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アンズの暴走⑥


 アンズは来た道に戻っていく。つまりホームを降りて、線路を走っていく。


『おい、アンズ! このまま線路を走っていったら、また怒られるぞ!』

「むう。それもそうだな。適当なところで地上に出るか」


 そう言って近くのホームから登って外に出た。パアッと夏の日差しが降り注ぎ、眩しかった。

 廃墟の学校が鎮座して、その周りには商店街のような小さなお店が立ち並ぶ。遠くには住宅やマンションもあって、こちらは住んでいる気配がある。電信柱や道路標識は倒れていたり、アスファルトの道は陥没している所もある。


 終戦してもう数年経っているが、首都だったトキオは全く復興の兆しが見えない。


 そんな街並みをアンズは何も感じずに走っていく。少し夕立が降ったのか地面が少しだけ濡れていた。もう夏だなと思った。

 ひび割れたアスファルトからアンズより高い若木が育っていた。武装機体兵並みにたくましいなって思った。



 しばらくして【人生微糖】付近の地下鉄入り口に着いた。

出入口の場所で短髪の黒髪の高身長の見慣れない男性がいた。そしてなぜかギターケースを背負って、足元には大きなボストンバッグがあった。


「いた! スダチ!」


 そう叫んでアンズはダッシュする。いや、近いんだからタックルするつもりで走らなくてもいいのでは? いや、違う。これは攻撃するつもりだ。

 スダチと呼ばれた男は振り向いて「アンズ?」と呼んだ。だがすでにアンズの拳が顔に迫っていた。ぶっ飛ばしてしまう、アンズの視点を見て俺は肝が冷えた。

 だがぶっ飛ばされたのはアンズだった。アンズの拳を軽々と避けて、更に腕を取って倒してしまったのだ。

 仰向けで倒れたアンズにスダチは笑顔で覗いて口を開いた。


「久しぶり、アンズ。随分と物騒な挨拶だな」

「スダチ、テメー……」

「そんな怖い顔をするなよ。会いたかったよう、アンズ!」

「うるせえ! 離せよ!」


 アンズを起こして、ギュッと抱きしめる。会えて嬉しいとばかりに抱きしめているが、アンズはスダチから離れようとしている。

 俺が『アンズ、彼がスダチか?』と聞くと、スダチも「ん? 誰?」とキョロキョロとあたりを見回した。


「スダチ、ユウゴって言う能無しなのに脳しかない奴さ」

「……なんだそれ」

『アンズ! 俺の紹介する時にそれを言うな! すいません、俺はアンズの携帯端末から通話しているユウゴです。様々な諸事情から脳しか無いんです』

「へえ。そう言えばリサ姉が言っていたな。あんたも俺以上に悲惨だな」


 スダチはすんなりと俺の言葉を信じて、アンズを構っていた。頭をガシガシ撫でたり、頬と突っついたり。当然、アンズは嫌がって暴れるがビクともしない。普通の人間に見えるが、武装機体兵並みの力があるようだ。

 機体持ち。戦争での負傷で、武装機体兵の体の一部を移植した人たちが存在する。武装機体兵並みの力を持っているが、普通の人達から敬遠される存在でもある。だから自然と武装機体兵の保護者をしていたり、一緒に仕事をする事が多い。


 スダチはアンズに頬擦りをする。随分と距離感の近い奴である。そして軽薄そうな男のようである。アンズもうんざりしてる……けど、本気では嫌がっていないようだ。

そんな事を考えているとスダチは「ユウゴ」と呼んだ。


「色々と話したいことがあるけど、アンズと俺はちょっと用事があるんだ」

「はあ? スダチ、用事って?」

「お前に会いたい奴がいっぱいいるんだよ」


 スダチが意地悪気な笑みを浮かべながらアンズを見る。知らず知らずのうちにアンズはスッと逃げようとするが、スダチから逃げられない。


「誰だよ。私に会いたい奴って」

「地下鉄の駅員と派遣巡査のハンゾウ」


 スダチの言葉にアンズの血が引く音が聞こえてきた。アンズをスダチはヒョイッと持ち上げて肩に持った。ジタバタするがアンズはがっしりと掴まれて逃げ出せない。

 そしてスダチはアンズを持って地下鉄の階段を降りて行った。


「イヤー! 助けて!」

「はっはっはっ、助けを呼んでも無駄だ! 誰も助けには来ないぞ!」


 攫われた女の子と悪役のような叫びとセリフを言っているアンズとスダチだが、周囲の人は全くと言っていいくらい気にしない。それどころか「アンズ、何やらかしたんだ?」「スダチがアンズを連行している!」「やっと捕まえたか」と茶化したり笑ったり呆れたりしている奴もいる。

 こうして無情にもアンズはスダチによって連れ去られた。もちろん同情は全く持って起こらなかった。



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