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アンズの暴走①


 暑い六月下旬、朝からアンズは機嫌が悪かった。真っ赤な長い髪を掻きむしりながら地団太を踏んで怒りの叫びをあげていた。


「クソ! あいつら私を置いて海に行きやがって!」


 今回の仕事はとある船を海賊から守ってほしいと言う依頼だった。これ聞いた時、仕事の内容より海外じゃなく、国内の海に海賊なんているんだ……と衝撃を受けた。

 百数十年ぶりの戦争は辛うじて国は守られたが、復興はままならず治安も悪化している。無政府状態とはいかないが、警察や公安が駆け付けられない事が多い。仕事の手伝いをしているリュウドウは警察や公安直々に依頼を受けて過激に問題を解決したり、用心棒などもしている。

 リュウドウにはアンズ以外にナズナとフキノと言う武装機体兵の保護者をしている。保護者と言う言葉から責任をもって彼らを見ているわけではないけど。


「くっそう。なんで起こさないんだよ!」

『ずっと起こしていたよ! 見ろ、この着信履歴を!』


 最近、ナズナ達に腕時計型の携帯端末をリュウドウは買い与えた。かなり丈夫でアンズが着けるのを嫌がって思いっきり床に叩きつけても壊れなかったどころかディスプレイにひび一つが入っていなかった。床はちょっと凹んだのに、どんな構造をしているんだろうか。

 その携帯端末から俺は朝三時からアンズに電話をかけ続けて十五回目でようやく出た。


『そもそも起こす起こさないの話じゃねえんだよ! アンズ! まず夜中に行くと言ったのにフラッと出て行って出発時間に帰ってこねえし、朝方に帰ってきたらベッドで寝て、お昼に起きたお前が怒るんじゃねえよ。しかも夜中に外出て……』

「腹減った」


 俺の怒りはアンズに届いておらず、ブチと電話を切った。そしてフラッと二階の窓から出て行く。活発な武装機体兵のアンズにとって二階の窓など勝手口なのだ。

 俺は急いでアンズの視界と聴覚をリンクさせる。武装機体兵は行動を監視させるためのこういう機能もあるのだ。チラッとガラスにアンズの姿が映し出す。鮮やかな真っ赤な髪をギュッと縛ってお団子にしている三白眼のちょっと生意気そうな顔をしている。

 武装機体兵。その名の通り、身体を遺伝子強化させて機械を詰め込んだ人造人間。十代半ばの綺麗な顔で、大人顔負けのスペックと人間離れした身体能力を持ち、あまりにも未熟で幼い精神面がある奴らだ。

 俺は一言以上言いたいことがあるため、アンズに携帯端末から電話をかける。


『おい! 大人しくしてろよ!』

「というかお前、またストーカー機能作動しているのか。ナズナやフキノはしないのに」

『お前が外に出たら、監視してくれってナズナに言われているんだよ!』

「ふん! あのいい子ぶりっ子が! 私がトラブルを巻き起こすと思い込んでいるんだ!」


 実際にそうだろ、アンズ。昨日、フラッと出て行った時の事を俺は回想し、ため息をついた。

 アンズは近くの地下鉄の駅中の格安屋台【マレ飯】に入った。


「おっちゃん、今日は何?」

「麺類」


 料理名ではなく種類で答えた。ちなみにここの屋台は周辺の余った店から食材をかき集めて作った料理だから、毎日違うメニューになる。ちなみに金額はかなり安い。そして安さに見合ったクオリティである。

 アンズは「じゃあ、それで」と言って席に着くと、すぐに出てきた。器には白くて太いうどんと灰色のソバと黄色のスパゲッティの麵などなど、様々な麺がごちゃ混ぜに入っていた。ちなみに具らしきもの入っていない。もしかしたらマカロニが具だったりして……。

