アンズの暴走②
ここの地下鉄はトキオの重要な足だったりする。今のご時世、車を持つ人間は少ないし電車は線路が崩壊している所もあって走れない、バスもタクシーもない。唯一、地下鉄の一部の線が幸運にもあるので、そちらを走らせている。
ついでにここの地下鉄は貨物列車としても使っていたりする。カント地方の農作物などを運ぶ足としてかなり重要であり、また物流の要みたいな所もあるからなのか、お店がいっぱい並んでいる。そして怪しい奴も多い。
「あー、暇」
「アンズ。立ち読みしないで、買ってくれよ」
地下鉄駅構内にあるお店のランプ堂でアンズは立ち読みし、店主のサトウははたきでアンズの頭をポフポフと軽く叩く。
「新刊無いの? 新刊」
「うち古本屋だから、新刊なんてないよ」
そもそも手作り感の溢れる本さえもある。ここの店主が厳選した短編集を集めた雑誌やネットや電脳だけで連載している漫画も無許可で刷って本にしている。著作権侵害の古本屋なのだ。
「はー、しけてんなー」
「新刊欲しかったら、隠れ家に行けばいいだろ」
「あそこは小説しか売っていないだろ! そもそも立ち読みできないし!」
「アンズ、暴れたら本棚が崩れて君の体でもぺしゃんこになるからやめてね」
普通の人間だったらぺしゃんこなんて、かわいいレベルの事故にはならないけど……。
アンズは「はあ……つまらない」と言って、読んでいた本を本棚に入れて店を出ようとするとサトウは「そういえば」と話しかけた。
「スダチが帰っているんだってな」
「……え?」
「あれ? 知らないの? じゃあ、まだ人生微糖の方には帰っていないのか」
「おい! サトウ! スダチはどこにいるんだ!」
「知らないけど。って……ああ、おい!」
アンズは急いで店から出て行った。
『おい! アンズ! どこに行くんだよ!』
「セトん所!」
そう言って走り出そうとした時、「おい! アンズ!」と怒鳴り声が聞こえてきた。
アンズが走る進行方向にオレンジの髪の武装機体兵が立ちふさがった。このオレンジの髪の子にも見覚えがあった。
そうだ。この子は昨日の夜にフラッと抜け出して、武装機体兵のカップルを脅かしたのだ。更にアンズは男の方の武装機体兵が先日別の女の子と遊んでいたと言う情報をチクったのだ。そのカップルの女の子が目の前にいるオレンジの髪の武装機体兵なのだ。
「テメー、よくも昨日のデートをぶち壊したな!」
「知るか! つーかどけ!」
「退くか! バーカ!」
そう言ってオレンジの髪の武装機体兵は近くにあったロッカーを思いっきりアンズに向かって投げた。ぶち当たると思った瞬間、アンズはスライディングをして飛んできたロッカーを避ける。
アンズの背後ですごい音が響いて、俺はいきなりジェットコースターに乗せられた気分になった。だって全然、身構えていなかったんだもの。脳しか無いのに、心臓がバクバクだ。
その後、すぐにオレンジの髪の武装機体兵の保護者らしい人が「コラー!」と言う声が聞こえてきた。これによりオレンジの髪の武装機体兵はマズイって顔になった。
「次はいい男と付き合えよ!」
去り際にアンズはそう言うと「うるさい! 大きなお世話だ!」と怒鳴って追いかけようとしたが、保護者の人に止められて怒られていた。
大笑いしながらアンズは駅構内を走って行く。
「ギャハハハ! いやあ、昨日のあいつの彼氏の狼狽は面白かったな」
『お前、いつかボコボコにされるぞ』
アンズは「ぎゃははは」と大笑いしながら走って行った。こいつ、世の中、舐め腐っている。




