちは捕まる。若いのに刑務所に行くのは嫌だろう! それにこのまま占拠していたら物流に問題があって、送り先や届け先に不利益が起こったらお前たちが賠償金を払う事になるぞ!」


 刑務所と賠償金の言葉でトキオ奪還のメンバーにざわめきが起きた。今の時代に刑務所へ行くのも多額の賠償金を払うのも嫌だろう。

 ここでハンゾウは更に畳みかける。


「だが今、ここで立てこもりをやめれば刑も軽くなって執行猶予くらいになるし、まだ賠償金は発生していない! さっさと投降した方が身のためだ!」


 ザワザワとトキオ奪還のメンバーにどよめきが起きた。人生かけてまでトキオを首都に戻すわけでは無さそうだ。




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