 アンズが一口食べると食レポをする。


「おっちゃん。うどんがまだ硬いのに、パスタは柔らかすぎてデロデロだよ」

「一緒に茹でたら、そうなるな」

「一緒に茹でるな!」


 アンズは文句を言いながら食べていると、放送が流れた。


 ピンポンパンポーン

『金髪の少年型の武装機体兵を探しています。見知らぬ武装機体兵を見つけたら、派遣警察か駅員までお知らせください』


 駅構内に流れた放送が流れ、数日前にナズナがヤベエバイトをしていた時の事を思い出す。

 とある場所に荷物を持って行ってかなりの報酬が出ると言う怪しくも魅力的なお仕事にナズナは手を出して、案の定ヤバい事になってしまった。

 荷物を受け取った男が中身の確認をしたいからと言う事で開けたら金髪の武装機体兵が出てきて、そのまま逃げたのだ。

 その後、セトと言う派遣警察の人がやってきて荷物受け取り人の男は捕まって、ナズナはリサから説教を受けた。そして飛び出していった金髪の武装機体兵はまだ見つからない。受取人の男から事情を聞こうとしたが、理性がぶっ飛んでいるらしくまともに会話にならないようだ。携帯端末を調べると、この男もナズナと同様に荷物を運ぶだけの人間だったため、何も分からない状況なのだ。

 そのため唯一の手掛かりである金髪の武装機体兵を一刻も早く見つけ出さないといけないのだが、構内放送をしているだけで何もしていない。

 リュウドウ曰く、駅構内にいる派遣警察は人不足だから事件を捜査なんてしない。ただの警備員らしい。随分な言われようだけど、トラブルも事件も多いからそれくらいしか出来ないんだろうな。

 まあリュウドウみたいな奴がフラフラして、無断で地下鉄構内にこんな屋台が大量に出来ている時点で治安は終わっているんだが……。


 ふと【マレ飯】の屋台の奥でバンダナを頭に巻いた少年が黙々と仕事をしていた。俺が『あれ? バイトでも雇っているのか?』と聞いた。


「ん? あいつは食い逃げしようとしたからリョウを呼んで、スタンガン銃をぶっ放してとっ捕まえて、飯代分働かしているんだ」


 こんなお店で食い逃げして捕まえられて働かされているなんて、可哀そうすぎる。全く持って割に合わないだろうに。

 話しを聞いていたのかアンズが「ちゃんと働けよ」と煽っていた。


『ところでリョウって誰です?』

「俺の所の娘」

「ニートだっけ?」

「ニートじゃねえよ、アンズ。あいつはダチョウとジョニとマックの世話をしている」

『ん? って事は、あんたはあのダチョウを飼っている牧場の人?』


 かつての大都市では考え付かないであろう、この近くには牛や豚、ダチョウのいる牧場があるのだ。そしてこの牧場でアンズはイノシシの如く荒らしているらしく、出禁にしている。


『おっさんも偉いな。牧場を荒らした奴に格安で飯を食わせていて』

「金を払えば別に問題ない。金を払えばな」


 そう言って食い逃げバイトを睨みつけた。バタバタと動いている食い逃げバイトは気まずそうな顔になっていた。

 するとアンズは煽るように「おい、バイト。ごちそうさん! 片せよ」と言って器を寄こす。バイトは「あ、はい」と戸惑った感じで返事をして器を片そうとした。

 初めてそのバイトの顔を見たのだがバンダナからはみ出ている髪の毛の色が金髪だった。そして俺はこの顔に見覚えがあった。ナズナのヤバいバイトで荷物から飛び出して逃げて行った武装機体兵によく似ている。


『なあ、こいつ、構内放送で言っている武装機体兵なんじゃないか?』

「かもしれないな」

『警察に突き出さないんですか?』

「突き出したら、食い逃げした代金分を働かせられないだろう」


 絶句している俺に、おっさんは「あと数日は働かせないと」と言って睨みつけた。食い逃げバイトは「嘘だろ」と呟く。


 マジで食い逃げする店を間違えたな。本当に割に合わない事をして可哀そうすぎる。


 そんな事はお構いなしのアンズは「ごちそうさん」と言って、マレ飯を出て行った。






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