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アンズの暴走④


 落ちたキュウリの恨みは恐ろしい。

 真っ暗な地下鉄通路をネイビーの髪の子とアンズは走り抜けて、やがて次の駅に着いた。ネイビーの髪の子はホームに登った。アンズも同じく登るが、ホームには同じような髪の子が多く、アンズが追っている子を見失った。


「クッソ! あいつ、どこに行った!」

「あ、アンズさん!」


 一人の武装機体兵がトトトとかけてきてアンズの腕をとった。明るい茶髪に真面目そうな少年でニコニコ笑っている。言葉使いも妙に丁寧だ。


「誰か探しているんですか? アンズさん」

「ああ、コナか。帽子をかぶった奴で、なぜか線路に降りて……」

「その人の居場所、僕らは知っていますよ」


 そう言ってアンズの腕を引っ張ってコナは駅員さんの方に向かおうとした。が、アンズは腕を振り払った。


「おい、コナ? お前、何か私に隠し事していないか?」

「していないですよ。疑わないでください」


 その時、灰色の髪の男性が走ってきた。顔立ちは中年くらいに見えるが、灰色の髪のせいで老人のように見える。ヨレヨレのくたびれたジャケットを着ている。

 地下鉄構内を中心に見回っている派遣警察のハンゾウだ。


「お、コナ。アンズを見つかったか」

「げ、ハンゾウ」


 アンズが嫌そうな声で男性の名前を言った。この様子だとどうやらヤバそうな人間のようだ。

 一方、ハンゾウはニマニマと嬉しそうな顔で「いやあ、会いたかったな」と言った。


「ちょうど、居住区のコンビニのパンがあるぞ?」

「え? あるの?」

「はい、あります」


 美味しいものがあると聞いて、アンズはキュウリの恨みと追って行ったネイビーの髪の子を忘れて行ったようだ。

 ニコニコ顔を崩さずにコナは「じゃあ、行きましょう」と再びアンズの腕を掴んだ瞬間、ノイズ交じりの放送が流れてきた。

 

【ただいま、ネイビーの髪の武装機体兵とアンズが線路に乱入しましたので電車が遅れています。もし見つけた場合、すぐ近くの駅員に教えてください。繰り返します……】


 放送が流れている間、コナとハンゾウはずっと笑顔をキープしてアンズを見続けた。


「それではアンズさん、一緒に……」

「行かねえよ! 駅員の所に連れて行って説教するんだろ!」

「当たり前だ」

 

 ハンゾウは舌打ちを打って「コナ、連れていけ」と命令する。コナの方が力強いのか、アンズはもがくが、離れられないようだ。

 暴れるアンズは「クソクソ」と悪態をつく。だがすぐに誰もいない場所をアンズは凝視する。


「あ! あいつ!」

「え? もう一人の方?」


 アンズの声でコナとハンゾウはそちらに意識を向けた。そしてバッとコナの手を振りほどいてアンズは逃げ出した。

 コナとハンゾウの声が聞こえるが、アンズは「へへへ」と笑って、反対側のホームまで飛んでいった。


「ちょっと線路を飛び越えて別のホームに行かないでください!」

「へ! 私を捕まえたきゃ、常識とルールを捨てることだな!」


 コナの注意をアンズは馬鹿にしたように行って「ギャハハハ」と笑う。

 そうしてホームとホームを飛び乗っているとネイビーの髪の子が線路を走っていくのが見えた。


「見つけたぜ! キュウリ落とし!」


 アンズはそう言ってネイビーの髪の子の後を追った。どうやらあの子を【キュウリ落とし】と命名したようだ。

 そうしてしばらくアンズはキュウリ落としを追って走って行った。


『おい! アンズ! また電車が来るかもしれないぞ』

「馬鹿だね、ユウゴ。ここの線は使われていないから電車が来る事なんて無いさ」


 そう言えば、地下鉄も使われている線路は五つくらいしか無い。戦前は蜘蛛の巣の如く張り巡らされていたのに、ほとんどは修理出来ず使えないのだ。

 真っ暗になった地下鉄の使われていない駅をいくつか通り過ぎた頃だった。

 電車とは違うライトが目の前で光った。そしてバイクのエンジン音が線路内に響く。そしてバイクがキュウリ落としを所まで走り、勝手知ったるとばかりにバイクに乗って走り去ってしまった。

 さすがにアンズでも、バイクは追いつけない。走り去って小さくなっていくバイクを見ながらアンズは悪態をつく。


「クッソ。あいつら線路の上をバイクで走るなんて、常識知らずだ」


 アンズを知るすべての人間達を代表して俺は言おう。


『お前が言うな!』




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