表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/106

地下鉄車両立てこもり①


 一番ホームには列車が停まっているが、先頭車両に人だかりがあった。

 スダチが野次馬達に「はいはい、退いた退いた」と言って、先頭車両を方へと向かう。俺も行こうとするが逆にアンズが、俺が操縦しているドラム缶ロボットの上に乗った。


『おい! 乗るな!』

「うるさいな、見えないんだよ」


 アンズが上に乗っているが、カメラは見えているので野次馬の体の隙間から、問題の先頭車両が見えた。

 電車の中にはフルフェイスマスクを被った人間が数人と普通の客が一人、二人は電車から出てホームにいて、一人は膝をついて電脳空間に入れるディメンションブレイクを被っていて、もう一人はディメンションブレイクを被っている人間の頭に突き付けていた。ディメンションブレイクもヘルメットに大きなゴーグルがついたようなデザインなので、人質は口元と鼻くらいしか分からない。

 更に先頭車両にいた電車の操縦士が追い出されて、すっかりフルフェイスマスク共が占拠してしまった。

 そして占拠した電車から放送が流れる。


【我々はトキオ奪還だ。ここを占拠する武装機体兵とその保護者はトキオの復興の妨げだ。一刻も早く出ていけ。繰り返す。我々は……】


 老若男女の声をぐちゃぐちゃに合わせた合成音声が大音量で流れ出した。このフルフェイスマスクの奴らが【トキオ奪還】って言うチームなんだろう。

 放送が流れると周囲の人達は「へえ、あれがトキオ奪還か」と興味深そうに言っていた。どうやら有名人のようで、写真を撮っている。


「おい! 何の騒ぎだ!」


 ようやくハンゾウが出てきて、野次馬も道を開ける。

 ディメンションブレイクを被っている人間に拳銃を突きつけている人間が「止まれ!」と叫んだ。


「お前たちがトキオを占拠しているから、ここの復興が進まないんだ。早く出て行け! もし我々を排除しようと思うなら、こいつや車内にいる一般人を打つ!」


 そう言ってスタンガン銃を突きつけた。

 うわ、すごいヤベエ奴らじゃんと思っていると、上に乗っているアンズが「あ!」と叫んだ。何を見つけたんだ? と思っていると俺が操縦しているドラム缶ロボットから降りて、一直線に占拠している地下鉄に向かって行った。

 この行動に野次馬も占拠しているトキオ奪還も驚く。

 ディメンションブレイクを被っている人質を助けようとしていると思ったら、その二人を通り過ぎて、地下鉄車内に入って行った。


「テメー!」


 アンズはそう叫んだ瞬間、車内にいたトキオ奪還の人間に撃たれた。


『アンズ!』


 俺がキュルキュルと地下鉄へと向かおうとするとスダチは止めた。


『なんで止めるんだよ』

「あれはスタンガン銃だ。音的に軽度の威力しかないから、命に別状はない。それにアンズはスタンガン銃が効きにくいから数分で起きる」

『……だけど』

「下手に動いてディメンションブレイクを被っている奴に、スタンガン銃をぶっ放される方がヤバいぞ。最悪、ここの地下鉄が使用禁止になる」


 嫌そうな顔でスダチは告げる。武装機体兵よりも一般人の方が大事なのは当然なのだ。

 俺達が話しているとスッとハンゾウがやってきて「スダチ」と言って、この場にいる誰もが思っている事を口にした。


「なんでアンズは突っ込んだんだ? お前の指示か」

「知らん。なんであいつは地下鉄車内に突っ込んだんだ?」


 不思議そうにスダチは首を傾げる。スダチが分からなければ、誰も分からねえな。


 ぶっ倒れているアンズはズルズルと地下鉄車内の隅に置かれた。一刻を争う事態だが、全員どうする事も出来ずに立ちつくしていた。

普通だったら、さっさと武装機体兵の保護者達が指示出したり、力自慢の機体持ちの奴が事件解決させようとする。

 だがこの場にいる武装機体兵の保護者は「待機」と告げて様子をうかがうだけだし、機体持ちであるスダチや他の人も見ているだけだった。

 俺がスダチに『なんで誰も動かないんだ?』と聞いた。


「犯人が全員、普通の人間なんだよ。もし事件の実行犯が武装機体兵や機体持ちだったら俺達は喧嘩両成敗、自己防衛上等で事件解決のために動くさ。だけどあいつらは全員、普通の人間だ。下手に動いて怪我でもさせたら、俺達が咎められるんだ。バケモンにはバケモンをぶつける。だけど普通の人間にバケモンをぶつけたらいけないんだよ」


 確かに車内やホームで人質を取っている奴らは機体持ちや武装機体兵ではなさそうだ。人質ではなさそうだが、偶然乗り込んだであろう車内にいる人も機体持ちではないようだ。つまり、事件の実行犯も人質も巻き込まれた人も全員普通の人間って事だ。


『じゃあ、警察の仲間の応援を呼ぶの?』

「呼んだが、来るのは遅いだろうな」


 俺の質問にハンゾウが忌々しそうに答えた。


「ここは重要度が低いんだ。普通の人間が多い居住区でこういった事件が起こったらすぐに駆けつける。でも武装機体兵達や機体持ちの人間が多くて、更に違法の巣窟と化しているこの地ではなかなか来ないんだ。むしろ放置して大事にして、この地を批判する材料にさせる」

『最低だな』


 改めて武装機体兵や機体持ちの立場が弱いと感じた。

 どうする事も出来ないのか……と思っていると、スダチが「おい、ユウゴ」と言った。


「アンズの視覚と聴覚を共有しろ」

『え?』

「それでハンゾウの電子端末でも見られるようにしろ。あとアンズに電話はするな」


 一方的な指示に少し反発を思えたが、俺は言われたとおりにした。スダチの顔があまりにも真剣で、そして足をリズミカルに貧乏ゆすりをしていた。

 すぐさまアンズの視覚と聴覚を共有すると、カッカカーと言う音が聞こえてきた。これは武装機体兵が戦時中に使っていたモールス信号みたいなもので、音やリズムでメッセージを伝えられる。俺もフキノやナズナから教えてもらったので大体は分かる。


「ユウゴか」


 アンズはそう呟いてパッと顔をあげて車内を見渡す。うつ伏せで寝ているので見上げる形になっているが周囲の様子は見える。

 車内にいるフルフェイスマスクのトキオ奪還は三人。そのうちアンズを打ったスタンガン銃を持っている人は一人、あとの二人は金属バットを持っている。また巻きこまれている普通の客は一人。少し野暮ったそうな長い髪に大きな麦わら帽子を被り、サングラスをしてワンピースを着た女性だ。帽子とサングラスをしていて表情が分かりにくいが、じっと縮こまっている。多分、彼女は偶然にも巻き込まれたのだろう。

 更に地下鉄の運転席の方を見ると電子端末があった。そしてコードが差し込まれており、人質が被っているディメンションブレイクに続いていた。

 車内の様子がアンズのおかげで見えたが、本当にスタンガン銃が効かないんだなと思った。

 スダチを見ると貧乏ゆすり、に見えるモールス信号を発信する。


スダチ【車内の様子は分かった。というか、どうしてお前は車内に突っ込んでいったんだ?】

アンズ【この中に、私のきゅうりを落とした奴がいるんだ】


 スダチが変な顔になってモールス信号を踏んでいた貧乏ゆすりをやめた。

 そしてハンゾウは「ブレねえな、あいつ」と呟いた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