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リュウドウのプライベート空間にて


 俺は電脳空間に戻っていく。脳しかない俺にとって自由に動き回れるのは、ここ電脳空間くらいだ。

 意識を電脳の中へ入り、まるで現実とまではいかないまでも自分の意志で動ける電脳空間。だけど俺は自分の空間が持てないが故にリュウドウと言う、ならず者の空間に間借りしている状態だ。

 そしてこのリュウドウのプライベート空間でも仕事がある。大量にあるダイレクトメールが来るので、メールボックスの整理だ。


 ふとテーブルのオブジェクトにグデーンっと寝っ転がっている半透明の猫が見えた。トウマだ。現実の猫のように太々しくゴロゴロしている。


『おい! メールボックスがいっぱいになっているぞ』

『だから?』

『だから? じゃねえよ! 片付けろよ!』

『えー、僕ー、そう言うのー、むいていないんですー』


 そう言ってトウマのアバターである半透明の猫、通称【液体猫】はドローンッと水たまりになった。やる気がありませーんと言わんばかりだ。

 電脳空間があるって事は仮の姿、アバターもある。着せ替え自由だが、俺は主にはちみつレモンのペットボトルかイキッた黄色いスーツの八頭身のアバターをよく着ている。トウマはこういったアバターを作るのがうまくて、さっきの【液体猫】が水たまりに変化させる動作は他の人達では作るのは難しいだろうとトウマ自身が自信をもって言っている。

 トウマは俺のように現実世界に出てこれない。だからリュウドウのメールボックスを整理くらいしてほしいんだけど。こいつは猫並みに気まぐれな奴なのだ。


 メールボックスの整理をしている俺をよそに、トウマはゴロゴロしながら【フリーダムジャーナル】と言うニュースサイトを出して読み始めた。もう! これだって、俺がリュウドウの仕事で得た金で定期購読しているのに!


『ふうん。記憶を変えたり消失する空間か……』


 俺の怒りなんて気にしないでトウマはニュースを読んでいる。そしてブツブツと『まだナゴノの爆破未遂事件の犯人捕まっていないんだ……』と言っている。

 あー、そういえば昨日、ナゴノに爆弾を持ってきた奴が捕まったってニュース速報が出ていたな。しかも犯人はテロ組織の指示でやったのでは? と言う疑惑が出ていた。もっと詳しく読みたかったのに、アンズが出て行っちゃって読めなかったんだよな……。アンズが帰ってきた後、俺は疲れて読む気が無くなってしまったし。


 俺がため息をついてリュウドウのメールボックスを整理している時、着信音が聞こえてきた。相手はナズナだ。アンズの事を話すと思うと気が重いが電話に出た。


「もしもし、ユウゴさん。アンズは大丈夫ですか」

『大丈夫じゃないね。線路に降りて地下鉄を遅らせたり……、色々トラブルが多かったな』


 ナズナは小さく「やっぱり」と呟いた。


「リュウドウさんの端末から着信がいっぱい来ていたんです。でも海賊と出くわしていたんで出れなかったんです」

『え? 海賊と出くわした? ケガはなかった?』

「フキノも私も大丈夫です。でもリュウドウさんが……」


 え? 嘘だろ? リュウドウ、お前……。


「海賊船を制圧して金目の物を物色していたら、海上警察がやってきて一緒に捕まりました」

『あー、目に浮かぶよ。リュウドウが捕まっている所が』

「あ、視点と聴覚をリンクしてください」


 アンズと違い、ナズナは別に視点と聴覚をリンクするのに嫌がらない。まあ、後ろめたい事なんてないからないだろう。

 ナズナのお言葉に甘えて、リンクすると、ぱあっとオレンジ色の光が見えた。夕焼けだ。視界が揺れているので船に乗っていて、海も夕日に照らされている。ナズナがきょろきょろと見るとフキノがじっと海を見ていた。フキノの真っ白な髪もオレンジ色になっている。柔らかいオレンジの光に照らされて、なんだか暖かい物を感じた。脳しかないけどね。


「海賊も海上警察もびっくりしましたが、海がきれいだったので良かったです」

『リュウドウが捕まらなかったら文句は無いな』


 ナズナがため息交じりで「そうですね」と返した。俺的には今まで警察に逮捕されないのが不思議なくらいだったけど。


「あ、今、ユウゴと電話している?」


 フキノがそう聞くと船長を連れてきて、自己紹介を始めた。


「ユウゴ、この船を操縦しているのがマティで、この人がサイコパス爺。で、電話しているのがユウゴ。脳しかないんだって」

「へえ、難儀だな。お前さん」

『あんたもサイコパス爺って、スゲーあだ名だな』


 サイコパス爺は軽く笑って「まあ、よろしくな」と言って去って行った。マティは操縦中だからか姿は見えないが「よろしく」とのつぶやきが聞こえてきた。

 フキノに『サイコパスって、あの爺さんは何をしたんだ?』と聞いたら、「名前だろ?」と返ってきた。どうやらこの仏のような細目の爺さんの名はマジでサイコパスって思っているのだろう。フキノはかなり物知らずなのだ。


「フキノ。サイコパスって言うのは名前じゃないよ。サイコパスって言うのは、……怖い人って事? だと思う」


 知識がある方のナズナも随分とあやふやな答えだ。もしくはフキノに分かりやすく言っているのかもしれない。


「でもなんでサイコパスって呼ばれているのかは、分からないです」

『ナズナも分からないのか。じゃあ、リュウドウに聞いてみるか』


 再び、海を見るとオレンジの夕日でキラキラと輝いている。しばらくナズナは海を眺めながらちょっと申し訳なさそうに話す。


「夕方までに帰るつもりでしたが、遅くなりそうです。多分夜になりそうです」

『マジか。じゃあ、リサに伝えておけよ』


 ナズナは「連絡は以上です」と言って通話を切り、俺もナズナとの視界と聴覚のリンクを切った。




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